うそ 信じてくださいと言ったこの男のことを信じることが出来ればどれだけ良かっただろうと思った。切羽詰まった様な断れば死んでしまいそうなツラをしたこの男は数年前に比べれば自信がついた筈なのになぜかその自信は今この場では消え失せているようだった。
「ヤノ、俺は」
誰も信じない。ボス以外。
仕事上でのハッタリならまだしもこいつが求めているのはそれとは違う。信頼に値する存在になって欲しいという願いが透けて見える言葉だった。それであれば俺に返すことが出来るのは“信じない”という言葉だけだ。知っているだろう、俺は誰も信じない。お前だってわかっている筈だ。お前は俺に似ている所がある。
続く言葉を察したヤノが俺の腕を掴み懇願する。お前、俺の腕を触るなんて出来たのかと考えるがそう言えばこいつも人間だったと思う。
「嘘で良いので信じていると言ってください」
懇願するこの男に何を告げるのか。僅かに悩んだ末に口を開くのだった。