詐欺師の不完全な計画「そのお綺麗な顔を歪めてやろうか」
人気の無い路地でスーツの男はナイフをちらつかせ、ニヤニヤと口元に笑いを浮かべる。
少し時間をかけて親交を結んだ後に、自分にしか見せない顔という甘美な餌をぶら下げてやれば、多くの人間は心を許されているのだと思ってしまう。思考の止まった人間の相手など造作もない。この男の御し易さと、支配欲に塗れた言動は何もかも想定通りだった。
そう、詐欺師としては数週間の仕事を完璧に終えたところだった。必要な情報は全て手に入れたのだから、あとは綺麗に行方を消すなりして、この男の背後にある組織を潰して終わりだ。しかし、こうもモクマさんと離れて仕事をしていたのだから、少しご褒美があってもよいだろう。チェズレイは自らの犯行の痕跡という、もう一つの餌へと男を誘い込むことにした。
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