サプライズとレモンケーキ 親のツラして弟子の誕生日を祝うじいさんと、ケーキを食べるのが恒例行事だった。
自分の誕生日になるとはて、そうだったかな、老いるのがいやで。などと躱して祝杯を断る癖に、私の誕生日には必ず祝いの席を用意しているのだ。前日からケーキの好みを聞いてくるので、それはそれはいつもに増して鬱陶しくなる期間だった。
彼からのプレゼントは文字通り『サプライズ』であり、アシスタントですら本当の種明かしをされていないような、まさに秘伝の技を毎年一つ伝授してくれるというものだ。
だが当時の私はまだまだひよっ子で、種は分かれどすぐ物に出来るような器用さは持ち合わせていない。ある年は日付を超えても魔法の片鱗ひとつ見えないマジックを教わった末、出来るまで意地でも寝ようとしない私を見兼ねてもう一つケーキが出された。あの日のことは、今でも忘れられない。
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