幼い頃から何度も見る夢があった。
俺が知らない奴らと見たことも無い土地を旅する夢。
変なものを食べさせられたり、銃で獲物を狩ったり。
初めこそただの旅行記だったそれは、俺が歳を重ねる毎に血なまぐさいそれへと変わって行った。
時は明治、軍隊、戦争、殺人、夢の中の俺は何度も銃の引き金を引いた。
渇いた心、壊れた母親…俺たちを捨てた父、何も知らず俺と対比するかのように眩しい道をゆく義理の弟。
あまりにもリアルなそれ。
どうやらこの知識は正確な歴史を元にしているらしく学生時代の歴史の授業は一部特価していて勉強など必要ないほどだった。
まあ金塊戦争や、土方歳三が実は生きていた、などという歴史はもとより存在しないものなのか、隠された歴史なのか知る範囲での歴史には記されていなかったが。
正直ガキの頃に夢の全貌を知っていたら精神をやられたかもしれんが、ご丁寧に成長に合わせて開示されていくそれは自分参加型の歴史ゲームや映画鑑賞のようなものだった。
その簡単な娯楽のようなそれは、夢の中の俺が自害したことを境にある日突然様変わりをした。
正直、夢の中の俺が自害したことに関してはまあそんなもんだろうという感想にとどまった。
問題はその後だった。
珍しくその夢は俺を第三者目線で眺める夢だった。
見たことも無い女が、事切れた俺を抱いて、静かに泣いていた。
絞り出すように俺を呼ぶ声が酷く耳に残った。
その日から、今まで見た旅にはいなかったはずの女が、同じ内容の上に上書きすうるように付け足された夢を見るようになった。
その女はチョロチョロと俺の周りをうろついては、何かしらのお節介を焼いていく。
かと言って目に余るほど鬱陶しくうまとわりつくわけでもなく、夢の中の俺がその距離感をいつからか心地よく思っているのがわかった。
そんな夢を見ながら、毎回目が覚める瞬間に焼き付くのは静かに涙をこぼす姿だった。
この夢がなんなのか、決めつけるにはあまりにも現実的でないので気しないことにしていたらある日すこんと足元を掬われた。
目の前にいけ好かない男『杉元佐一』が現れやがった。