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    クルミ

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    クルミ

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    吸死からノスクラssです。
    風邪を引いたクラさんの話です。

    甘え下手に冷たい水をピピピと重たい頭に電子音が鳴り響くと冷たい手が肌を撫で、脇から音が鳴る体温計が抜かれる。

    「39.5度。だいぶ高いな」
    「っ……は……ぁ」

    頭上から聞こえる声の主が薄っすらと目に映るが表情は見えない。
    昨日、買い物へ出て突然の豪雨に降られた。しっかりと体は拭いたつもりだったのだが甘かったらしい。
    教会にいた頃は風邪など引いたことはなかったがあれは神によるご加護であり、教会を追われた私はもはや加護する存在ではないということだろうか。
    頭が重く、痛い。体は常に熱く、喉は痛むのに渇く。
    私を見下ろす彼は今どんな顔をしているだろうか。
    病気を患った血など栄養にも価値にもならないだろう。
    か弱い、非力な人間。使い道のない人間。そう思われても仕方ない。

    「すまない……ノースディン」
    「なぜ謝る?」
    「屋敷に、置いてもらっている身なのに……何もできず、逆に迷惑をかけてしまって……本当に、すまない……」

    病気にならないと聞く吸血鬼にとって食事に薬、温度調整などが必要な人間の看病は手間がかかるものだろう。
    屋敷に置いてもらう代わりに血を提供する契約のはずが何も提供できず、何もできずにベッドで横になってノースディンの手を煩わせてしまっている。
    今の状態も辛いが、それよりも私を救ってくれたノースディンへ何もできないのがとにかく辛かった。
    クラージィの言葉を聞き、ノースディンはフッと笑みを浮かべるとやれやれとしながら髪を撫でて言う。

    「まったく。少しは変わると思ったが、お前はそんな状態でもクソ真面目なままなのか」
    「え?」
    「迷惑だなんて思っていない。風邪を引くのも人間なら仕方ないことだ。お前は私達とは違うのだからそんなこと一々気にせず回復に専念すればいい」
    「ん……」

    額を、頬を撫でる手が冷たくて気持ち良い。

    「風邪を引いてる時くらい甘えてもいいんだ。クラージィ」
    「甘える?私が?」

    そんなこと言われたことも考えたこともない。
    クラージィの反応にノースディンは頷いて続ける。

    「吸血鬼だから、教会の人間だから、大人だから、そんな小さなことは忘れていい。苦しかったら苦しいと、助けが欲しかったら助けてと言えばいい」
    「だが、それではお前に迷惑が」
    「迷惑ではないと言っただろ。お前の力になりたいんだ。迷惑とか考えずに甘えてくれ。クラージィ」
    「ノースディン……。ありがとう」

    嬉しそうに微笑むクラージィにノースディンも笑みを浮かべると、テーブル上のコップに目を向ける。
    喉が渇くはずと思って水を入れて置いておいたものだが、あまり量が減っていない気がする。

    「水は飲まなくていいのか?」
    「それが……飲みたいんだがうまく飲めなくて……情けない」
    「そうか。なら」

    ノースディンはそう言うとコップの水を少し口に含み、クラージィの口へキスをする。

    「んっ!ふ……ん、んンっ!」

    冷たい唇が重なり、舌がなぞるとゆっくり抉じ開けられる。侵入したノースディンの舌を伝って喉へと流し込まれる水は長い時間放置していたため温くなっているはずが、冷たいままクラージィの喉を潤していく。

    「は……んっ、ふぁっ……!」

    口の中の水を流し終われば舌先で歯茎を撫で、それを合図に舌を絡める。くちゅくちゅと水音が鳴り、じゅるじゅると吸われれば体から力が抜けるほどの気持ち良さをクラージィは感じ、同時に口の中から少しずつ熱が消されていく。
    冷たくなった唾液を余すことなく喉へ流し、ノースディンの口が離れると二人の口を細い糸が繋いだ。

    「美味かったか?」
    「ん……美味しい」

    惚けた顔で言うクラージィへ笑みを浮かべると再び口へ水を含み、同じ要領でおかわりを注ぐ。咽ないよう少しずつ少しずつ、何度も何度も繰り返しながら火照った体へ水分を与えていく。
    コップの中の水がなくなる頃、もう一度体温を測ってみると少しだが熱は引いており、苦しそうだったクラージィの様子も落ち着いていた。

    「これなら後は薬を飲んで休んでいれば良くなるだろう」
    「そう、だな」
    「粥を作るようドラルクに言ってこよう。少し待って」

    立ち上がろうとすると腕を引かれたので見てみれば不安そうな、寂しそうな顔がノースディンの目に映る。

    「どうした?」
    「……もう少し、このままでいてくれないか?」

    冷たいノースディンの手を握り、クラージィは言う。
    ノースディンが冷たいから、気持ち良いからというわけではない。ただ、離れて欲しくない一心だった。

    「あ、すまない。変なことを言って……。はやく治さなければいけないのに……んっ!」

    我に返り、慌てて手を離して言うとノースディンの口が重なる。喉を流れる水はない。ただ熱を奪うような深く、冷たいキスだった。

    「ふ……は……ん、ぁっ……」
    「やっと甘えてくれたな」

    口を離し、唇を舌で撫でると嬉しそうにノースディンは言う。
    少しでもいい。少しずつこうして甘えてくれることが増えてくれればいい。
    甘えることは迷惑ではなく、信用と信頼の証なのだから。

    「今日はずっとここにいよう」
    「いいのか?」
    「言っただろ。お前の力になりたいと。だから安心して休んでくれ」
    「ありがとう、ノースディン」

    安心したのか、ようやく眠るクラージィの髪をノースディンの手が優しく撫でる。
    その後、ノースディンは雪で使い魔を作り出し、それらを通してドラルクへ食事から薬までの指示を出しながらクラージィの看病をしていた。

    数日後、完治した体から頂いた血は特に美味なものであった。



     
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