麻人を抱えて歩いているとたまたま祟り屋に遭遇したのだが様子が違っていた。
「祓い屋、ちゃんと子供の面倒を見ているのか?」
「この通り」
俺の腕の中で麻人は紙パックのジュースをストローで吸っていた。これで2個目になるところだ。麻人は祟り屋に対しては敵意をむき出しにして隙あらば呪詛を掛けようとする。暁人にいたっては諦めの境地におり、「実害が出てなければ別にいいや」と爽やかな笑みを浮かべて放置を決め込んでいるし、俺も危害がなければ介入はしない。
「まあ、最近は暁人を怒らせて一週間悪夢生活送っていたが。あれはマジで食らいたくない、自分の中のトラウマというトラウマを刺激される」
「それはわかるぞ祓い屋」
祟り屋も麻人を誘拐したことがあり、それが暁人の逆鱗に触れた結果トラウマというトラウマを植え付けられたことがある。
「パパ」
「どうした?」
「ジュースおわった」
「今日はこれで最後だぞ」
麻人から空のパックを受け取り、近くのゴミ箱に捨てる。そして新しいパックを取り出して麻人に渡す。
「祓い屋も変わるもんだな」
「どこがだよ」
「孤独な存在から父親になったではないか」
「・・・否定はしない」
確かに俺は孤独だった。あいつを倒すために何もかも捨てて一人で戦い続けた。だが、今は違う。仲間もいてそれに家族もいる。最初はただの義務感だったが、今では麻人のために何かしたいと思っているし、大切に思っている。
「ところで祓い屋よ、少し聞きたいことがあるのだが良いか?」
「なんだ?場合によっちゃ暁人が飛び込んでくるかもしれないぞ」
「あの呪詛の事で話が」
中に入られたあの時、血と共に芋虫を吐き出した。血溜まりの上で蠢く姿を想像してしまい、吐き気に襲われそうになる。
「それがどうした?」
すると一人が瓶を取り出す。中には二羽の羽の赤い蝶が羽ばたき、瓶の底には割れたサナギが落ちていた。
「なんだよ・・・」
「急に吐き出したものを観察したところ、成虫に進化していたんだ。恐らく呪いもな」
瓶の蓋を開けようとする。
「待て!」
静止の声を聞かず瓶の蓋を開けて、二匹の蝶が舞う。目を奪われるほど綺麗で美しいと思った瞬間、体が動かなかった。だが、麻人は違った。
「ん」
二匹の蝶を片手で捕まえると、そのまま握りつぶした。バラバラになった羽が地面へと落ちていく。麻人の手には赤い血のような液体が付着しており、それを舐め取る。その光景を見て背筋に寒気が走った。
「やめろ、そんなもの舐めるな」
身体が動けるようになり、麻人の手を掴んで止める。祟り屋の奴らも驚きの顔をしていた。
「おい祓い屋、なぜ動けるんだ・・・?」
「いや、麻人が蝶を握りつぶしたからに決まっ、て・・・!?」
俺は動けていたが、祟り屋は全員その場で静止していた。いよく見てみると小刻みに震えて怯えているようだった。
「ねえ、何して?」
後ろを振り返ると暁人がいた。
「暁人、どうしてここに?」
「ちょっと用事があったから、それよりこの光景は」
「かくかくしかじか」
「ああ、なるほど」
暁人が指を鳴らすと祟り屋の身体が動き出した。
「もしかして原因はこれ?」
暁人は地面に落ちていた赤い蝶の羽の一部を拾った。
「ああ、俺は麻人が蝶を潰した時点で動けたが・・・」
「耐性でもついた?」
「ついてたまるか、あいつらはあれを呪いの進化とかって言っていたけどな。そもそも暁人、お前なんだ?変なものに取り憑かれるわそれと一体化するわ呪いかけるわ子供産むわ女体化するわでもう訳がわかんねーぞ」
「こっちこそ言いたいよ!なんで僕だけこんなに色々とおかしいことになってるのさ!」
「いや、それは俺のせいじゃないし・・・」
二人で言い合っている間、祟り屋はずっと黙って俺たちを見ている。
「でもさ、僕はこうなってもKKの事は大好きだっ・・・てぇえええ!!」
「ちょ、いきなり抱き着くなぁああっ!!!いだいいだいいだい!」
暁人が勢いよく抱きついてくるが骨が折れそうなくらいの力で抱きついてきた。二人だけの世界に入っていると、祟り屋どもが拍手を送ってきた。
「お幸せに」
「末永く暮らせ」
「今さらだが結婚祝いを贈ろうか?」
「いらねぇ知るか!!」
後日、届いたが取りあえず受け取ることにした。中身は・・・麻人が見た途端喜んで、俺と暁人は顔が引きつったと言っておく。