ノンカフェインふわりと部屋に広がったカモミールの香りに、思わず目を細めた。カップを満たす薄い茶色の液体は、飲む前からその香りで心を解してくれるようだった。
「神琳」
お盆に乗せて、テーブルへ向かう。名前を呼べば神琳は読んでいた教本を閉じて私へ向き直った。
「お茶、入ったよ」
「えぇ、ありがとうございます」
教本を棚に戻した神琳がまた椅子に腰掛けたから、カップを置いてその正面に座る。
ゆったりとカップを傾ける所作の優雅さを視界に入れながら、私も一口含む。鼻へ抜けるその香りの良さに、ほぅと息を漏らした。
この間、購買で見かけて買ったカモミールティーは、消灯時間前に二人で飲む用として普段は戸棚の奥の方に置いている。別に隠すわけでもないけれど、二人だけの秘密ができたようで、何となくそれに心地よさを感じていた。
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