モリ君が教授の数式をみる話彼の部屋の扉を開ける。
己に割り振られた部屋と同様、装飾の無駄が省かれた合理的な空間が広がっていた。
(ふむ。なるほど、なるほ……ど?)
私物には手を触れないよう、部屋のなかを見回していく。
羽根ペンに黒インク。定規、分度器、コンパス、ノート。ティーポット、二人分のティーカップ、角砂糖の瓶。櫛。整髪剤。鉛筆、消しゴム、図書館のラベルが貼られた数学書や映像資料、等々。きちんと整頓されているが存外に物が多く、そして己にとっては首を捻るようなモノも少なからず混在しているコトに、困惑を覚えるなどしていると。そのなかに、一際気になる存在を見つけた。壁掛けの黒板だ。
自らが使っている黒板より小さいモノだが、左の上端から右の下端まで、本来の深緑に白の軌跡が彗星のように続いている。一切の迷いもなく、一息で書ききったものだと理解した。
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