サザンカ 「今回は、俺が選んでもいいか」
電話越しにそう尋ねられて、しのぶは驚いた。少し考えてから、「ではお任せします。ありがとうございます」と答えた。お気に入りのふわふわのブランケットにくるまって、他愛のない話をする。
しのぶは冬の冷たい空気が好きだった。決して夏が嫌いという訳ではないけれど、冬の寒い時に感じる暖かさにはどんなものだって勝てない、と思っていた。
話しながら、しのぶは部屋のカーテンを少し開けた。外は真っ暗で、月がぼんやりと浮かんでいる。しんしんと寒い、二月の夜。
「そういえば、もうすぐ付き合い始めて丸八年になりますね」
「……そうだな」
その声だけで、冨岡が小さく微笑んでいることがわかる。見えないけど、たぶんそう。こうやって、声だけでいろんなことがわかるようになって、ずいぶん経つ。
3302