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    FrakPhemto

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    FrakPhemto

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    原作軸の鶴見中尉と鯉登少尉は白の綿の靴下を履くし、宇佐美は鶴見中尉に憧れて洗える時は毎日手で、シャボンで洗ってそうだけども(その時は白の靴下しかなかっただろうし)、現代に居る鶴見は特にこだわりなく白の綿の足首丈の靴下を履く(どんな靴下でも履く)。だけど鯉登は明確な拘りで白の綿靴下。
    全然未完

    #月鶴
    moonCrane

    メリヤスメリヤスとは靴下の事です。渦巻く今に肉体を乗っ取ろうとする暴力と、ごちゃごちゃ鳴る思考がからだに存在しているのが月島だと思うんですよね。暴力を肉体から逃がす為の暴力が存在するんです。文章がやけにばらばらに感じるかと思われますが、それは仕様です。

      どんなに寒い日でも、彼の人は井戸端で白い木綿のメリヤスを、手で、洗った。一等に寒い日はメリヤスの白が雪と一緒になって、目が痛い。露西亜に来てから、「一等に寒い日」というのは日々、日々更新されていた。彼の人は、毎日白い木綿のメリヤスを、手で、洗っている。
      探訪する者がいない私へ物品を差し入れしてくださったとき、一つだけ見慣れぬ自分の物ではないものが真っ先に目に飛び込んできた。鉄窓から差し込む光を吸い込みにぶく輝くメリヤスが三対、入って居たのだ。
    「同室だった者に包ませた。お前は物が少なくて助かった。」
    先程「ならば死んだ気になって勉強しろ!!」と、吼えたのがまるで嘘のように、穏やかな物言いをして彼の人に普段使って居た風呂敷を差し出された。軍人として、上官に私物を持って来られるなど、見た事も聞いたことも無い状況に狼狽える。ましてや、人として、父を撲殺し死を賜ったこの身に何か残ったものが有ったか。何を。何を。何を、言おうかと考えあぐねてくちびるを震わすだけでいるうちに、彼の人がやわらかな口調で
    「開けろ、検閲はもう済んでいる。」
    と少し笑ったのだ。そして、私は三対のメリヤスを手にして彼の人の真っ黒な瞳を見つめたのである。
    「あの、少尉殿」
    「ああ、メリヤスか。なに、餞別だ。露西亜語の他に大事なものもある。身だしなみだ。外見から人は変わるものだからな。常に清潔なメリヤスを身につけろ。ああ、メリヤスは露西亜語でナスキーと言う。」
    なんでもないという様に捲し立てられた。問答は無用、とでも言いたそうだった彼の人のゆるく圧す言葉は、まだ少し理解が出来なかった。
    「は、はあ。しかし、これは。」
    「ああ、士官用だな。なに、家にはまだある。履き潰してしまったのならまた言え。」
    翻ったくちびるがちょこちょこと髭の先を撫ぜる様子が目から離れない。
    「さて、また来る。」
    と口にし、ゆっくりと地に手をついて立ち上がる仕草を見せた彼の人よりも素早くすく、と立ち上がり敬礼をした。
    「露西亜は寒いぞォ、月島。」
    それを目の隅にいれ、彼の人は笑った。

      いつも、彼の人がお帰りになったすぐあとに、メリヤスを履いた。六足あるメリヤスから二足選んで、踝にあてがってから。兵士に支給される黄色の混ざったメリヤスよりも肌触りが良く、白く、幾分もぬくく感じる。履いてみれば、長く木板の床に付けていて少し湿った足裏の汗を、メリヤスは全て吸い取って乾かした。元々持っていたメリヤスはどうやら処分されたらしい。両足履き終わったあとに、牢の中を一周、歩いてみた。土踏まずが地についてぺたぺたという音が消えて短くごんごんと、木に低く反響するだけになった。それが久しく感じていなかった(感じられなかった)、軍靴に足を入れた高揚感を呼び起こし、膝頭を胸につける程跳んでやりたい気分になった。「よし、跳んでやろう」と思い、跳んだ。とんッと足の親指の付け根が当たった時にはもう足は次に跳びあがる準備をして居たのに、ひどく疲れてしまった感覚がして、「やはり、いいや。」と、ゴ、と踵を床につけて、どすりとあぐらをかいた。

      彼の人が執成(とりな)すとは言え、尊属殺人によって死刑になった身を再び戦場に戻すというのは少し骨の折れる仕事だっただろう。私は三か月ほど牢獄の中で生活をしていた。彼の人は月に一度私を訪ねてはまた他愛のない話をした。互いに軍人であったから監視などはゆるかったのだ。物の持ち込みへもそれは同じだった。
    「月島。」
    と、彼の人は私の名を呼びながら傍に置いていた小さめの風呂敷包みを今日も手渡してきた。
    「これをやろう。」
    「少尉殿、またですか、もう私に物を持ってくるのはおやめください。」
    彼の人は毎回私に何かしらの差入れをして来て居た。それは小綺麗に包まれた繊細な甘い菓子であったり、曲げわっぱ弁当に入れられた握り飯などで、其れに付け加えて、いつも包みの底には露西亜語の本や、鉛筆、鉛筆を削る為のナイフなどが入れ代わり立ち代わりに入って居た。そして、毎度その物たちの上に鎮座しているのが。
    「ふふ、メリヤスだ。」
    「いや、メリヤスはまだ。」
    「お前が今履いているそれはもう、寿命だ。」
    「ですがまだ何対も、」
    「いいから持っておけ、もうお前の物だから。ああ、お前にやったメリヤスはもう十対目になるぞ。釈放は来週、二十五日だ。準備しておけ。」
    と、風呂敷包みが開かれたままそのまま大腿の上から大腿の上に移動させられた。それを押し返そうと何とかして腕をどうにかうごうごとさせてみたが、もう大腿には重さを感じている。今その重さによって立ち上がれずにいるのだ。上官が去ろうとしているというのに、立ち上がれず、膝上の包みを無碍にするわけにもいかない、どうしろというのだ、たまらず彼の人の目を見てみればひらひらと手を振られる。彼の人はさっさと房から出て行ってしまい、今回の面会は終わってしまったのだった。
      彼の人から新しいメリヤスを貰った時、私は毎度のことそのときに履いていたのを脱ぎ捨てて、真新しい方に足を入れ、少しの間、少ない自由時間を真新しいものに包まれて過ごす、と決めていた。四足あるメリヤスから二足ずつに分けるところから始める。大した違いはない、だがどれも異なるもので、名前を付けて区別をしてやりたいくらいにはメリヤスの組み合わせを考えるのは好きなことであった。今日のメリヤスは、一つ、首の所が少しよれている、二つ、胴の部分の色がすこしだけ違う煤の灰色だ、三つ、少しだけ糸くずが靴下の中に入って居る、四つ、これでこそメリヤス、というようなメリヤス……と言いたい所だが、なにも変な所が見つからないからそうやって言うしかない。四つ目のメリヤスによるもやもやとした感情によって、組み合わせなぞどうでも良くなって来てしまった。適当に重ねて、二つずつに分けてまとめて折り畳んだ。今履いている薄汚れたメリヤスを人差し指で引っ掛けて、親指と人差し指でつまみ、ぱっ、と座っている床に二つまとめて投げ捨てる。先程畳んだばかりの靴下のうち、自分により近い方を手に取って足を通し、放り投げた靴下を拾いなおして、ぎゅっと結んでひとまとめにし、ぽーんと風呂敷の上に投げたのだった。そしてばらばらに投げ出した両の足をそろえてきちんと正座に座り直した。私のこころは、メリヤスのあたたかみに身を委ねようとするほど、もう、だいぶ、落ち着いていたのである。気がついたときには日はとうに昏れているということが新しいメリヤスを貰った日の常なものだから今日もそうなるのだろう。監獄のなかの薄暗い中で暗がりの中ではまだ仄白く光る、いちばん最初に貰ったメリヤスにまた履き替え、また一週、過ごすのだ。

      門をくぐったとき、彼の人は門前で襟巻を直していた。その様でさえ片時も己が軍人であるという事を忘れまいと、びんと背筋をのばし、じっと門を見ていたもので、「ああ、伊達男だ。」と私は、心内で独りごちた。彼の人はどれくらい其処に立って居たのだろうか。タタタ、と駆け寄った私を見て、彼の人は少し目を細めて笑った。彼の人を長く待たせてはいまいか、寒がらせては居まいか。すぐ、二間ほどしか離れてはいないが、気が逸る。アァ、鼻先が! 赤くなっているではないか! 何という事か、彼の人に外で待たせるなど! 彼の人も、彼女も、私の為に寒さに耐えようとしてくださる。それが思い出され、顔がカッと熱くなった。
    「少尉殿! 」
    私は敬礼も忘れて、彼の人のすぐ近くまで行って、思わず手を握ろうとしてしまった。ぶ厚い革の手袋を目にし、他人事のように「彼の人は彼女ではないぞ。」と脳裏からの囁きが聞こえ、手を引っ込めた。彼の人の目は欺けぬ、私が手を握ろうとしたことでさえすべてを見通したような目をしたが、その一時、眼には私しか映って居ないのを見れば、息で火を旺盛にできるほどにあつい息が肺から吐き出され、彼の人の顔にもやがかかった。彼の人はゆっくりといちどだけ、瞬きをして口を開いた。
    「月島。」
    「はっ。」
    牢の中で気が緩んだなどと思われるのは我慢がならず、毎日のように敬礼をしていたが、きちんとできていただろうか。彼の人に、その練習さえ悟られて居やしまいか。その事ばかりに気が掛かってしまって、そわそわとして仕舞わないか。彼の人はにっこりと笑った。
    「露西亜は、」
    彼の人が私に応えろと言っているようで、食い気味に
    「寒いんでしょう。」
    と、言えば、
    「ふふ、ははは。」
    彼の人は実に楽しそうにけらけらと笑った。
    「行きましょう。」
    その様に少し乙女のような愛らしさを感じたのであった。

      潮風は、寒かった。出て来たその足で、そのまま露西亜へと向かったのだ。暫く乗って居なかった馬には少しだけだが、手こずってしまい、彼の人は馬が水を飲むのを待つ間は、ずっとくすりと笑ってまた神妙な顔にもどる、ということを繰り返していた。寒さにあてられ朱になった私たちの頬は更にあかくなった。桶から水を飲み干した馬は顔を上げ、彼の人の顔を舐めようと首を伸ばしていたが、彼の人はそれを軽くいなして、私に歯を見せた。
    「月島、顔が赤いぞ。」
    「貴方こそ。」
    「私は、大丈夫だ。慣れているからな。」
    沈黙。そして彼の人はそれに耐えきれないというように、ぷすり、と笑った。
    「笑わないでくださいよ。」
    「ふふふ、お前の顔と馬の顔が列ぶと面白くなってしまってな。すまない。」
    眉の尾を少し下げて申し訳無さそうにされるとこちらが逆に申し訳なくなってしまって、何も言えなくなってしまった。寒さで顔まで凍ってしまいそうで、自分の顔がどんな表情になっているのかはわからないが、妙ちきりんな顔になっているということだけは確かだった。それが突然恥ずかしくなってしまって、彼の人に背を向けた。手袋をした手だから、と自分に言い聞かせてゆっくり馬の尻に掛けていた荷物ベルトを外して、今度は自分で背負い、
    「さあ、もう行きましょう。」
    と彼の人に言ったのだった。
      威勢よく、「さあ、もう行きましょう。」とは言ったものの、露西亜に来たことも無ければ、露西亜語は実用にほど遠く、間もなくして私はまた彼の人の後ろに付くことになったのである。ざかざかと足を進める彼の人の後ろに付くのは久々ぶりで、戦い日々の思念が脳裏をよぎり、丹田に力が漲って、自分までもがざかざかと大股に歩いたのであった。新潟県佐渡島は雪が少なかったから、雪道での歩き方を学んだのは日清戦争の時で、それがことさら肉体をかっかと燃え盛らせた。
      私たちが足を下ろしたのは港町から少し外れた小ぎれいな宿屋だった。建物は古いが、清掃がいきわたり、足を踏み入れた時から暖炉から来る暖かさとひとびとの活気が真正面から顔にぶつかって来るところで、でっぷりとした腹を突き出した、如何にもここの主人だ、という出で立ちの鼻先の真っ赤な店主に出迎えられた。それに、にこにこと好意的な態度で彼の人は流暢に
    「Здра́вствуйте」
    つまりはこんにちは、と話しかけた。和人の二人組に驚いた様子もなく、「Здра́вствуйте」と返した店主は、布巾で拭いていたグラスをことりと置いて、顔をあげた。会話の往来が続くなか、習いたての露西亜語では、簡単な、たとえば数字の二を意味する「два(ドゥヴァー)」と、寝床を意味する「кровать(クラヴァーチ)」の二つの単語しかわからなかった。ぺちゃくちゃと喋り続ける店主に彼の人は、大きめに頭を上下させながら頷いていて、二人で赤べこの特徴を分け合ったのだろうか、と頓珍漢な思いつきをしてしまい、慌てて頭を振った頃には店主は苦しそうに階段を下りていた。
      
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    FrakPhemto

    PROGRESS原作軸の鶴見中尉と鯉登少尉は白の綿の靴下を履くし、宇佐美は鶴見中尉に憧れて洗える時は毎日手で、シャボンで洗ってそうだけども(その時は白の靴下しかなかっただろうし)、現代に居る鶴見は特にこだわりなく白の綿の足首丈の靴下を履く(どんな靴下でも履く)。だけど鯉登は明確な拘りで白の綿靴下。
    全然未完
    メリヤスメリヤスとは靴下の事です。渦巻く今に肉体を乗っ取ろうとする暴力と、ごちゃごちゃ鳴る思考がからだに存在しているのが月島だと思うんですよね。暴力を肉体から逃がす為の暴力が存在するんです。文章がやけにばらばらに感じるかと思われますが、それは仕様です。

      どんなに寒い日でも、彼の人は井戸端で白い木綿のメリヤスを、手で、洗った。一等に寒い日はメリヤスの白が雪と一緒になって、目が痛い。露西亜に来てから、「一等に寒い日」というのは日々、日々更新されていた。彼の人は、毎日白い木綿のメリヤスを、手で、洗っている。
      探訪する者がいない私へ物品を差し入れしてくださったとき、一つだけ見慣れぬ自分の物ではないものが真っ先に目に飛び込んできた。鉄窓から差し込む光を吸い込みにぶく輝くメリヤスが三対、入って居たのだ。
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