名探偵事務所の狗 名探偵事務所の狗
名探偵が営む事務所には、一流の人間が訪れるものだ。
胸を張って新入社員に偉そうに説明していた所長の青年——天馬司は、その数ヶ月後に頭を抱えていた。
一流の事件が難解すぎる。
優秀だと自負する彼の手にも余る内容だった。
世間を賑わす美少女怪盗案件は、本人の希望で部下達に一任してしまったため、これは一人で解決しなければならない。
かの地方は、精霊が住まう霊的に曰く付きの場所である。そう信じられている。
神秘の怪事件。
とは言っても、生まれてこの方、人工物で構成された帝都の都会に住む司からしたら、だ。
土地の怒りに触れたため、豪族の所有する屋敷の犬の首輪を引きちぎり、巨大な青黒い狗が暴れて略奪したというのは、にわかに信じ難かった。
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