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    チェズモク。下衆を潰すモクマさんが見たいチェズレイ。

    #チェズモク
    chesmok

    詐欺師の不完全な計画「そのお綺麗な顔を歪めてやろうか」
     人気の無い路地でスーツの男はナイフをちらつかせ、ニヤニヤと口元に笑いを浮かべる。
     少し時間をかけて親交を結んだ後に、自分にしか見せない顔という甘美な餌をぶら下げてやれば、多くの人間は心を許されているのだと思ってしまう。思考の止まった人間の相手など造作もない。この男の御し易さと、支配欲に塗れた言動は何もかも想定通りだった。
     そう、詐欺師としては数週間の仕事を完璧に終えたところだった。必要な情報は全て手に入れたのだから、あとは綺麗に行方を消すなりして、この男の背後にある組織を潰して終わりだ。しかし、こうもモクマさんと離れて仕事をしていたのだから、少しご褒美があってもよいだろう。チェズレイは自らの犯行の痕跡という、もう一つの餌へと男を誘い込むことにした。
     月明かりの中、男がじりじりと距離を詰める。なんとも下卑た表情だ。怯んだ演技などしたくもないが。後退ると、こつり、と靴が背後の建物に触れる。追い込まれたようで、その先を想像すればゾクゾクしてしまう。
     あと一歩。男の右足が動く前に、背の低い建物から影が降ってくる。金属同士のぶつかる音と、下衆の悲鳴がほぼ同時に響いた。ナイフは振り下される間もなくコンクリートに叩きつけられ、回転しながら男の背後の闇に吸い込まれていった。手に受けた衝撃に声を上げ、消えた得物に気づいて慌てる男が滑稽でたまらない。男に状況を把握する時間を与えず、もう一発。分銅が頭部に命中したのを見届ける。敵を刺し貫くような視線に、流れるような動き。腰に痺れが走り、吐息が漏れる。
     一仕事終えたモクマにチェズレイはあまく呼びかける。
    「あァ、モクマさん。私の顔はどうなっていますか」
    「うん? そんなに見つめられるとドキドキしちゃうね」
    「お望みならもっと鼓動を乱してさしあげますよ」
     先程の猛々しさはどこへやら。やだ、チェズレイったら! とモクマはきらきらと目を輝かせて笑う。
    「お前さんにしては危なっかしいことをするねえ」
    「剥き出しのあなたが見たくてたまらなかったのですよ」
     欲張りかもしれませんが、ご褒美の続きをいただきたいですね。チェズレイはモクマの耳にそっと囁きを落とす。一拍置いて、あーうん、後始末をしたらね? と返ってくる。口元を覆う布に手を添えている。隠しているつもりの仕草が愛おしい。数十秒前のことだというのに倒れた下衆のことなど、すっかり忘れていた。勤勉な悪党ですね、わたしたち。チェズレイも高揚を包みきれずにいた。
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    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

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     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

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     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
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     ヴィンウェイ、セーフハウスにて。
     昼過ぎ。チェズレイがモクマの部屋に、昨晩置き忘れた懐中時計を取りに入った。事前にいつでも部屋に入っていいと言われているので、こそこそする必要はない。部屋の中はいつもと同じで、意外と整理整頓されていた。
     ――あの人のことだから、もっと散らかった部屋になるかと思っていたけれど。よく考えればものをほとんど持たない放浪生活を二十年も続けていた彼の部屋が散らかるなんてないのだ。
     ベッドと机と椅子があって、ニンジャジャングッズが棚に並んでいる。彼が好きな酒類は「一緒に飲もう」と決めて以来はキッチンに置かれているので、その他にはなにもない。チェズレイはベッドサイドから懐中時計を取り上げる。と、ベッドのマットレスの下から何か白い紙? いや、封筒だ。そんなものがはみ出している。なんだか気になって――というよりは嫌な予感がして、半ば反射的にその封筒を引っ張り出した。
     その封筒の表には『遺書』と書かれていたので、チェズレイは硬直してしまう。封がされていないようだったので、中身の折りたたまれた便箋を引き抜く。そこには丁寧な縦書きの文字が並んでいて、そ 827

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


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    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
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