未定「ただいま」
麗らかな春の午後。家の鍵を開け、二階へ足を運ぶ。階段を上がりきった奥の、書斎のドアを開けて、我が家のもうひとりの住人に帰宅したことを告げる。
「おかえり、立香君」
綺麗に整頓された机から此方に向き直り、黒縁のフレーム越しに蒼の双眸が、私を視認すると柔らかく笑いかける。
ジェームズ叔父さん。私の父の兄だというひと。十数年一緒に暮らしてきた、私のかけがえのない家族。
いつも通りの帰宅、いつも通りの挨拶。
いつも通りの、私の叔父さん。
けれどこの狭い世界でひとり、いつも通りでない、私。
――ほんとうに、このひとが――?
「ねぇ、叔父さん」
「うん?」
「これ。見て、欲しいんだけど」
そういって、私はスマートフォンの画像を差し出す。