流れ星をいま 舗装の剥げた車道を、一台の黄色い車がガタガタとその丸みを帯びた車体を揺らしながら走っていた。真っすぐに続く道は大きな真夏の太陽がじりじりとアスファルトを焦がし、溶けたコンクリートの匂いが漂ってくるような錯覚さえ覚える。
「ロー、もうすぐだぞ」
父親の声にうん、とおざなりに応える。サンデードライバーの父が愛するこの車は、車検を毎回どうにかこうにか通過している超ご高齢のビートルである。もはや毎年の自動車税で一台立派な車が買えるのではないかしらん、と思わないでもないが、子供の頃映画でこの車を見てからずっと憧れ続け、ようやく初任給で購入したこれを週末になるといそいそと洗車し悦に浸る父親を見れば何も言えない、と母はすこしも困ったようではない声で笑っていた。
都心の家を出て数十分、高速にのったところでそよ風程度だった冷房が壊れ、それからずっと窓を開けてなんとか暑さを凌いでいた。ラジオは公共放送の夏休み限定の科学電話相談が流れていたが、先ほどから中休みのニュースに切り替わっていた。まだ薄暗い早朝に家を出てから五時間余り。父の遠縁にあたるという人物の家は、北関東の山間にぽつんと建っている。
「ごめんな、夏休みの間ひとりにさせてしまって」
「いいって。今日だって別に送ってもらわなくたってよかったんだ、準備の方をしっかりしてもらいたかったし」
「そんなわけにはいかないだろう。……そもそも、母さんからおれがいない方が捗るって言われてるし」
「ああ……」
医者である両親は、この夏海外で開かれる国際的な医学学会に参加することになっていた。それだけでなく開催国各地の病院や研究施設の視察や勉強会などがあり、それらの期間を含めると一ヵ月弱、国を離れることになる。まだ幼い妹のラミは両親に同行するが、十三になるローは忙しい両親の負担を考え国に残ることにした。最先端の医療や各国の優秀な医師や研究者が集う場に興味はもちろんあったが、まだ子供である己は参加することができない。貴重な夏休みを一ヵ月も見知らぬ土地のホテルに缶詰めになって過ごすよりは、ありったけの本を持ってど田舎で過ごす方が気楽だった。それに、子供っぽいと笑われそうで言葉にはしなかったが、家族から離れて暮らすことは大人になったような気がしてワクワクもしていた。たとえ、会ったこともない遠縁の家に預けられるのだとしても。
「あっ、見えてきたぞ。あの白い壁の家だ」
急傾斜の坂道をビートルがゆっくりゆっくり進む。白いセンターラインがいやに眩しく映っていた。舗装がさらに甘くなり、もはや砂利道になりかけている。エンストだけはしてくれるなよ、と父が祈りながらハンドルを握っていたが、ふっと並木の葉が開けた先に見える白亜の壁を見つけると電子書籍リーダーに視線を落としていたローの背中をパシンと叩いた。
「イテェッ! ……うわァ」
加減を知らない父に抗議しようと顔を上げたローの目に、真白い光が飛び込んできた。眩しさに目を擦り、パチパチと数度瞬く。光になれた目でよくよく見れば、白い光は真っ白な壁で、青い屋根が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「お、出迎えてくれてる」
緑の蔦がアーチを描く門柱を通り抜け、玄関前のロータリーでゆっくりとビートルが止まる。
「遠くからお疲れ様。久しぶりだね、トラファルガーくん」
「やあまったく。お久しぶりです、ホーミングおじさん。すみません、突然こんなお願いをしてしまって」
玄関前に立っていたのは、豊かな金髪を背に流し、口髭を生やした穏やかそうな初老の男と、同じく温和な雰囲気の、少女めいた女性だった。その微笑みを見て、ローは母が子供の頃に祖父に買ってもらったという、仏蘭西人形にどことなく雰囲気が似ていると思った。
「気にしないで。息子も大きくなっちゃって、お家が静かで寂しかったの。ロー君が来てくれたら楽しくなるわね、って、この人とも話していたの」
女性は男の妻らしい。ローに視線を合わせるように身を屈めると、帽子越しにローの頭を撫でる。
「疲れたでしょう、こんな山奥まで。フルーツジュースが冷えてるわ、さ、入って」
ローの手を握り、女性が玄関扉まで歩く。母の、アルコールでかさついた手とは違う、柔らかくてあたたかな手のひらだった。
父とホーミングが荷物を運び出している間、ローは冷えたグラスに注がれたフルーツジュースを飲んでいた。
「どう? お口にあうかしら」
「……お、おいしい、です」
「まあ、よかった!」
真夏の一番暑い時間帯にも関わらず、家の中はひんやりと涼しかった。ずず、とジュースをストローで吸いながら、周囲に視線を向ける。室内の至る所に花が活けられ、あるいは観葉植物が置かれている。広々としたリビングと、家族の団欒を見渡せるアイランドキッチン。一際ローの目を引いたのは、家の間取りの中央にある中庭だった。真ん中には小さな噴水があり、ラミが見たら喜んで駆けていきそうだ、と思った。
「気になる? あれはね、パティオっていうの」
「パティオ?」
ローの視線に気づいたのか、隣に座っていたホーミングの妻が自分用のアイスティーを手にそう言って微笑んだ。
「スペインの、アンダルシア地方に多い家の造りなの」
「へえ……きれい」
「そうでしょう。おばさんもね、お気に入りなの」
ローに宛がわれた部屋は二階の角の一室だった。マンション暮らしのトラファルガー家がこの一室にすべて収まるのでは、とは言いすぎだが、そう外れてもいない広くて立派な部屋だった。ベッドシーツはよく日に当てられ、太陽の香りがする。備え付けのマホガニー材の机は傷一つなく、元の持ち主の物なのか英語とスペイン語の辞書と地図、それに何冊かの歴史書が置かれていた。ローの荷物は着替えと電子書籍リーダー、スマホとイヤホン、お気に入りの帽子と、たっぷり出された夏休みの宿題と自習用のテキストだけだった。反対の角の部屋は夫婦の寝室で、真ん中の部屋は使われていないようだった。
父とホーミングによって二階へと運ばれたあと、ホーミングの妻の手料理を食べた。敷地内で育てているという家庭菜園から今朝採れたという夏野菜のパスタと、食後のコーヒーを飲んだ父はまた古いビートルに乗って坂道をガタゴトと下っていった。
「ロー。いい子にしているんだぞ。寂しくなったらいつでも連絡していいんだからな」
「大丈夫だよ。父さんこそ母さんとラミを頼んだよ」
ローの言葉に、父は眼鏡越しにニッと目を細めた。
「……任せておけ!」
黄色い車体が見えなくなるまで見送ると、不意にジーワジーワと鳴き続ける蝉の声が大きいと感じた。先ほどまでは気にならなかった、光と影のコントラストの激しさにくらりと地面が揺れるような気がして、ぎゅっとシャツの胸元を握る。
「ロー君、疲れたのならお部屋で休んでいていいのよ」
「……ううん、大丈夫。それよりおばさん、後片付け手伝うよ」
ローが永遠に忘れることのない一夏が、この日始まったのだった。
ホーミング家の朝は、まず六時過ぎにホーミングが起き、コーヒーを煎れることから始まる。余談だがローはサイフォン式のコーヒーメーカーを初めて見た。夫婦二人分のコーヒーとクッキーを持って夫婦の寝室に戻り、寝起きの夫人と共に飲む。そうして二人そろってキッチンに戻り、夫人は朝食の準備、ホーミングは届いた新聞を読む。この頃ローが起きだし、出来上がった朝食をテーブルへと運んで三人そろって手を合わせる。食べ終わった後は自由時間だ。ホーミングは書斎で仕事をし、夫人は家庭菜園の世話をしたりパティオで読書をしたり自由に過ごしている。ローは午前中の涼しい時間帯に宿題に取り掛かる。
『ローさんがいないなんてどうなるかと思ったけど、これならなんとかなりそう!』
『あっローさん、この数式なんだけど……』
『キャプテンそっちって暑いの? おれ溶けそうだよ……』
スマホの分割された画面にはそれぞれペンギンとシャチとシロクマの帽子をかぶった三人の子供の姿が映っていた。彼らは近所に住む幼馴染で、ローが中学受験で進学先が分かれてからもずっと一緒に遊んでいる。夏休みの宿題は今まで三人そろって取り組んでいた。
「シャチ、まずは着替えてこい。ペンギン、おまえ今年受験生だろ、それ中二で習うヤツだぞ。ベポ、こっちは割合涼しいけど、虫の声がすげぇ」
遠く離れていても、いつもと同じように他愛もないことを話しながら各々の宿題に取り掛かる。カリカリとシャーペンが紙面を走る微かな音と、開け放した窓から聞こえる蝉の大合唱。時折上がる質問の声に答えつつ時計を見れば、十一時になろうかとしていた。
「じゃあ今日はここまでだな」
『疲れた~!』
ローのその言葉をきっかけに、シャチの帽子をかぶった少年が鉛筆から手を放しググッと両腕を上げて背を反らした。他の少年たちも思い思いに体を伸ばしたり、机に身を預けたりと緊張の糸から解放されている。
『あっ、そうそう。俺とペンギン、来週から二週間国体の練習に行くんすよ』
『そうなの。キャプテンもいないし、シャチたちもいないからおれ寂しいよ』
「そっか、そういえばそんなこと言ってたな。頑張れよ、向こうでも宿題忘れんなよ」
『アハッ、ローさんマジで母ちゃんみたいなこと言う』
「おまえらなぁ……!」
コンコンコン。
控えめなノックの音に、それまでの集中の糸が切れた反動でガヤガヤと騒いでいた画面向こうの三人の声がピタリと止まった。
『それじゃ、お疲れさまでした』
『向こうで体調崩さないでね』
『ローさんこそ読書感想文ちゃんと書けよ~!』
「ったく……! おう、じゃあな」
パポン、と気の抜けるような音と共に画面が暗転する。それとほぼ同時に、扉が静かに開いた。
「ロー君、お勉強はどう? おやつにしましょう」
「いま終わったところ。おばさん、ありがとう」
ダイニングテーブルには真白いヨーグルトのババロアがガラス製の器の上でぷるんと輝いていた。切り分けられたあと、ミントの葉を添えて差し出される。
「ロー君はお勉強ができて偉いわね」
「医者になりたいから。あとは、普通に知らないことがわかると楽しいし」
そうしているうちにホーミングもやってきて、昼を食べ、また勉強に戻る。初めの一週間は、そうして過ぎていった。
「ロー君もそろそろこっちに慣れた頃だろう。釣りに興味はないかい」
「釣り?」
夏休みも二週間目に入っていた。ペンギンとシャチは予告通り今日から国体の水泳強化選手として合宿に参加しており、ベポも家族で北海道旅行に行くことになり恒例の勉強会はなくなっていた。もとよりローの計画通りに進んでいたので、三人ともドリルの類は終わり、あとは絵日記だったり自由研究であったり、時間が経たなければどうしようもないものだけの状態だった。電子書籍リーダーに詰めるだけ詰めてきた本も読み終わり、時間を持て余していたローにホーミングがそう声をかけた。
「ほら、この家の周りに小川があるだろう? ちょっと上流に行くと、今の時期は運が良ければ鮎が獲れるんだよ」
「へえ」
「ここに来てから外へはあまり出ていないだろう? せっかく都会を離れたんだから、自然と遊んでみるのもいいのではないかと思ってね」
にこにこと微笑みながらそう言うホーミングの手には、すこし古ぼけた釣竿が握られていた。
「そうですね。じゃあ、ちょっと借りてみようかな」
「うんうん。子供は外で遊ぶのも大切だからね」
「水筒に麦茶をつめておいたわ。あとはおにぎりね。山道を逸れちゃいけませんよ、危ないことはしないで、暗くなる前に帰ってきてね」
「わかったよ、ありがとうおばさん」
簡単な地図と、水筒と弁当が入ったリュックとクーラーボックスを担いで白亜の家を出る。教えられた通りに小川を遡っていくと、やがてゴツゴツとした石が転がる岩場に出た。川幅はそう変わらないが、水の勢いは増している。サンダルを脱いで足を浸せば、火照った皮膚に冷たい水が染みる。
「うわっ、冷てェ!」
思わず叫んだあと、誰に憚る必要もないのにハッと手で口を覆った。カサッと草の擦れる音に振り返れば、リスのような小型の動物が走り去っていったようだった。
「魚って、なにが釣れンだろ。さすがに鮎はもっと上流だろうし」
ローは魚が好きだ。焼き魚もいいし、煮魚もいい。鮎は以前、家族でキャンプに行ったときに食べたことがある。父と二人、日が暮れるまで粘って釣れず、結局諦めてキャンプ場近くの鮎釣りの店で買って食べた苦い思い出がよみがえる。
「おれが釣ったって言ったら、父さん悔しがるかな」
にひ、と笑いながら釣り針に餌をつける。ラミはこれが苦手だった。父さま兄さまが手を洗うまでラミは近づかないから! そう言って母に抱きつく妹に、父と揃って落ち込んだ。そういえば昨日はホーミングが車に乗って下の方の町に出かけていたな、とウゴウゴとくねる虫を掴みながら思い出した。釣竿はもともと持っていたとして、生餌は買ってこなければならない。その労に報いるために、鮎とはいかないまでも、三人分の魚くらいは釣れるといいな、と念じながら竿を振った。
「あはは、亀かあ」
「完全に想定外だった……」
「あは、あはは! まあそんなものだよ、落ち込まないで」
「そうよ、この人だって釣りはからっきしなの、息子の方が何匹も釣っているのに、この人ったら糸を絡ませちゃって」
その日の夕食は庭で採れたトマトとズッキーニの冷製パスタ、蒸し鶏のサラダとコーンスープだった。ローの収穫は見ての通りゼロだ。何度かかかりはしたものの餌だけ取られて終わり、最後の最後、カラスがカアカア、あるいはアホーと鳴く頃に、川辺の岩の上でじっとローを見つめ続けていた亀になんとなく情が沸いて持ち帰ってきた。
「懐かしいわね。たしか息子が同じように亀さんを拾ってきたときの水槽があったはずだわ。明日はそれを洗ってその子のお家を作ってあげましょう」
「いや、やっぱり逃がしてきます。軽率でした、生き物を拾ってくるなんて」
ローが慌ててそう言うと、ホーミング夫妻はカトラリーを置いてローの目を見つめると口を開いた。
「ロー君。この子はどうやら外来種のようなんだよ。きっと誰かが飼いきれなくなったかなにかで捨てたんだろうね。きみに見つけてもらえてよかった、そうでないとこの子も、あの川の子たちも困っただろうからね」
「外来種……いちゃダメってこと?」
ローの言葉に、ホーミングはううん、と首を捻った。口髭を撫で、そうだなあ、と天井を見上げる。
「自然にとってみれば、絶滅も繁栄も自由なんだろうけど。人間の勝手で壊していい道理はないからね」
「家族が増えて嬉しいわ。動物のお世話をするの、私大好きなの」
夫人の言葉を皮切りに、食事は再開された。後片付けを手伝いながら、ローは洗い物をする夫人を見上げ、一つ尋ねた。
「なあ、おれと同じで亀を拾ってきた息子ってどんな人なの?」
洗い終わった皿を受け取り布巾で拭っていたローの言葉に、夫人は微笑んでこう返した。
「そうね。よく、泥だらけ傷だらけになって帰ってきていたわ」
その晩、ベッドの上でローは久しぶりに父へ電話をした。向こうは早朝だったらしく、無精ひげを生やした父が寝ぼけ眼で出る。
『おはよう、ロー。そっちはいま寝るところかい?』
「うん。……父さん、ごめん、起こした?」
『気にするな。逆によかったよ、今日はちょっと郊外に出るから早かったんだ』
「母さんとラミは元気?」
『もちろんだよ。ラミはこっちのマネージャーがよくしてくれて、すっかり懐いてる』
「それはよかった」
父が昨日から保温状態だっただろう煮詰まったコーヒーをカップに注いで一口飲み、げえっと顔を顰める。それから二三の近況報告をしあい、ローは本題を切り出した。
「おじさんの息子ってなにしてるんだ。っていうかおじさんはなにしてる人なんだ」
苦い苦いコーヒーを飲んでやや顔をスッキリさせた父がぱちくりと目を瞬かせた。
『あれ、出る前に話さなかったか』
「聞いてないよ!」
『そうかそうか。悪かったなぁ』
なはは、と寝癖のついた後頭部を掻きながら父が笑った。
『といっても父さんも詳しくは知らないんだが……』
──ホーミングおじさんは父さんの母方の祖父の弟の娘の旦那さんの兄の子供でね……なに? それはもはや他人だ? まあ細かいことは気にするな。ご実家は随分裕福で、なんでも遡ればスペインの貴族だったとかなんとか。
「はあ、スペイン」
それでこの家の造りなのか、と納得したところで、父の言葉の続きを聞く。
──東京や神奈川、長野なんかの保養地に土地を持っていて、そこの不動産管理をしているそうだ。昔は再開発だなんだで苦労されたようだけど、いまは落ち着いているようだよ。息子さんは、独立して貿易関係の仕事をしているとは聞いているよ。
「ふうん。金持ちだってことはすごくよく分かった」
『こらこら。……ともかく、あと三週間弱か? ローも元気でな、宿題はどうだ?』
「もうあらかた終わったよ。今日は釣りに行った。鮎が獲れるって」
『そうか! 鮎釣りか、いいなあ。父さんもやりたいな』
「そりゃ帰ってきたらの話だな……っと、そろそろ支度の時間だな。じゃあな、父さん。母さんたちにもよろしく」
『ああ。おやすみ、ロー』
暗くなったスマホを枕の脇に置き、ガーゼ生地のブランケットをかけて横たわる。明日は今日より上流の方へ行ってみよう。瞼を閉じれば、今日の川のせせらぎが響いてくるようだった。
「行ってきます!」
「気をつけていくんだよ」
ジャッとペダルを踏みしめる。ホーミングが、昔子供が使っていたものだという自転車を貸してくれたのだ。油を挿して手入れし直された自転車はローにはすこしばかり大きかったが、その分ぐんぐんと前に進んでいく。座ってしまうと足が届かないのでずっと立ち漕ぎになってしまうが、砂利道に変わるところまで走っていくよりずっと早く着いた。適当な木の下に自転車を停め、この先は歩いていくことにする。砂利が少しずつ大きくなっていき、やがてローの頭より大きいほどの石があちこちに点在し始める場所に辿り着いた。太陽は白くギラギラと輝き、ひっきりなしに汗が伝う。だが昨日と同じように足を水に浸せば、火照った肌が急速に冷えていく。麦茶を飲み一息つくと、ぎゅっと釣竿を握りしめた。
その日の成果はザリガニと小さな雑魚数匹だった。それらはホーミング夫妻に見せたあと、小川に流す。亀は大きな硝子の水槽に砂利や岩、水草などを置いてもらって心地よさそうに甲羅を天日に干していた。
「昨日に比べたら随分上手くなったね」
ホーミングの言葉は優しいままで、ローはすこし熱くなった頬でこくりと頷く。
「亀さんの名前はどうしましょう?」
「飼っていた子はなんて名前だったけ」
「いやだあなた、忘れてしまったの? グレートタートルマンちゃんよ」
「……いやダセェ!」
それから二日、釣りに通った。ぼうっと川のせせらぎと蝉の命の合唱を聞き、木陰で図鑑とにらめっこしては捕まえた魚や虫の名前を知り、流れていく白い雲を眺めていたりした。
本当なら、今頃は塾に行っているはずだった。ローが行こうとしている高校は国内有数の進学校であり、国内外の有名大学への進学率も高い。そして何より、父の出身校でもある。夏休みは学力を伸ばすチャンスだ。ローのライバルたちはいまも机に向かい、勉強している頃だろう。夏休み明けの模試が最初の試金石になる。ライバルたちに一歩どころか二歩三歩遅れている自覚はある。一向にかからない釣竿を握り、キラキラと陽光をうけて輝く水面をぼうっと見つめながらローは細く長く息を吐いた。
焦ったところでなにも変わりはしない。山奥の田舎に来たことがなんだ。両親について行ったところで結果は同じだ。それでも腹の奥でぐるぐると不安が渦巻く。ピンと糸が張り、慌てて引っ張るとすでに餌だけ取られて空振りに終わった。だめだ、集中できてねえ。鎖骨の窪みに溜まった汗を拭ってもう一度竿を振った。
釣りを始めて五日目の朝、ローは昨日と同じように自転車のかごに弁当と水筒を詰めたカバンとクーラーボックスをいれて山道を進み、いつもの場所で自転車を降りて釣り場へと向かった。昨日までよりもっと川の中州、大きな岩場を伝って水の勢いが増す辺りまで近づく。足場は不安定だったが、川の淵より魚の影が多い。よっ、と勢いをつけて竿を振ろうとした瞬間、声がかかった。
「危ないよ」
「えっ? ……うわぁッ!」
声のする方角を思わず振り返ろうとして、湿った苔に足を取られた。独特のフワッと浮かぶような浮遊感を背中側に感じながら、ローは視界一杯に広がる青い青い空を見ていた。
ブクブクと浮き上がる透明な泡。揺れる青と、キンと冷たい水が肌を突き刺す痛み。あまりに透明で、あまりにも美しかった。一瞬時を忘れ、その美しい光景に感じ入る。だが、次に感じたのは呼吸の出来ない苦しさだった。
「ッげほっ! ガッ……!」
無我夢中でもがく。呼吸のために口を大きく開けると水が入り込んでくる。息苦しさにまた口を開くとまた水が、と悪循環に陥り、頭の片隅に“死”がちらついた。
「落ち着いて! 足がつくよ、ぼくを見て」
頭上からの声にはっと視線を上に上げる。すこしくすんだ金髪が、太陽の陽射しを受けてキラキラと輝いていた。
「水は上まできてないよ」
「……あっ、本当だ……」
声変わりもまだの、鈴の音のような柔らかな声の言う通り、落ち着いて立ってみれば川の水はローの腰に届くか届かないかぐらいのものだった。勢いがあるためしっかり足をつけていても掬われそうな危うさはあるものの、先ほどのような溺れるような危機感はない。
「よかった」
岩の上で膝を抱えてしゃがみ込んでいた少年がそう言って笑った。重たく伸びた前髪が目元を覆い隠していたが、風に揺れる木漏れ日のように、石榴みたいに赤い瞳が覗いていた。
「お前が驚かせるから落ちたんだろ」
「ご、ごめんね……。でもあそこはいきなり勢いが強くなるし、もうちょっと先になると足が届かないほど深くなるから」
河原に座り込み、濡れたシャツを脱いで絞る。下着もハーフパンツも濡れていたが、外で裸になることはローのプライドが許さなかった。濡れて皮膚に貼りつく不快感に耐えながら、隣に座った少年に苛立ちをぶつける。自分への不甲斐なさを多分に含んだそれを、少年はびくりと肩を竦めながらも受け流す。
「おまえ、ここら辺の子か? 今まで見かけなかったけど」
少年は薄水色のドレスシャツに黒の半ズボン、白いソックスに革靴を履いた出で立ちで、大自然溢れるこの風景とはどこかそぐわず浮いて見えた。
「この一週間だけ戻ってきてるの。この道を真っすぐ行ったとこ」
少年が指をさした方向は、ローがやってきたホーミングの家の方角でもあった。
「ふうん。ずいぶん一人で遠くまで来たんだな」
ホーミングの家から次の家はだいぶ山を下ったところにある。
「そうかな。そうでもないよ」
「おまえ、いくつなんだ」
「ぼく? えっと……そう、十三歳」
「嘘だろ、てっきり年下だと思った」
少年はローより頭一つ分ほど背が高かったが、それにしては頬の丸みや言葉の幼さから年少のように思えた。
「背が高いんだな」
「えへへ、兄さんも高いよ」
ローは中一の平均身長よりも幾分か小さかった。父は大柄な方であるから、成長期がくれば一気に伸びるはずと信じて適切な運動と食事を心がけてはいるものの、目の前の少年はそういった苦労とは縁がなさそうだった。
「兄貴がいるのか。そいつは?」
まさか弟を一人で遊びに行かせるわけがないだろう。未だにローは妹が一人でマンション一階のコンビニに行くのさえ許さないのだ。子供の脚で三十分はかかるだろう距離を一人で行かせるはずがないと思いそう尋ねると、少年はふるふると首を横に振った。
「兄さんはいないよ」
「? あっちの林の方にいるのか?」
「ううん。ここにはいないよ。遠くにいるの」
「……遠くに?」
「うん」
それって離婚とかで? 喉元まで出掛かった言葉を咄嗟に飲み込む。ローは周囲に合わせたりおもねったりするような性格ではなかったが、無暗に詮索をして人を傷つけて喜ぶ性格でもなかった。少年はローの戸惑った表情に気付いた様子もなく、川底から拾い上げてきた釣竿を持ってニコニコと笑っている。
「そっか。でも一人であんまり遠くに行くんじゃないぞ。そっちの方が危ないだろ、川よりも」
「そうかな? ぼく、ここには詳しいよ」
「それでもだ。心配するだろ」
「……うん、わかった」
少年はちいさく顎を引いて肯いた。柔らかくウェーブかかった金髪がさらりと首筋を撫でるように揺れる。どこもかしこも丸い。ひょろりと伸びた脚にはいくつも絆創膏が貼られ、なんとなく鈍くさそうに見えた。
「なあ、なんて名前なんだ」
「名前?」
固く絞ったシャツを砂利の上に広げる。じりじりと皮膚を焦がす太陽の熱にふうっと息を吐きながら尋ねると、少年は猫のようにぼうっと空を見上げ、しばらくの間をおいてこう答えた。
「コラソン」
「コラ……? へぇ」
「変な名前だと思った?」
「べ、別に」
図星をさされてローはそっぽを向いた。コラソンのやけに血色のいい唇が弧を描く。
「あだ名だよ。呼びにくかったらコラさんって呼んで」
「はあ? なんでおまえをさん付けしなくちゃならねェんだ」
ぎろりとコラソンを睨む。だがローの子供にしては険しすぎる視線を受けても少年は怯まなかった。まるで気にした風もなく、くふふと手で口元を覆って笑う。
「だって、ぼくの方がここにずっと長くいるもん」
「……チッ、なんだよそれ」
コラソンは言葉の通り、この辺りのことについて詳しいようだった。釣りを再開したローに、ここより向こうの方がいいだのすこし竿を引いて誘いだす方がいいだの、人見知りしそうな風貌からは思いもつかないほどよく喋った。
「全部兄さんの受け売りなんだけど」
「難しい言葉をよく知ってるな」
ローは子供ながらに深く刻まれた眉間の皺によって、初対面の人間からは気難しく思われがちだったが(そしてそれはあながち間違いでもない)、面倒見のいい性格である。というよりも、放っておけないと言ったほうがニュアンスとしては近いかもしれない。歳の違うペンギンたちと友人になったのも、この気性がきっかけだった。
コラソンという少年は歩けば転ぶ、座ればひっくり返る、釣竿を持たせれば糸を絡ませるというとんでもないドジでローの度肝を抜いたが、それはコラソンの中では日常茶飯事のようだった。
「おまえ、ものすごいドジなんだな」
「うん、よく言われる」
クーラーボックスの中にはヤマメが一匹泳いでいた。太陽が木の影を斜めに伸ばし始めた頃、釣果を担いで立ち上がったローに合わせて立ち上がろうとして転んだコラソンに手を伸ばしつつローがそう言うと、その手を取ってニカッと笑う。きれいな歯並びだな、と思いながらよっと一声上げて引っ張る。身長の割に軽い体重だった。
「コラさんは歩いてきたのか?」
自転車を立てかけておいた場所まで一緒に歩く。そこにはやっぱりローの自転車しかなかった。
「うん」
「送って行くよ」
ローからすれば当然の申し出だった。子供を一人で歩いて帰すということはローの想像の範疇を超えていた。だがコラソンは首を横に振った。
「ううん。大丈夫」
「だってこれから暗くなるぜ」
「平気、慣れてるから」
「慣れてる?」
ローの声が低くなる。出会った時から嫌な想像はしていた。兄貴はいるが遠く離れている。ひとりで山まで来て遊ぶ。帰りは暗くなっても平気。家庭の崩壊、ネグレクト。社会問題でもあるそれらの事柄と警察やホーミングへの相談までローの思考が飛ぶ。その表情を見たのか、コラソンが慌てた様子で手を振った。
「だっ、大丈夫! ほんとの本当に! お迎えがくるから」
「えっ、マジか」
「うん、まじ、まじ!」
コラソンは川の向こう側を指さして笑う。にへ、と唇を引き攣らせた笑顔は今日も何度か見たが、不気味と愛嬌の半ばにあるような中途半端な笑みで嘘か真かローには判断がつかなかった。
「あっちから来るの。だから大丈夫」
「……そうかよ。ならいいけど」
自転車を引きながら歩く。最後に振り返って見ると、大きな赤い太陽を背にコラソンが大きく手を振っていた。
「またな、ロシー!」
「……ッ! うん! またね、ロォ!」
「今日は子供と会ったよ」
その日の夕食の時間、ローの言葉に夫人たちは顔を見合わせた。
「あらあら。珍しいわね」
「そうだねえ。麓の子たちはめったにここまで上がってこないから」
「そうなの? でもなんだか変な奴だったよ、すごいドジで」
ローの釣ってきたヤマメは塩焼きになった。三人で等分すると一かけらほどになったが、ホーミングたちは喜んで食べていた。小さな骨を器用に箸でとりつつ、ローは首を傾げた。
「このヤマメもそいつがたくさんいる場所を教えてくれたんだ。なんでもそいつの兄貴が見つけたんだって」
「……そうなのかい」
ホーミングの言葉にローが肯く。
「この一週間はここにいるんだってさ」
夫人の視線がチェストに置かれた卓上カレンダーに向けられた。
「そう。じゃあこの一週間は、たくさん遊べるわね」
翌日は二人分のおにぎりと水筒を持って、コラソンと出会った場所に向かった。
「あっ、コラさん」
「ロー! 今日も来たんだ」
コラソンは水切りをして遊んでいたようだった。投擲の体勢を変えてローに向き直ったところで右足が左足に引っかかった。そのまま転ぶ前に、ローはタッと走ってその背を支えた。昨日も感じた通り、身長に対して体重が軽すぎた。
「ああ。これ、世話になってるおばさんから。おまえの分だって」
アルミホイルに包まれたおにぎりと、わっぱの弁当箱に詰まれたおかずを見せる。卵焼きにウインナー、ほうれん草とコーンのバター炒めに、真っ赤なプチトマト。それを見て、コラソンはムズムズと口元を震わせて押し黙ってしまった。
「どうしたんだよ。好き嫌いなんて言うなよ、人がせっかく作ってくれたんだ」
ローの言葉に、もじもじと服の裾を弄りながらコラソンが首を横に振った。
「ない、ないよ。ありがとう。お昼が楽しみだね」
「……? ああ、そうだな」
その日はコラソンが彼の秘密基地だという場所に案内してくれた。川から森の方へ入り、山道を背に伸びた大きな楠の影。洞窟とも言えない小さな窪みに、それはあった。
「じゃあん。すごいでしょ」
コラソンがえへんと胸を張る。古びた一人掛けのソファと廃材で造られた机。その上には看板らしきものが置いてあったが、字が掠れて読むことができなかった。
「……ンキ……テファ……?」
「本当は合言葉がないと入れないんだけど、ローは特別。あっでも、秘密の宝物の場所は内緒!」
「いやなんでもいいけどさ」
そこは随分年季の入った秘密基地だった。ソファも机も埃を被って苔が生い茂り、長い間誰も訪れていないようだった。
「だれとの秘密基地なんだ」
ローは秘密基地を作ったことがなかった。都会に住んでいれば誰にも見つからない、権利者のいない土地なんて無に等しい。昔のアニメ映画などではお決まりのそれに憧れがないと言えばうそになるが、広い物置も土管の積まれた空き地もツリーハウスができるような大きな木も本当になにもないのだから仕方がない。
「兄さんとぼく。あとは兄さんの友達」
「そいつらは?」
「ずいぶん前に別れちゃった。いまはだれもここにこないよ」
埃を被ったソファの表面をパンパンとコラソンが叩く。ぶわっと宙に埃が舞い、陽光に照らされてキラキラと輝いた。
「おい、きたねェだろ!」
「ドジった! ごめん!」
「そりゃドジじゃねェ!」
ワアワア騒ぎながら埃が落ち着くのを待ち、ローは持参していたアルコールの除菌シートでソファを拭くとその上にようやく腰を下ろした。
「ローってきれい好き?」
「清潔な方がいいだろ、汚いより」
「それもそうだ」
コラソンは昨日と似た上品な出で立ちの割にそういった点は気にならないのか、苔むした切り株の上に無造作に座る。
「兄さんもそう。座るときはハンカチとか敷いてた」
「へえ」
「友達のだったけど」
「いや最悪じゃん」
自分の敷けよ、と言うとコラソンはニコニコと笑って肯く。
「ぼくもそう思うけど、兄さんの友達は自分から差し出すんだ。おれのを敷いてくれ、いやおれのだ、って」
「女王様かよ……」
周りにいたら嫌なタイプだな、と何となくローは感じた。ここにベポたちがいたならば、ローさんそっくりじゃん、貢がれ体質、などと余計なことを言って張り倒されていただろうが。
「兄貴たちとは歳が離れているのか?」
時の中に置き去りにされたような秘密基地の残骸を見渡す。コラソンの兄たちがもうこういった子供の遊びから離れて久しいならばこの状況も頷ける。ローがコラソンに視線を向けると、彼は重たげな前髪を揺らして口元を歪ませた。
「……兄さんはぼくよりずっと、ずっとずっと頭がいいから」
「……?」
それから弁当を食べた。おにぎりの中身は梅干しと鮭だった。ローは梅干しが苦手だったが、コラソンの前で好き嫌いがあると知られるのは何となくプライドが許さなかった。しかしコラソンは梅干しが好きなのだと大喜びをしていたから、ローは「そんなに好きならおれのもやるよ」とまんまとコラソンの鮭おにぎりと交換することができた。苦手なものを押し付けられたとも気付かず、コラソンは「ローって優しいんだね!」とキラキラとした眼差し(想像だ。なぜならコラソンの目は重たい前髪でいつも覆い隠されている)で見つめてきた。なんだか犬に対してボールを投げたふりをした時のような罪悪感が芽生えたので、今度はコラソンの好きなものを本当に分けてやろうと思った。それからは森の中を探検し、朽ちた道祖神の像を見つけた。途中まで舗装された山道は獣道に変わりつつあり、草が生い茂るトンネルの前には黄色と黒の規制線が張られていた。その隣にはペンキの剥げかけた看板が立っている。
「この先は行っちゃだめだよ。道がわかりにくいし、途中でいきなり崖とかになってるから」
トンネルの前でコラソンが立ち止まった。ぽっかりと口を開けたトンネルの先は真っ暗で、大きな怪物が獲物を待ち構えてじっとしている、そんな気がして背筋がぞわりと粟立った。
「コラさんでもだめなのか?」
コラソンは数十メートル歩くごとに転んだり木の枝に頭をぶつけたりと、本人談ドジっ子、ローの見立てでは注意力散漫な気質を見せていたが、地形の把握に関してはしっかりとしたものだった。転びこそするものの、ローを先導する足取りは迷いがない。小川のせせらぎ、木漏れ日の葉の擦れる音、天高く飛ぶ鳶の声。一つ一つ、声変わりを迎える前のソプラノで教えてくれるコラソンを、ローはすっかり信頼していた。そんなローの視線を受けても、コラソンは首を横に振るだけだった。
「だめだよ、ロー」
その声は優しかったが、どこか有無を言わせない強かさが籠っていた。前髪の合間からあの赤い瞳が真っすぐにローを見つめていた。
「わ、わかったよ……」
ダメだと言われていることを無視して何かをしようとするほどローは愚かでもなかったし、その時のコラソンの表情がそれまでになく真剣に見えたので、ローはすこしだけ戸惑いながらも頷いた。ここまで来るのに結構な時間が経っていたので、トンネルの先を抜けたとしてもホーミング夫妻との『暗くなる前に家に戻る』という約束を守ることは難しい。
「それじゃ戻ろう。ぼくのお気に入りの場所があるんだ」
コラソンが元来た道を駆けだす。
「おいっ、走ったら転ぶぞ!」
「そんな転ばないよ、ッ」
「コントじゃねンだぞッ」
コラソンという少年は不思議な雰囲気を持つ子供だった。ローの知る限り一番のドジで、何もないところで転んでありえない回転でもって坂を転がり落ちていくような少年で、よく笑い、大げさに驚き、コロコロとよく表情を変える。だが一度口を閉じれば、不思議と彼の周りから音が消えたかのように静寂が満ちる。
「これは草笛にいいんだ」
薄紅色の唇に青々とした葉をつけ、ふうと頬を膨らませる。ピィーッ、と鳥のような、風がビルの合間を抜けていくような、そんな物悲しい音が森の中で響く。
「真昼の月が好き。いつだってぼくらを見てくれているような気がするでしょう」
ローの知らないことを知っている子供だった。これは鹿の足跡だとか、野兎の糞だとか。ザリガニ釣りのコツや、大きなカブトムシが集まる木だとか。葉物野菜が好きで、チーズだとかピザだとか脂っこいものが苦手。よく転ぶわりには怪我をすることもなく、運動神経が悪いわけではない。昔のことをよく知っていて、ローの持つスマホに興味津々。無邪気で、大人びていて、うるさいほどに元気で、真夏の森の影のように静かだった。その白い頬に、けぶるように輝く金の髪に、いやに紅い唇に視線を捕らわれていた。彼のことをもっと知りたいと思った。その微笑みを向けられたい。ドジな彼を守って、彼の喜ぶさまを間近で見て、ずっと一緒に、彼の傍にいたいと強く願う。気付けばコラソンがここにいるという一週間が、明日で終わろうとしていた。
ジーワジーワと鳴いていた蝉の声が、ひぐらしに変わっていた。コラソンは初めて出会った岩場に座って、川のせせらぎに白い足を浸して遊んでいる。毎日日が暮れるまで遊んでいたはずなのに、彼は一向に日に焼ける様子がなかった。同じように白い肌をしていたはずのローはこんがりと小麦色の肌に日焼けしているというのに。
「今日はおばさんたちが町に行ってるんだ」
同じように足を浸しながら、ローが口を開いた。今日は朝から夫婦そろって余所行きの恰好に着替え、車庫からピカピカの車を出して出かけて行った。お夕飯までには戻るからね、と、色とりどりの美しい花束を抱えて。
「友達を呼んでもいいって。コラさん、来るか?」
海の戦士ソラがいま無料公開中なんだ、とやや上擦った声でローが言う。海の戦士ソラはローが大好きな児童向け小説だ。アニメやゲームにもなっており、中でも作中屈指の名場面をアニメ映画化したものはファンの評価も高い。それがいま夏休み限定で動画サイトで公開されているのだ。事あるごとにコラソンにそれとなく布教し続けていたローだったが、いまいち反応が芳しくないことが気になっていた。正当な読者であるローにとっては、“海ソラ”の魅力は一から読んでもらうこと以上にないとは思うものの、おじ夫婦のいない今日ならば初見にもわかりやすいアニメ映画を見せられる。
「……そう? じゃあ、お邪魔しようかな」
ローのやや熱を帯びた誘いに、コラソンが控えめな微笑みを浮かべて頷いた。
夫妻のいない家はがらんとして、不思議なほどに静かだった。明るい外の陽光と、パティオのもたらす光と影。レモン水をグラスに注いで、ソファに腰かけるコラソンの前に置く。
「おばさんが昨日焼いたクッキー、食べていいって」
ラップがかけられたそれも目の前に置くと、コラソンはうわあと感嘆の声を上げる。
「ぼく好きなんだ。懐かしいや」
「なんだよ、最近は食べないのか?」
「うん。匂いを嗅ぐことはあるんだけど」
「ああ、おれも学校の帰り道にコロッケとか売ってる総菜屋があってさ。めちゃくちゃ腹が空くんだよな」
人差し指で掴んで口に放ると、サクッとほどけてバターの香りが鼻に抜ける。
「ちょっと待て」
氷の浮かぶレモン水を一口飲んでから、スマホ画面から動画配信サイトを呼び出す。テレビと連動してすぐに海の戦士ソラの画面に切り替わった。赤い帽子を被った猫が画面に浮かぶ。映画の始まりに、ローは高揚する気持ちを押さえてちらりと横目でコラソンを見た。
「……?」
クッションを抱きかかえたコラソンの横顔は丸く、赤い瞳が真っすぐにテレビ画面を見つめていた。その姿がなぜかこの家にぴったりと嵌まるピースのようで、まるで彼こそがこの家の子供で、自分が招かれた部外者のようで、ローはそわそわと疼く胸を撫でて視線を画面に戻した。
──コラさんって、どこの家の子なんだろう。
太陽に輝く白金の、柔らかく波打つ髪。田舎では浮いた上品な服装。かと思えば地理に明るく、ローの知らないことをよく知っている。
──今日でお別れなら、連絡先くらい聞いておこうかな。スマホがないなら、家の電話とか、住所とか。
誰かのことを詳しく知りたいと思ったのはこれが初めてだった。ペンギンたちはそんなことを思う前によく見知っていたし、クラスメイトたちは円滑な学校生活を送るため以上の交友を深めようとも思わなかった。
画面の中では悪の軍団ジェルマが街を襲っている。そこに現れる青い影、海の戦士ソラが現れ見得を切る。
『待て! これ以上の悪事は許さない!』
何度も繰り返し見ても飽きない格好良さだ。ラミに呆れられても見返してその度に胸を震わせたセリフだったが、今日この日だけはその言葉もどこか遠かった。
「面白かったね!」
「そうだろ、海の戦士ソラは最高なんだ」
「知らなかったなあ……続きってあるの?」
「再来年に新作がでるぜ。春に製作中って告知が出たときは、中学に受かった時より驚いたぜ」
その日は中学受験の合否結果の発表日だった。父と母がパソコンの前でウロウロと落ち着かなく歩き回り、ローのスマホにはベポたちからの応援メッセージがピロンピロンと絶え間なく届いていた。いよいよ発表時刻になり、父が緊張した面持ちで学校ホームページにアクセスする。そのときだ。ベポたちからのメッセージに返事をしていたローの目の前に、SNSからの通知が届いたのは。それは海ソラの公式Twitterだった。慌てて通知を開いてホームに飛ぶ。ヘッダー画面にはでかでかと『海の戦士ソラ ―北の海より愛を込めて―The Animation 20XX年夏公開予定』と書かれていた。
「うおおおおっ!」
「やった、やったぞロー! 合格だ」
ローの歓喜の咆哮と父の喜びの声が同時に上がった。
「ってなことがあった」
「アハハ、ローってすごい自信家だあ」
普通合格発表の方が驚くし緊張するでしょ、とコラソンが笑うが、ローからすれば事前の模試でA判定が出ているのだ。もちろんそれがすべてではないが、落ちる可能性より受かる可能性の方が高い。両親だってそれはわかっていて、制服の寸法だって測っていたのだ。
「制服かあ。どんななの?」
「普通の学ランだよ。女子はセーラー服で、ラミ……妹はそれが着たいって言ってるけど。男は別にな」
「それもそうだ」
映画を見終えると昼だった。キッチンに置かれた弁当を二人で食べ、今度は二階へ上がる。ローの部屋の前で、コラソンが立ち止まった。
「ここ、ローの部屋?」
「? ああ。借りてるんだ。もとはおじさんの子供の部屋だったのかな、広くて羨ましい」
ローの自室はマンションの一室だ。中学受験までは両親と妹と同じ部屋だったが、受験を機にひとり部屋を与えられた。勉強机とベッド、海ソラ全集を収める本棚を入れるとギチギチになってしまう部屋に比べると、ホーミングから与えられた部屋は広々として日当たりもよく、こうやって友人を招いても余裕がある優良物件だった。
「きれいだね」
「片付けは毎日してるし、おばさんが掃除してくれるからな」
借りている部屋を汚して平気な心をローは持っていない。そもそもきれい好きで暇があれば整理整頓をするタイプだ。むしろ分類ごとに選別して並べることに喜びを見出す。この家にやってきた初日と変わらぬ、あるべき場所にあるべき物が置かれた部屋のベッドに腰かけ、コラソンはきょろきょろと周囲を見渡している。
「ぼくの部屋はこんなきれいじゃないよ」
「ああ……そりゃそうかもな」
お世辞でもコラソンは片付けが得意なようには見えなかった。通学カバンをその辺に適当に放り、それに足を取られて畳んであった服や積んであった本を巻き込みながら盛大に転ぶ。そんな想像が容易につく。転んでうわあ、と叫ぶコラソンを想像してニヤニヤと笑っていると、頬を膨らませたコラソンがローの脇腹を突いた。
「ちょっとロー、おれのことばかにしてるだろ」
「へへ、違ェよ。あんたはおれの想像の上をいくドジをするんだろうなって思っただけ」
「なにをォ!」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていくものだ。気が付けばひぐらしの声の向こうにホーミングの、EV車特有のコオオオオ、という甲高い音が聞こえていた。
「もう帰らなくちゃ」
コラソンが立ち上がった。初めて会った日と同じ、薄水色のドレスシャツが夕陽を受けて色を変えていた。
「もう? 夕飯食べていけば。おばさんたちもいいって言うと思うし、暗くなったらおじさんが送ってくれる……」
ローにしては歯切れの悪い言葉に、コラソンは微笑んだまま首を横に振った。
「本当はもっとはやく帰らなくちゃいけなかったんだ。あんまり遠くに行っちゃだめだから」
「そ、れって、どういう……」
開け放した窓から風が一瞬強く吹き込んだ。コラソンの前髪がめくれ、すこし垂れた目元が露わになる。
「ローが来てくれてよかった。父さんも母さんも元気になってくれて、本当によかった」
「な、んで……なんで、そんな……。それじゃまるで」
「楽しかったよ。ローと会えて本当に楽しかった」
「ま、って! 待ってコラさん、おれ、おれ……!」
ただいま、と階下からホーミングの声が聞こえた。続いて夫人のローを探す声。トントンと階段を上る足音に、コラソンが視線を扉の向こうに向けて微笑んだ。
「……ローに秘密の宝物の地図をあげる。ぼくの机のなかだよ、きっと見つけてね」
「な……」
一歩足を前に踏み出す。そして掴んだ手首は、ゾッとするほど冷たかった。滑らかな肌、呼気に震える睫毛。すべてが動いて生きているのに、氷のように冷たい。掴んだはずの手はいつの間にか離れ、白い靴下を履いた足先がフローリングから離れていた。
「ロー。大好きだよ」
まろい頬が、口付けたいと何度も思った薄紅色の唇がきゅっと弧を描く。一向に日に焼けなかった白い指先がローの頬をなぞり、ふっと耳朶に唇を寄せた。
「お部屋にいたのね、ロー君。すぐにお夕飯を作るわ」
ノックのあとに扉が開かれる。夫人がローの姿を認めて微笑み、お友達は帰っちゃったのね、と呟いた。
「…… ……」
振り返ったローの目には、開け放たれた窓と風に揺れるカーテン、そして山稜に沈みゆく赤い赤い夕陽だけだった。
翌日、朝食を食べ終え各自が自由に動き出したあと、ローは一人階段を上って隣の部屋の扉を静かに開けた。夫妻の寝室とローに宛がわれた部屋の間にある部屋の扉は、思ったよりも簡単に開いた。
「……ははっ、やっぱ片付け下手じゃん」
その部屋は子供部屋を体現したかのような騒々しさに満ちていた。壁に貼られた世界地図に漫画のポスター。ローの部屋にあるものと同じ机は菓子パンについてくるモンスターのシールがベタベタと貼られ、備え付けの本棚にはコミック雑誌が巻号を揃えないまま乱雑に仕舞われている。黒いランドセルはベッドの横に、隣にはランドセルに比べて新しいままのリュックサックが置かれている。
机に近づく。引き出しを開ければ、そこには使いかけの消しゴムや分度器、コンパスに混じって一枚の画用紙が仕舞われていた。
「……トンネルの向こう……」
子供らしい筆致で描かれた地図には、初めて会った川、連れていかれた秘密基地。そしてトンネルがあった。そしてトンネルの先に、赤い星が描かれている。
「なァコラさん、行っていいのかよ……」
画用紙の下には、“ドンキホーテ・ロシナンテ”“にいさんにはぜったいないしょ!”と書かれていた。
これがローが中一の夏を過ごした一か月間のすべてである。結局、あれから秘密の宝物の地図の場所に向かうことはなかった。何度かトンネルの前まで行ったのだが、不思議なことに足がそれから前へと進めなかったのだ。ぽっかりと空いた穴がローを飲み込もうとしている、そんな恐怖と、コラソンとの約束を破りたくないという気持ちがあった。
夏休みが終わる数日前に帰国した両親が妹と共に迎えに来て、その日の夕食は二家族そろっての賑やかなものとなった。父は外国で買ってきたワインをホーミングと開け、母は夫人と家庭菜園や料理について語らう。翌朝ビートルに乗って帰る直前、夫人から抱きしめられた。
「また来てね。ロー君が来てくれて本当に楽しかったわ」
そのときの仕草が、夫人から香る匂いが、コラソンによく似ていた。そうしてローは、凡そすべてを把握したのだった。
学校が始まるまでの間、ローは地元の図書館に足を運んだ。それには強化合宿から帰ってきたペンギンたち、家族旅行から戻ったベポも面白半分でついてきたので、十数年分の新聞記事を探すのを彼らにも手伝わせた。
「えっ、自由研究まだ終わってなかったんスか⁈」
「ちげェよ。いいか、探すのは土地の買収とか、再開発とか、子供の事故とかだ。〇〇県北東部のな」
その記事は翌日の午後、ベポたちが休憩に飲み物を買いに出たときに見つかった。十三年前、ホーミングの家の近くの山で十三歳の少年が山道から滑落して意識不明の重体となった。
──その土地の住人たちはこの時分、リゾート地への再開発の機運に乗せられた人々と地元の自然を守ろうとする人々で二分されていた。彼らは次第に過激になり、勝手にバリケードを築いたり山道を荒らすなどして嫌がらせの応酬をはじめ、一触即発の状態となっていた。少年は山の所有者であるホーミングの息子で、“不運なことに”“たまたま”そういった危険地帯に入り込み、どちらかが設置した罠に足を取られ滑落、命はあるものの意識不明の重体のまま入院しているらしい。
「あっ、その話親父から聞いたことある」
自宅に戻り、印刷した記事を読み直しているとポカリスエットのボトルを口に含んだままのシャチが背に凭れ掛かりながらそう言った。
「えっ、なんだって」
瞬きすることなく記事に目を落としていたローが勢いよく顔を上げる。シャチはええと、と思い出すように顔を斜め上に向け、そうそう、と何度か頷いた。
「ほら、うちのおじさん。土建屋だからさ。そのときも直接は関係ないんだけど、仲間から聞いたんだって。ここの山の持ち主は再開発に反対だったから、息子でも妻でも怪我すりゃ土地を売るんじゃねえかって考えたバカがいたって」
「……へェ?」
ローの声が一段低くなる。夏を過ぎようとして、ローの変声期を迎えた喉は父のように出っ張り、低く落ち着いたアルトに変わろうとしていた。
「でもそいつら、何年かしてみんなどうにかなったって」
シャチの言葉に、ペンギンがどうにかってなに、と尋ねる。
「不正が見つかって捕まったり、もっとひどいのだと行方不明になったり。会社の不渡りだとかなんとかで夜逃げしたんだろうってさ」
「そういうのってなんだっけ、因果応報?」
「そう、それ!」
ベポたちが盛り上がる中、ローは新聞記事の切り抜きを丁寧にファイリングしていく。時が来たなら、必ず。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……
規則正しい機械音に気が付くと同時に、ふうっと意識が浮上していくのを感じた。つぎに感じたのは眩しさだった。瞼の上からでも感じる光に、手を翳そうとして強張った筋肉にきょとんと内心で首を傾げる。あれ、ぼくどうして……。
「ロシー……、ロシー……!」
「か、さま……」
ぼたぼたと頬に熱い水が落ちた。パチパチと何度か瞬きを繰り返すと、ようやくぼやけた視界が焦点を結び始める。
「ロシー!」
母が泣いている。兄と約束したのに。母さんを泣かせちゃダメだって。でもなんで母様は泣いているんだろう。あれ、ぼくって、
──その日の夜は雨だった。父は再開発反対の集会に出席するために昼から出かけており、兄と母と三人で夕食をとった。ロシナンテは食べ終わってそのまま風呂に向かい、兄は母を手伝って洗い物をしていた。下着を持ってくるのを忘れてリビングに戻ろうとしたそのとき、兄の声が耳に入った。
「トンネルの先の土地を売って、それで手を打とうって話らしい」
「あら。でもそれで納得してくれるかしら」
「無理だろう。父さんもそんな生温いことを言っているから奴らがつけ上がるんだ。土地を半分手に入れたなら、全部を要求してくるはずだ。そうでなきゃ、リゾートになんかならない」
──……!
トンネルの先が売られる? もう父の、ぼくらの場所じゃなくなる? ばさっと抱えていたタオルを落とした。取りに行かなきゃ、行けなくなる前に!
高校進学を控えた兄は来年この地を離れる。都会の進学校に通うのだ。去年、まだ兄と、兄の友人たちと作った秘密基地。あの頃は楽しかった。きれいな石やレアカードを、母が買ってきたクッキー缶に入れて埋めたことを思い出した。兄の誕生日に渡すつもりで、でもその時は喧嘩をして渡せなかった。兄が出ていく前に、もういけなくなる前に!
暗闇の雨の中を走る。野草が鋭い刃となって足を切る。それにも構わず走った。息が上がって、濡れた服が張り付いて気持ちが悪かった。手に持った懐中電灯はさっき転んでどこかへ飛んでいってしまった。トンネルを抜け、目印にしていた大きな樫の木を見つけた。
「あった……ッあっ?」
ガクンと膝が崩れた。砂利の上で踏ん張りがきかず、真っ逆さまに落ちていく。黒、黒、黒。空に浮かぶ白い月と、遠くで自分の名を叫ぶ兄の声が聞こえた気がした。
「……はじめまして、ロシナンテさん」
自分を抱きしめて泣きじゃくる母の背を撫でる。母はこんなに小さかっただろうか。隣で立ったまま涙を流す父は、こんなに年老いていただろうか。ぼんやりと声のする方に首を回すと、目の下に重たい隈を拵え、顎鬚を生やした若い男が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「……──っ」
光が蘇る。ギラギラと眩しい太陽の陽射しと、輝く川の水面。大合唱を繰り返す蝉と、物悲しく鳴く鳶の声。そして、そして──
「久しぶりだろ、ロー」
「……っ、なんだよ、あんたって人はさ……」
家族は壊れてしまった。兄は家族のもとを離れ、父と母は若くして隠棲している。静かな家、戻らない兄。何度かふらふらと辿り着いては、悲しい気持ちのまま再び眠りにつく。そんな日々の繰り返しの中で現れた、眩い光。生きている鼓動、ロシナンテを見つめる熱い眼差し。そして最後の別れも。
精悍な青年に成長したローが、目に涙を浮かべながら背後から赤い錆びついた缶を取り出した。ハッとローを見つめると、彼はフッと口の端を歪めて笑った。
「あんたに渡したいものがあるんだ……」
あの日の続きが、今日から始まるのだ。
***
補足
ドフィの秘密基地のメンバーは最高幹部たち。年上のディアマンテたちは地元の工業高校に進学したりして疎遠になった。(コラさん視点では。ドフィとはやり取りがある)
ロシナンテの事故以降再開発の機運は下がった。そのあとの顛末はドフィがなんとかした。
目覚めたときドフィは病室の外にいた。自分が遠因で弟が意識不明の重体になったことを明晰な頭脳で把握していたからこそ、顔を合わせづらかった。会うつもりもなかったが、ローが探し出して引っ張ってきた。
このあとは39歳と26歳の初恋の続きが始まる。