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    rinandon

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    rinandon

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    タカカイ♀
    2002のお泊まり会のアレ

    Nocturne「ねえ、あの二人って付き合ってるわけ?」
     夕暮れの中で、伸びていく2つの影を見つめながら、立花ヒロミは隣に立つキョウジュ――……才媛マナブへと問いかけた。
    「へ? え、えぇとそれは…どう、でしょうかねえ?」
     ヒロミの問いに、キョウジュは曖昧でどこか歯切れが悪そうに答える。
    「なによ、はっきりしないわねっ!」
     そんなキョウジュの態度に、ヒロミはイラっとした様子で、腕を組み問い詰めていく。
    「付き合っているならそれはそれでいいんだけど、もし何もないならそれはそれで大問題よっ!」
    「な、何でですか?」
     ヒロミの勢いに気圧されながらも、キョウジュは小さな疑問を口にした。
    「なんでって…それは……」
    「そんなに気になるなら、ヒロミさんが自分で聞けばいいじゃないですかー」
    「い、いやよっ! なんで私がっ! 私よりもキョウジュの方がタカオたちのことよく知ってるでしょうっ!」
    「え、えぇ…」
     ヒロミはよく木ノ宮タカオのことで、怒っている。怒っている、というよりかは目を付けていると言い換えた方がいいか。
     クラス委員であるヒロミにとって、タカオはよく遅刻し、よく昼寝し、あまり勉強もしないで、クラスの風紀を乱す困った生徒だ。
     そんなタカオが「泊まりに来いよ」と女の子を誘ったのを見てしまえば、ヒロミの興味はそちらに向くのは自然のことだろう。
     ヒロミは、そっとキョウジュに耳打ちをする。
    「…だって考えてみなさいよ。付き合っているなら、まあ、そういうこともあるだろうけど…もし何もないなら…風紀が乱れるわ…」
    「風紀が乱れるって、そんな大げさなぁ。私たちまだ子どもなんですよ? ヒロミさんの考えすぎですって」
    「あはは」と軽く笑い飛ばすキョウジュの呟きに、ヒロミは「はぁ」と大きなため息を返した。
    「分かってないわね、キョウジュは。男の子と女の子が2人きりで、同じ屋根の下で寝泊まりするのよ? それがどういう意味か分かってるわけっ!?」
     語気の強いヒロミの言葉に、キョウジュは頬を赤くした。
    「え、えぇっ!? そ、そんな考えすぎですよっ!! 相手はあのカイなんですから、タカオにそんな度胸あるとは思えませんけど……」
     キョウジュとヒロミは、遠ざかっていくタカオたちの影を見送っていく。

     

    「いやあ、わしはなあ。一目見た時から、ビビっと来てたんじゃよ。タカオのことを任せられるのは君しかないと…。いやはや長生きはするもんじゃなっ! この道場も暫くは安泰じゃーあははっ!!」
     老人の豪快な笑い声が、剣道場に響く。
    「……」
     木ノ宮道場――……。
     タカオに連れられるがまま、結局火渡カイは今夜ここに泊まることになってしまった。
     家に顔を出すなり、タカオの祖父が目を輝かせ、あれやこれやと好き放題に話を進めていく。
     カイはそんな老人の戯言を、肯定も否定もせずに聞いていた。
    「あーっ! じっちゃんっ! カイに変なこと言ってんなよーっ!」
    「何を言っているタカオ。これはお前の将来のことを……」
    「いいから出てけって! カイは騒がしいのは苦手なんだよっ!」
     ぐいぐいと祖父を剣道場から追い出し、タカオは改めてカイと向き合った。
    「悪いな、じっちゃんすっかり浮かれててさー」
     カイに軽く謝りながらも、そのタカオの表情も浮かれきっていた。
    「嫁がどうとかひ孫がどうとか…さ、気が早いっていうか…まったく困ったじっちゃんだぜ。あははっ」
    「…血筋だな」
    「ん? なんか言ったか?」
    「何も」
     広い空間に、カイの静かな声音が響いた。
    「なあなあカイ」
     身を寄せるように、タカオがカイへと近づく。
    「なんだ」
    「こーゆうのってなんかドキドキするよなっ」
     照れくさそうにタカオは頬をかきながら、屈託のない笑みを浮かべる。
    「……そうか」
     だが、そんなタカオとは対照的に、カイはただ静かに一言返すだけだった。
    「なんだよ~カイは俺といてドキドキしないのかよ…」
     不貞腐れたように、タカオが唇を尖らせる。
     タカオとて、カイがあまり感情を表にしない人間だと分かっている。
     だがそれでも、もう少しくらい反応してくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。
    「さあな」
    「さあなって…」
     カイの言葉を繰り返しながら、タカオは彼女の顔をじっ、と見つめた。
     目を閉じたまま、腕を組んで何を考えているのか、タカオにはいつも分からない。
     カイの横顔を眺めながら、その輪郭は確かに美しいとタカオは思う。それと同時に、はやくその双眸に自分を映して欲しいとも思うのだ。
    「…」
     タカオの視線に答えるように、カイの瞼がゆっくりと持ち上がった。
     赤みがかった瞳が、タカオを捉える。その鋭さを孕んだ瞳に、ドキっとタカオの胸が跳ねた。
     2人の視線が、絡み合う。絶対的で曖昧な、永遠を思わせるような時間が流れる。
     沈黙。
     沈黙の中でも、タカオの胸は高鳴ったままだ。カイの瞳に自分が映っていることが、ただ嬉しかった。
     この刹那だけは、カイはタカオだけのものだ。
     その優越感が、タカオの心身を昂ぶらせていく。
     不意にカイの表情が綻んだ。
     ほんの少し口の端を上げただけ。だが、そんな僅かな変化でも彼女が笑ったのだと分かるには十分だった。
     その微笑みに不意をつかれたタカオは、目を丸くし頬を赤くした。
    「木ノ宮」
     カイの唇が、小さく動く。
    「な、なに?」
     形の良い唇から紡がれる音に、タカオは耳を傾けその音の続きを待った。
    「つまらない男になるなよ」
    「へ?」
     カイの言葉の意味が分からず、タカオは間抜けな声を上げる。
     カイはそれだけ言うと、再び瞼を閉じてしまった。
     もう話しかけるなとでも言うように、完全にタカオをシャットアウトしてしまう。 
    「カ、カイ……?」
     タカオは腕を伸ばして、その肩に触れようとするも、指先がカイの肌に触れることはなかった。
     タカオはもう一度カイの瞳をみたいと思った。カイの瞳の中に、己の意識を投げかけてみたいと思う。
    「なあ、カイ。……触ってもいいか?」
     男をやってみせろ、そう言われた気がした。
    『つまらない男になるな』
     今はただカイに触れたいという強い衝動が、タカオの中にあった。
     タカオの言葉に、またカイの唇が動いた。
     けれどもそれは音になることはなく、ただ小さな吐息となっただけだ。
     しかし、それでもタカオには十分だ。
     カイが頷いてくれたと解釈し、そっと伸ばしていた指先で、彼女の肩に触れる。
     指先に、カイの体温が伝わってくる。
    「カイ」
     名前を呼ぶと、カイの瞳が開き、タカオを見据える。
      肩に触れていた指を動かし、今度はそっと手の平を彼女の頬へと添えた。
     頬のやわらかな感触と暖かさを感じながら、ゆっくりと顔を近づける。
     このまま触れても――……。タカオは一瞬だけキスをすることを躊躇ってしまう。
     それは、臆したからではなく、ちゃんと言葉として表現していないことに気付いたからだ。
    『キスをしたい』
     そう言うことに恥ずかしさはあるけれど、言ってもいいと思っていた。
     カイの美しさを、瞳を、頬を、唇を……心を、身体をすべて自分のものにしたい。
     カイにもそう望んで欲しい。
     そんな想いを言葉にのせ、語ることが出来ない己の表現力のなさを思い知らされる。
     そんなことを考えていると、不意にカイの手がタカオの後頭部へと回り込む。
    「うえっ!?」
     予想外のことにタカオは情けない声を上げてしまう。
     が、「あ」と思った時にはもう遅かった。
     カイの唇が、タカオのそれに重ねられていた。
     それは一瞬の出来事で、すぐに唇は離れていったが、それでもまだ唇の確かな感覚はあった。
    「ぁ、カ、カイ……」
     カイの何もつけていない唇は、薄い色をしているが、それでもひどく肉感的でタカオの生理を刺激する。
     一瞬の熱気は、2人を繋ぐ。それは、甘美であった。
    「……つまらない男になるな」
     先ほどと同じ言葉を繰り返すと、カイはタカオに背を向けてしまう。
    「あっ……俺……ちょっとトイレ行ってくる」
     



    付き合ってるか付き合ってないか曖昧な2人、なイメージ。もう少しタカオぐいぐい行っても良かったかな……。
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