季語シリーズ⑥ 日傘 アイドルに日傘は必需品だ。屋外撮影の待機時に渡される日傘は、市販されているものよりも大きい。平均より身長が高い私でも、すっぽりと覆われるくらい。外側は日光をはじくために白色、内側は地面からの照り返しを吸収するために黒色をしている。
早めに着替えが終わった私は、日傘を差し、機材のセッティングが終わるのを待っていた。よく晴れていて撮影日和だった。しかしその分、気温も高く、じっとしているだけで汗ばんでくる。
「まだ時間かかりそうだねー」
同じように日傘を差した北村さんが後からやって来た。
「暑いし、向こうの日陰で待ってようよー」
そう促され、私たちは少し離れた場所へ移動した。
「こうも暑いと、スタッフのみなさんが心配ですね」
「さくっと決めて、早く終わらせちゃおうねー」
日陰に入って日傘を畳もうとした瞬間、北村さんに傘の柄をぐいと引っ張られた。大きな傘生地で私たちは隠れる。スタッフさんたちの姿が見えなくなる。
突然のことに呆けていると、北村さんが距離を詰めてきた。
「き、北村さん……!」
私はとっさに目を瞑る。途端、ふに、と唇に柔らかいものが触れた。が、どうにも感触がいつもと違う。触れられた面積も小さい。
恐る恐る目を開くと、北村さんがにまにま笑いながら、人差し指をピンと立てていた。
「何されると思ったのー?」
「そ、それは、その……」
どぎまぎして私が何も言えずにいると、北村さんは日傘を元に直した。外界の喧騒が戻ってくる。
「あれ、準備終わったみたい。じゃあ、撮影頑張ろうねー」
そう言って、日陰を出ていく。
残された私は、その姿をぼんやりと眺めることしかできなかった。