side 慕情「……その彼女は、お前の負担になりたくなかったんじゃないか」
心を揺さぶった女の影。その全貌を聞いて、風信には悪いかも知れないが、どこかほっとした自分がいて。そして慕情は顔も知らないその彼女に共感すら感じてしまった。だからもう資格がないなんて言う律儀な男に、彼女の想いを伝えてやりたいと思うほどには。
最後の喧嘩の後、彼の連絡先を開くことのなかった慕情は、やはり同じ気持ちもあったと思う。それが綺麗事だったとしても。親友のために誠心誠意尽くす男の、そんなところがきっと好きだった。
ソファの上で丸くなる、気の抜けた寝顔。見慣れたようなその顔も、十年の間にもうすこし凛々しくなったと、慕情はしみじみと思ってしまう。
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