忍者は眠れない 私はモクマさんより先に眠ることが多いとは思いますが。と前置きをしながら、チェズレイはベッドの中で少し身じろいだ。二人の間はベッドサイドランプのほのかな光に包まれている。
「あなた、こうして寝ていることが多くありませんか」
チェズレイは体の左側を下にして、横向きに寝てみせる。モクマからすれば、その観察眼には常に感心するものだが、寝相を言及されたのは初めてであった。
「え?」
「横向きに眠ると呼吸がしやすいとは言いますが」
新しい拠点で家具の配置が変わった時も、ベッドの上でなくソファで眠る時も。モクマは大抵同じような姿勢で眠っている。もちろん寝返りはしているのだが、仰向けやうつ伏せで眠っている所は、それほど見た記憶がないのだ、と。
「そ、そんなの気になっちゃう?」
「おや、無意識ではないと。相棒の健康状態を把握するのも必要なことですよ」
健康状態のみと言わず、隅々まで把握したいものですが。チェズレイがふたたび昂る様子を見せたところで、モクマは頭を掻いた。
「はは、染み付いちゃってるのかな。昔から忍者は寝ている間の襲撃に備えて、仰向けではあまり寝ないものなんだよ」
どの程度効果があるのかはさておき、体の左側を下にしておけば、心臓を直接やられるリスクが減らせる。身を守るための術は多く学んだが、これは見習いの頃から実践していたものだった。まぁ、近づいてきたら、物音なり気配でその前に気づくとは思うけどさ。こともなげにモクマは付け加えた。
「なるほど、そういうことでしたか」
「どう、一つ勉強になった? ニンジャさんの忍者講座でした――っと」
「えぇ、とても」
戯ける言葉を遮るように、つつ、とチェズレイの指先が動いた。恍惚とした表情でかつて抉った痕を辿り、心臓まで下りていく。生きることを選んだ心音はたまらなく心地がよい。こうして触れることができる場所に、そうやすやすと刃は届かないのだ。滾りを隠せないアメジストの瞳に、モクマはやっぱり眠れそうにないなと小さく笑った。