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    banikuoishii

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    ぶぜまつ夏祭り不穏Ver
    最初こっちのつもりで書いてたんですがツッコミが止まらなくなって進まなくなってしまったので別ルートということで…なんでも許せる人向け。(折れたりとかはないです)

    まぼろしのよるにガラス玉みたいな瞳を覗き込むと、夜なのに青空が閉じ込められているような色に、自分が写っている。
    浴衣の衿からするりと手を忍ばせると、きめ細やかな肌に浮く鎖骨が露わになる。
    「ちょ、っと……」
    一応は手で制す素振りをするが、くすぐったそうに笑った口元は満更でもなさそうだった。それを確認すると、ゆるゆると装いを崩していく。松井がいつも身に着けている首飾りのチェーンに指が引っ掛かって、衿の隙間から飛び出した。

    「……豊前、どうした?」
    松井が昂りを抑えきれないような息をしながら、色を含んだ声を向ける。だが、豊前の耳には入らない。動きをぴたと止めたまま、胸元に目線を落とす。

    「まつ、昨日手入れ部屋入ったよな?」
    「それがどうかした?」
    「そんなところに傷あったか?」
    普段は隠れている、首飾りの当たる肌に、クロスしたような小さな傷跡が覗いていた。抉れたような深い傷。昨日や今日つけたようなものではない、古傷みたいな跡だった。
    松井は乱れた息を整えながら深く息を吐ききり、豊前の手を掴んで指で触れさせる。
    「この傷か。何故かこれだけは、手入れでも消えないんだ」
    豊前の人差し指を掌で覆ったまま動かして、愛おしい宝物みたいに傷を撫でさせる。痛々しい溝を二度、三度と往復する。
    「君は覚えていないだろうけど」
    「覚えてない?」
    俺が? そんな馬鹿な、という思考は声にはならなかった。
    他でもない松井のことを忘れているはずがないのに、全く身に覚えがない。だが松井が嘘をついているようにも見えない。狼狽の色を浮かべた豊前の瞳を覗き込んで、松井はもう片方の掌を包み込むように重ねた。
    「この夜が終わらなければ良いのにね」
    夏の夜はすっかり帳を下ろして、唯一の目印みたいな青が不自然なくらい明るい。相対する赤は、水でも消えない炎のようににゆらゆらと光っている。重ねられた掌から抜け出して、松井の手首を掴んだ。

    「松井、お前まさか」

    土を被ったクダギツネの面が、嘲笑うみたいに見上げてくる。遠くで鳴っているはずの祭囃子がやけにうるさかった。

    ああ、早く松井を探しに行かなければ。
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