リップライブの前に、桃香さんがニナにメイクしてくれる
メイクしたことないニナが「こんなに濃いのやだぁ！！」とか言うけど「ステージだとこれくらいやんなきゃ見えねーんだよ！すばるのドラマのとき言っただろーが」って無理矢理する。
ニナ、めっちゃかわいい。

楽屋でギリギリまで曲作りするニナ。せっかくリップきれいに塗れたのに不用意にこすって崩しちゃうニナ。なんどでも直してくれる甘い桃香さん。
甘い桃香さんにさらに甘えるニナ。
「なんですか桃香さん。いま歌詞考えてるんだから、私真剣なんですから、ジロジロ見ないでくださいよ！」
ギターを爪弾きながらニナをエッチな目でみている桃香さん
「ん？　見られてると書けないのかよ。今度はそれを生で歌わなきゃいけないのに、そんなビビリで平気か？」ってからかう桃香さん

シロップはお好みで。偶然手に入りましたの。
　そう言って差し出されたのは、白い紙箱。両手で受け取ると、予想よりも軽い。ケーキではなさそう。
「これは……？」
「購買に珍しいものが入っていたものですから」
　いつも通りの笑顔で神琳はお茶を飲んでいる。購買で買ったということは、お菓子ではあるのだろうけど。

　二人きりのお茶会は、いつもどおり自室で行われていた。
　窓辺の机を囲むそれは、すぐ目をやれば私の好きなテラリウムが見えるし、神琳の好きなお茶を飲んで神琳と過ごすことができる。
　私にとってはかけがえのない時間。
　そんなお茶会がはじまってから15分。
　唐突に渡された箱から神琳へ視線をあげると、色の違う目がじっと見つめ返してくる。
「……あの、神琳」

累何となく、何となくでしかないけど、私を見つめるその目が、いつもと違う気がした。

　日曜日の午後。模擬戦や訓練を午前中にして、特に予定もないゆったりとした時間。
　窓の外は綺麗に晴れて青空。遠くに聞こえるのは、午後から訓練を始めたのであろう生徒の声。絵に描いたような穏やかな日だ。
　一柳隊で揃ってランチを取ってから解散になり、自室に戻ってきたのが多分2時間くらい前のこと。
　ルームメイトの神琳は図書館へ行って不在。私一人だと部屋ががらんとしているように思えるのは、いつも隣にいる神琳が華やかな人だからかな。手入れの行き届いた柔らかそうな亜麻色の髪に、目が覚めるようなオッドアイ。彩のある彼女がいないと、部屋は無機質に見える。

「お二人とも、今日も仲がよろしいのね」
　そう言ったのは、通りがかりの椿組のリリィだった。次いでごきげんようと挨拶する彼女は、神琳のクラスメイト。名前は……以前に一度、遠くから呼ばれているのを聞いただけだからすぐに思い出せない。
　私と神琳は顔を見合わせる。視線が一瞬だけ交わって、先に彼女へ向き直ったのは神琳だった。
「雨嘉さんとはルームメイトですもの」
「一番仲のよろしいルームメイトは、お二人ではありませんか？　よく話題にあがっていますよ」
「あら……そうなんですの？　お褒めに預かり、光栄ですわ」
　淀みなく話を進めていく神琳の隣で、私は曖昧な微笑みを浮かべた。顔しか知らない人に応対ができるほど、人付き合いは上手じゃない。悲しいけれど。