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    五夏/呪専/全年齢
    ネタばれというほどじゃないかもだけど、書いた人は総集編映画を見ています

    【五夏】携帯の画像フォルダを〇〇〇で埋める【小説】 任務が終わって迎えの車に乗った途端、傑はあくびを連発していた。今は無言で、ボーッとフロントガラスを眺めている。
     通り過ぎる民家の間からたまに夕日が差し込んで、傑の横顔を照らしている。眩しくないよう、さりげなく座る位置を変えて影を作ってやったはいいものの、意外と長い睫毛が日差しを受けて一瞬光るのとか、実は艶やかな唇が夕日でちょっと赤いのとかが見られなくなるのは、少し勿体ない。
     昨日の夜、傑は後輩たちの任務のサポートをさせられていた。後輩たちと一緒に寮に帰ってきたのは、もうすぐ朝食が始まるくらいの時間だった。午前中は体術の授業で、午後からは俺と二人で任務。しかも手の空いている補助監督がいないせいで、今日の任務地までは公共交通機関で移動。補助監督とは現地集合だった。徹夜でハードスケジュールをこなしたのだから、いい加減眠気はピークのはずだ。目蓋の奥の瞳は、焦点が合っていない。
     俺はほとんど無意識に、ポケットから携帯電話を取り出した。二つ折りになっているそれを開きカメラを起動させはしたが、俺はそのまま携帯を閉じた。
     傑は車の揺れに合わせてグラグラ揺れてて、たまにカクンと大きく頭を揺らす。唇が半開きなのが間抜けだし、たまに白目になっている。キス待ち顔に見えるのはきっと惚れた欲目のはず……というのは置いておいて、何も白目になってる傑の顔が面白いから写真に撮りたくなったわけじゃない。だいたい、眠そうにしている傑なんて珍しくもない。
     俺は改めて傑に視線を向けた。無性に、今この瞬間を切り取って、大事にしまっておきたくて仕方がない。
     そんな風に感じる瞬間が、最近日に日に増えてきている。厄介なことに、それがただの同級生の男に向ける感情としては深すぎるものだということを自覚してから、軽々しく傑に携帯のカメラを向けられなくなってしまった。携帯の画面に映し出される傑が、自分が傑にどういう視線を向けているのかを教えてくれるから。画像に映し出されるのは被写体だけじゃない。画像に切り取られて保存されるモノの中には、自分の感情も含まれているなんて知らなかった。

     実のところ、傑からの好意はなんとなく感じている。傑も多分、俺の気持ちに気づいている。
     しかし、寮の部屋は隣同士で、授業も任務も常に一緒の同性の友人として過ごしてきて、改めて「恋人としてお付き合いいたしましょう」だなんて口に出すのはどうにも気まず過ぎる。
     傑とは生活の全てを共有していると言っても過言ではない。とにかく一緒にいるのがしっくりくる。魂レベルで繋がっているこの感じは、世に言う親友と言うやつに違いない。だがしかし、恋人との境目がわからない。
     恋心を自覚する前に何度も間接キスしているし、なんなら後輩たちとのゲームセンターでの勝負に負けた罰ゲームでがっつりキスさせられたことすらある。お互いの裸もシャワールームで見慣れているし、寝顔も知っている。朝まで同じベッドで過ごした回数は数えきれないほど。お付き合いを始める前に、恋人同士が行うであろうトキメキイベントは、ほぼほぼ済ませてしまっている。今更どうしろってんだ。
     それにだ。「愛してる」だの「好きだ」だの、そんな言葉を交わし合う自分たちの姿など、想像しただけで顔が熱くなって燃え尽きる。国宝級に美しいこの顔がなくなるなんてあっていいわけねえ。
     
     傑は今にも眠ってしまいそうではあるが、まだ完全に眠りに落ちているわけではない。車の揺れや、抑え目なカーナビの音声でも目を開けて、座り直すようなそぶりを見せたり、ペットボトルの水を飲んだりしている。かと思うと、すぐにまたウトウトし始める。目も口も半開きなのは、やっぱりキス待ち顔っぽい。
     ちゃんと恋人同士なら、こういう相手の何気ない日常の一コマを写真に収めるなんて、全然特別なことでもなんでもないんだろうな。なんてぼんやり考えながら、手の中で携帯を何度も開いては閉じる。
     そもそも、今撮影したとして、当然カメラのシャッター音で気づかれるはず。傑の反応をを想像するのは容易だ。今すぐ思い浮かぶものだけでも……

    ①いいかい悟。勝手に撮るのは隠し撮りと同じだ。隠し撮りなんて卑怯な真似はよくない。(正論)
    ②悟ぅ。肖像権というものがあるのは知っているかい。(説教)
    ③まったく君ってやつは、人のこと勝手に撮影するなんてマナー違反だ(小言)
    ④君さあ、同級生の男の顔なんか撮って楽しいのか?(照れ隠し?)

     この中であれば④でお願いしたいが、恐らく高確率で①~③のどれかだ。
     だったら完全に眠りについてから撮影すればいいだけなのだが、俺は今、この瞬間が欲しい。俺はきっと人より相当な欲張りだけど、傑に関してはもっと欲張りになってしまうみたいだ。だって、寝顔の画像はすで携帯の画像フォルダに収まっているし、なんかキス待ち顔っぽいし。別に待ち受け画面に設定しようってわけじゃないんだから、これくらい大目に見て欲しい。と考えた時に、閃くものがあった。
     ある意味これは、チャンスかもしれない。
     完全に眠りに落ちる前の今、あえてシャッター音で撮られたことに気づかせる。それから、間抜け面を待ち受けにしてやるよとかなんとか言って、からかう風を装いながら、待ち受け画面に設定する。目の前でやられれば、傑はやめろ馬鹿とか言って止めさせようとしてくるだろう。そうなればこっちのものだ。困らせるのを楽しむふりで、いたって自然に傑のキス待ち顔画像をゲットってわけだ。よし、これでいこう。

     補助監督の運転する車が高速に入った。信号も曲がり角もしばらくないということは、ここからさきはそうそう車が大きく揺れることはない。傑は本格的に眠りにつくだろう。自然な流れのためには、まずはシャッター音で覚醒してもらなわければ困る。
     パカパカと忙しなく手の中で弄っていた携帯を、俺はついに開いたままにした。カメラの起動を確認。次いで、被写体夏油傑をロックオン。
     ただでさえ細い切れ長の目は、開いてるんだか閉じてんだか微妙。力の抜けた唇の端に、溜まった唾液が微かに見えているのがエロい。これはあれだ。シャッターチャンスというやつだ。今しかねえだろ。
     すかさず傑の顔の前に携帯をかざし、シャッターボタンを押す。高速走行を始めた車内に、シャッター音は意外と響かなかった。それでも、傑はパチッと瞬きして目を開けた。さあ①~③のどれでもいいぜ。この後は、間抜け面を撮ってやったぞと傑を煽って……。
    「遅いよ悟。撮りたいんならさっさと撮ればいいのに」
    「…………は?」
     ①~④のどれでもない傑の反応に、不覚にもまともな返答ができなかった。傑が、眉を下げて笑う。
    「ずっと携帯パカパカしてるんだもん。さすがに気づくよ。ああ、それとも寝顔を撮るつもりで私が眠るのを待ってたとか? 寝顔の写真がよかったかい?」
    「寝顔……の写真は持ってる」
    「ハハッ。だよな。七海の部屋でベッド占領して寝ちゃったときのやつとかね」
     撮りたかったのがバレバレだったのが気恥ずかしくて、どうにか誤魔化そうと俺は声を大きくした。
    「てかさあ『さっさと撮ればいいのに』って、いいのかよ。勝手に撮って」
    「よくみんなの写真も撮ってるじゃないか」
    「そういうんじゃねえだろ。これは、その、」
     どう言えばいいのか迷ったほんの一瞬、傑が唇に人差指を立て俺の話を遮った。それからチラッと運転席を見る。補助監督に聞かせたくないってことか。
     傑は自分の携帯を取り出して、俺の携帯を指さした。メールで話そうってわけね。
     俺が頷いたのを確認して、傑はポチポチ携帯を操作し始める。メールはすぐに届いた。

    [悟ならいい]
    [Re:俺なら好きに撮っていいってことかよ。なんで?]
    [Re:Re:それ聞くんだ。悟の携帯の画像フォルダが私の写真で埋まってたらおもしろいだろ]
    [Re:Re:Re:なんだよその理由]
    [Re:Re:Re:Re:重要なことなんだけどなあ。もちろん他の人は勝手に撮るなよ]
    [Re:Re:Re:Re:Re:OK。傑のことは好きに撮っていいってことな!]

     思い浮かんだのは、半裸でベッドに寝転ぶ傑とか、シャワー後に腰にタオルを巻いただけの傑とか、泊りの任務で旅館の浴衣を盛大にはだけて眠る傑とかだ。

    [Re:Re:Re:Re:Re:Re:今絶対変なこと考えただろ]
    [Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:好きに撮っていいって言ったのオマエだろ]

     この後の返信は、少し間が空いた。たった20㎝程度の距離から届くメールが、こんなにも待ち遠しい。そわそわしながら待っていると、手の中で携帯が震えた。

    [Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:好きに撮るにも限度ってものがあるのを忘れるなよ]

     傑なら、まあこうくるよなという説教じみた返信だった。なんだよつまんねえな、と傑に視線を送るより早く、もう一通メールが届く。

    [Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:そういう写真は要相談]

     その返信を見て、俺の脳は若干の不具合を起こしたのかもしれない。そういう写真? そういう写真とはなんだ。傑は、一体どんなのを想像しているんだ。いかがわしいことは一ミリも考えていませんみたいな涼しい顔のまま、不意打ちでこういうメールは止めて欲しい。傑がどんな凄い”そういう写真”を想像しているのかを思い浮かべてしまう。自分で好き勝手に想像するより興奮するのは何故だ。
     とにかく一旦落ち着いて考えよう。まずは傑の考えているそういう写真が、俺の考えるそういう写真と一致しているか、確認する必要があるだろう。もしずれがあるのならば、すり合わせを行わなければ……いや、待って。そんなことより重要な確認事項があるだろ。
     震えそうになる指で、なんとかメールを打って傑に送信した。俺からのメールが、傑の太腿の間に落ちている傑の携帯を震わせた。が、時すでに遅し。左肩に感じる暖かな重み。完全に寝ている。傑は俺の肩に頭を預けて、気持ちよさそうに寝息を立て始めていて、携帯が震えたのにも気づかない。
     えーこのタイミングで入眠かよという不満はあるものの、肩にかかる重みが心地いい。このまま眠らせてやろう。起きてメールに気づいた傑は、どんな顔をするだろう。

    [Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:これもう付き合ってるってことでいいよな!?」


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