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    ぎうにうぷりん

    ツイステ大好き民。
    リリアちゃん推し夢女とジャクヴィル推し腐女子兼任してますw
    ごくたまに他ジャンルの絵も描きます。
    Twitterは@141giuniuprinでやってるよ!

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    ぎうにうぷりん

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    ジャクヴィルまんなかBD記念小説。
    pixivに載せた物と同じ内容です。

    #ツイステ
    twister
    #ジャクヴィル
    jacquesville

    ジャクヴィルまんなかBD記念小説 暦の上では四月だが、外はまだまだ厚い雪に覆われている。輝石の国でも北端に位置するこの地ではよくある光景だ。
     当然ながらエレメンタリースクールの体育の授業もしばらくは屋内が中心となる。
     そんなわけで体育館の片づけ当番からやっと解放されたジャックは、上級生の校舎がある中庭を横切ってそのまま近道して帰るつもりだった、筈なのだが……。

    「ちょっと、やめなさいよ!」
    聞き慣れた声、見慣れた姿……。
    「男のくせに女みてえなチャラチャラした髪飾りなんて持ってきやがって生意気なんだよ」
    「芸能人だからって調子に乗ってんじゃねえぞ」
     威圧的な態度を取るいじめっ子たちを前に、ヴィルが必死で抵抗していた。
    「それはダッドがくれた誕生日プレゼントなのよ、今すぐ返して!」
    「やなこった! 土下座して謝るんなら返してやるよ」
    「誰がアンタたちみたいな奴に謝るもんですか! 絶対に許さないんだから」
     ヴィルが必死になればなるほど、いじめっ子たちはますます下卑た笑みを浮かべるだけだった。
    「返しなさい! 返しなさいよ! このっ……」
    「だったらこうしてやるよ、ほら!」
     いじめっ子の一人が髪飾りをそのまま中庭の池に放り投げた。

    「おい! またお前らだな!!」
     ジャックは無意識に駆け出していた。
    「ジャックだ! 逃げろ!」
     その姿を見るや否や、いじめっ子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
    「大丈夫か、ヴィルさん?」
    「なんで邪魔するのよ?! これからあいつらの顔面をボコボコにしてマッシュポテトみたいにしてやるつもりだったのに」
    「そんなことしたらヴィルさんが先生に怒られるだろ……」
    「まぁ、たしかにそれはそうだけど……」
     もしジャックが止めに入らなかったら、文字通り流血沙汰になっていただろう。もちろんヴィルではなく、いじめっ子たちの方が。

    「なぁ、落ちたのってあの池だよな?」
    「ええ」
    「ちょっと待ってろ」
     そう言い残すと、ジャックはその場で靴を脱ぎ、裸足のまま池に入っていった。
    「な、何してるの?!」
     突然の行動にヴィルが血相を変えているのにも構わず、ジャックは薄氷の張る池の中から光る物をつまみ上げた。
    「あった」
     ヴィルが慌てて駆け寄ると、ジャックはぶっきらぼうに髪飾りを差し出した。
    「ん」
    「『ん』じゃないでしょ! こんな寒い日に裸足で池なんかに入ったら凍傷起こすわよ」
    「オレは丈夫だから平気だ……くしゅ」
    「バカね。早速風邪引きかけてるじゃない。ほら、ちゃんと足拭きなさい」
     ヴィルはハンカチを取り出し、大慌てでジャックの足を拭いてあげた。
    「まったく、ほんと何しでかすかわからないんだから……」

    「ヴィルさんって今日誕生日だったのか?」
     足を拭く『応急処置』が終わると、ふいにジャックが訊ねた。
    「正確には今度の土曜日だけどね。その日はダッドが仕事で家に帰れないから前祝いにプレゼントをもらったの」
    「そうなんだ。綺麗な髪飾りだな」
    「でしょ? これね、角度によってオーロラみたいに輝いて見えるのよ」
     ヴィルはうっとりと髪飾りを見つめた。
    「アタシ、前は都会に住んでたから本物のオーロラって観たことないのよね。きっとこんな感じに綺麗なんだろうなって……」
    「でも今度からこういうのはあまり学校に持ってくんなよ。宝物は大事にしまっておくもんだぜ。海賊だってお宝は秘密の洞窟に隠してるからな」
    「また海賊の話? アンタってほんとその話好きよね」
     さっきまで凄い剣幕で怒っていたはずのヴィルに、いつしか笑みがこぼれていた。

    「なぁヴィルさん、その……土曜の夜って暇か?」
    「別に特に予定はないけど。何の用?」
    「じゃあ、8時ぐらいに家の前で待っててくれないか? 迎えにいくから」
    「え、なんで?」
    「と、当日まで内緒だ! なるべくあったかい恰好で来るんだぞ、じゃあな!!」
     それだけ言い残すと、ジャックはきまりが悪そうに足早に去っていった。

    (やっぱり、これってデートなの…??)
     誕生日当日になり、ようやくヴィルは誘いの真意についてあれこれ考え始めた。
    (べ、別にあんなガキんちょ全然タイプじゃないんだから!)
     それに男の子だし。そう思いつつも、ヴィルは着ていく服装についてあれこれ悩んでいる最中だった。
    (暖かい恰好って言ってたわよね。一体どこに行くつもりなのかしら)
     服を選びながら、鏡台の上に置かれたリップクリームがふとヴィルの視界に映った。
    (ダッドが去年のクリスマスプレゼントにくれた色付きリップ……もったいなくてまだ全然使ってなかった)
     鏡を見ながら、唇にそっと色を与える。
    (たとえ相手が近所のガキんちょでも手は抜かないわ! アタシはアタシだもの!)

     時計の針はもうすぐ8時を回ろうとしていた。
    (家の戸締りも確認したし、準備OKね)
     本来なら家で一人おとなしく留守番しているはずだったので、父に内緒で外出することにはほんの少し罪悪感をおぼえていた。
     玄関の扉を開けるヴィル。すると、目の前には子供一人ぐらいが乗れそうな橇と、白くてふわふわした生き物の姿があった。
    「犬だわ!」
    「狼だ!!」
    「わ、喋った! って、アンタジャックね!!」
    「じゃあとりあえず橇に乗ってくれ」
    「で、結局どこに行くわけ?」
    「それは着くまで秘密。さっさと乗れよ」
    (随分とぞんざいな物言いだこと)
     半ば呆れながらも、ヴィルは言われた通りに腰を下ろした。
    「よし、行くぞ!」

     冬の暗い夜道を、橇はものすごいスピードで滑っていく。冷たい夜風、澄んだ空気……この季節でなければなかなか味わえないものだ。
     橇に付けられたライトの灯りと、夜空に浮かぶ星明り以外に、夜道を照らす物はほとんどない。
     雪道を全速力で駆けるジャックが牽く橇に乗り、ヴィルは何とも言えない高揚感を味わっていた。

     20分後、二人(この場合一人と一匹と言うべきか)が到着したのは、分厚い氷に覆われた町外れの湖だった。
    「あ~しんど! すげえ疲れた……」
     変身を解いたジャックがその場に倒れ込む。
    「これぐらいで倒れるなんて情けないわね」
    「結構しんどいんだぞ、これ。だいたいヴィルさんが重すぎ……」
    「何ですって?!」
    「なんでもない」

     ヴィルは橇から降りて辺りを見渡すが、人っ子一人見当たらないし、目ぼしい物も特にない。
    「こんな殺風景な所に連れてきてどうする気? まさか……」
    「まさかって何だよまさかって」
     ヴィルの不平を軽く聞き流しながら、ジャックは橇のライトを取り外して持ってきた。
    「ほんとは危ないから子供だけで来ちゃいけないって言われてるんだけど。そんなわけで今日の事は絶対に秘密な。男と男の約束だ」
    「なによその一方的な約束」
     ヴィルの目は半信半疑だが、ジャックは構わず続ける。
    「ここの湖は地元民しか知らないからあんまり観光地化されてないんだ。だから周りに余計な明かりもなくて見やすいんだよ」
    「見やすいって何が?」
    「まあ見てればわかるって」
     ジャックは黙って空を見上げる。すると、はるか遠くの夜空が徐々に様相を変え始めた。やがて、黒一色だったはずの空に少しずつ緑色の靄のような物が現れた。
    「あれって、もしかして……オーロラ?!」

     最初は靄程度にしか見えなかったオーロラは、次第に夜空全体をカーテンのように包んでいく。
    「すごい、本物だわ……」
    「これがオレからの誕生日プレゼント」
    「え?」
     夜空を見上げていたジャックは、改めてヴィルの方を振り返るとこう言った。
    「誕生日おめでとう、ヴィルさん」
     ヴィルは驚きのあまり、両手を口で押さえる。
    「オレはガキだから、お前の親父さんみたいに高級な物は買ってやれねえけど……でも、せっかくの誕生日に一人で留守番とかつまんねえだろ? だからさ、その……」
     
    「うっ……」
    「ば、ばか! なんで泣くんだよ?」
    「別に泣いてなんかないわよ! アタシの瞳があまりに美しいから雪の結晶が飛び込んできたのよ」
    「どういう状況だよそれ」
     泣くと睫毛が凍るぞ、と言いながらジャックはヴィルの涙を指で拭う。
    「オーロラって音がするとか聞いたことあるけど、本物は静かなのね」
    「ああ。あれって迷信らしいからな」
    「ジャックって意外と物知りなのね。見直したわ」
    「そ、そうか?」
     不意に褒められて、ジャックの頬が少し赤くなった。
    「本当にそっくりね、この髪飾りの色と……」
     そう言うと、ヴィルは目深にかぶっていたニット帽を脱いだ。
    「あ、その髪飾り……」
    「ええ、つけてきたの。だってアンタは盗ったりしないでしょ?」
     オーロラを背に微笑むヴィル。柔らかな笑みを浮かべる唇は、ほんのり桜色に赤みが差していた。
     ジャックの目線も無意識に口元に吸い寄せられる。
    (唇きれーだな……それに柔らかそう……って、何考えてんだオレ)
     頭に浮かんでくるあれこれを振り払おうと、ジャックは口を開いた。
    「また来年も一緒にここに来ような。来年も、再来年も、その次の年も、大人になってからもずっと……」
    「あら、それってプロポーズのつもり?」
    「ち、ちげーよ! なんでそういう話に持っていくんだよ」
     必死で慌てるジャックを前に、ヴィルはくすりと笑った。
    「やっぱりヴィルさんは怒ってるよりそうやって笑ってる方が似合うよ」
    「そう? だったらきっとアンタのおかげよ」
     二人が話に花を咲かせている間に、夜空のオーロラはとうの昔に姿を消していた。
    「今日はありがとうね、ジャック」
    「別にオレは大したことしてねえよ」
    「ううん。そんなことないわ」
     そう言うと、ヴィルはジャックを抱き締めた。
    「わっ……」
    「アタシね、こっちに引っ越してきてからいい思い出なんて一つもなかった。でも、アンタと過ごしている時間だけはほんの少しだけ嫌な事を忘れられるの。だから、本当にありがとう」
     花のような香りに包まれながら、ジャックはしばし時の流れを忘れていた。ヴィルはジャックを抱き締める腕をほどくと、最後にそっと額に口づけた。
    「なっ?!」
    「続きは大人になってからしてあげるわ。今はおでこで我慢なさい」

    (どうしよう、どうしてあんな事しちゃんだんだろう……)
     帰宅してベッドに入ってからも、ヴィルの頭の中はジャックのことでいっぱいだった。先程まで極寒の湖にいたはずなのに、全身が恥ずかしさで燃えるように熱い。
     一方のジャックも、帰ってからはずっとヴィルの事を考えていた。
    (唇すっごく柔らかかったな……それにしても『続き』ってどういう意味だろ……)

       *   *   *
     翌年も二人は同じ場所にオーロラを見に行ったが、ヴィルの引っ越しや進学なども重なり、残念ながらそれ以降は叶わなかった。
     それでも……
    「続き、か……?」
    「ええ、続きよ」
     あの頃より随分背丈の伸びた二人のシルエットが、久し振りに訪れた思い出の地で、再び柔らかな光に包まれていた。
     宝物は大事にしまっておくものだから、この暖かな気持ちはずっと心の中にある。

    ―END-
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