カメレオンの残像郵便局を出ると、雨が降っていた。
あらら、と呟きつつも栗山緑はバッグから折りたたみ傘を取り出して素早く広げる。『降りそうだから持って行きなさい』と助言してくれたボスに感謝しながら。
事務所へと戻る道中、ふと路地の奥へと視線が吸い込まれた。グレーのスーツ姿の男性が鮮やかなブルーのワンピースを着た茶髪の女性の手首を掴み、何やら言い争っている。二人とも傘もささず、ずぶ濡れだ。
眉をひそめた緑はスマートフォンをバッグから取り出した。嫌がる女性に無理強いをしているのなら法に関わる人間ーー弁護士事務所の事務員として見過ごす訳にはいかない。
いつでも110番を押せる用意をして路地に踏み込む。少し距離を詰めると雨に濡れた男性の髪が金色であることに気がついた。女性のほっそりとした手首を掴んでいる大きな手が褐色であることにも。
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