ナンセンス・ナンセンス これは、俺たちがまだ探偵ではなく用心棒の仕事をしていた頃の話だ。
アニキは時々、行き先を告げず出かけることがあって、それは決まって週末の午後9時40分頃だった。
「野暮用だ。夜明けまでには戻る。お前らは順に充電しておけ」
一番最初にそう告げただけで、以降は「出てくる」とか「頼む」と言葉を濁した。
「いってらっしゃい。気をつけて……」
もちろんこの頃も俺は、アニキの仕事や外出にはたいてい同行していたが、一度断られたきり何も言えず、ただただ見送るだけだった。アニキは振り返ることもせず、その後ろ姿はすぐに夜の黒に紛れた。
俺たちが教団から宛てがわれ暮らしていたのは二階にある広いワンルームの客室で、小さなキッチンとシャワーブース、もちろん充電設備に加え、本来アンドロイドには必要のないベッドが人数分ついていた。個人の空間がないことを除けば、悔しいがかなり身の丈に合わない贅沢な環境と言える。
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