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    きむら

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    きむら

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    ※あの時死んで逆行した玄弥
    ※逆行したことによってついに呼吸が使えるようになったよくある話

    ##逆行パロ
    ##不死川玄弥

    月輪の刃あの時確かに自分の体は消えた。まるで鬼のように消えて逝ったはずなのに。
     どうしてまた生きているのか。
     月にかざした手は欠損もなく、最期に見た手よりやや小さいように見える。
     それもそのはず。ここは藤襲山だ。ただ七日間生き残るための最終選抜が行われた場所だ。
     時が戻れるのならもっと前に戻りたかった。出来ればあの夜に。ただ、今からでもまだ間に合う。思い残すことは何もない。ならばやることはやはり一つだけ。
     日輪刀ではないただの飾りの刀一本。全集中の呼吸も使えず、ただ鬼を斬るだけで致命傷も与えられない刀。
     たかが刀。そう思っていた。どうせ今回も、と。
     息を吸い、そして吐き出す。まるで笛を吹いた時のような音。あの時は気にも止めなかったが、いざ自分でやると不思議なものだった。
    「月の呼吸……壱ノ型・闇月」
     襲い掛かって来た鬼は横薙ぎされた刃によって頸を斬られる。剣術において本当に単純な攻撃だ。だが鬼に対してはただの刀では斬り落とせなかった頸が簡単に斬り落とせる。
     月の光に照らされながら鬼が朽ちていく。あの時の俺の様に。
     どうしてこうなった。なんで。どうしよう。考える間もなく周りの鬼が襲って来る。それをただの刀とアイツの呼吸で斬っていく。
     最期に口にしたのがアイツの血肉だったからか。それともこれは幻術系の血鬼術なのだろうか。だが確かにあの時俺は死んだ。ようやく兄と話せたあの時、確かに鬼のように朽ちて死んだ。
     全集中の呼吸なんて使ったことがない。だけど体は覚えている。ただ、全集中・常中はまだ出来ないみたいだ。前聞いたことがある。寝ている間も四六時中全集中の呼吸を維持し続けるという自殺行為の話を。前は使えなかった呼吸が今は使える。つまり、後々覚えなければならないと言うことか。……なかったことにしようか。
     そもそも月の呼吸というのもアイツ以外聞いたことがない。その点はもう一つの呼吸にも言えることだが、あれは昔から伝えられていたものだと教えてもらった。
     あの鬼より精度は低いが、それでも同じ呼吸を使える。やっぱり原因はあの鬼の血肉か。だがあの時のように鬼舞辻無惨の声が聞こえることはない。また、あの時みたいに血鬼術が使えるようになったわけではない。
     鬼喰いは相変わらず出来るみたいだ。喰った時に呼吸を使った方が威力は増すらしい。ただ、こんな訳の分からない状態だ。出来る限り鬼喰いはせず、この月の呼吸だけで鬼を斬れるようにしよう。
     今日が何日目なのか記憶が曖昧で分からない。あんなにもたくさんいた同年代の奴らを見かける回数が減った。つまり脱落者が増えていることから考えれば試も後半の方だろうか。最後なんて五人しか残らなかった。現実とは酷なものだ。
     よく考えれば当時の俺はよく生き残ったものだ。ただ鬼を喰うしか出来なかったのに。誰かに褒めて欲しいわけではない。同情して欲しいわけでもない。ただ、そうやってゲテモノを口にして生き残りたかったことを理解して欲しいだけだ。
     あの時はただ兄に謝りたかった。それだけで生き残れたけど、今回はどうするか。仮にこれが過去の出来事をなぞる様に事が進むとなれば俺はあと数か月で死ぬ。兄が望むことを一つも叶えることなく死ぬ。唯一の家族の願いを叶えられない不幸者。だからまたここからやり直しをさせられているのだろうか。
    「そんなわけ、ねえよな」
     やり直しなんて都合がよすぎる。きっとこれは死に際に見る幻。走馬灯、だっけか。たぶん、それだと思う。俺みたいな人間にも鬼にもなれなかった奴が都合よくやり直しなんて出来るはずがない。
     それでももし、……もし、可能ならば、次は兄に迷惑をかけないようにしよう。俺なんかの為に怪我をしないで欲しい。あと、泣かないで欲しい。
     その為にもこの試験を合格しなくては。それから兄の迷惑にならないよう細々と任務をこなしていけばいい。会って話がしたいなんて思わなければきっと大丈夫。兄は怒らない。兄が言った通り、赤の他人として入隊すれば大丈夫。
     呼吸を使うたびに肺が締め付けられる。そして破裂しそうなほど膨張して痛い。その繰り返しだ。こんな痛みに耐えながら戦っていたんだな、みんな。すげえな。俺はただ鬼を喰うだけだった。途中から味覚がなくなったのは本当に幸いだった。匂いは美味しいのに口に入れた途端味がしない。それでも食べなければならなかった。周りに心配を掛けたくなかったから。
     ゲホゲホと咳をしながら山を歩く。空が青白くなってくると目の前に藤の木が広がった。あぁ。懐かしい。鬼は藤の花の匂いが嫌いだ。その藤の花に囲まれ逃げることすら出来ない。ここに捕まった鬼に同情すらしそうになるが、鬼になった時点で弁解の余地はない。例えそれが血の繋がる家族であっても。
    「お帰りなさいませ」
    「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
     次期当主様と……かなたサマが七日前と同じ場所で待っていた。キリキリと胃が痛い。
     あんなにも居た人たちはみな死んだ。例え最終選抜で生き残ったとしても、任務中に死んだり、あの日、何もできずに惨たらしく喰われて死んでしまう。此処に居る四人…………?三人しかいねえじゃねえか。何処行ったあの猪は。とにかく。今回生き残った四人があの後どうなったかは分からないが、俺の記憶ではまだ死んでいなかった。なら、最後まで生き残ったのかもしれない。無事、鬼舞辻無惨を倒したならいいけど。そう願いたい。
    「さらに今からは鎹烏をつけさせていただきます」
     空から飛んできた大きな烏。前はすぐ殴ってしまった。ただの烏に八つ当たりをしていた自分の幼稚さに頭が痛い。今回は……せめて、俺が死ぬその日までの短い期間だけでも仲良く出来たらいいな。
    「次にあちらから刀を造る鋼を選んでくださいませ」
     台に置かれた鋼。前は何を選んでいいのか分からなかった。月の呼吸が使えるようになった今、これで少しは鋼のことが分かるのではと鋼が並ぶ台の前に立つ。
    「……イヤ。全然分からねえわ」
     直感で分かるものではないらしい。仕方がないので以前選んだ鋼をもう一度選んだ。どうせ色は変わらないだろう。だってこの呼吸は鬼を喰ったから手に入れた力だ。俺自身のものではない。
     鋼を選んで解散。そのまま家出同然に出て来たクソ師匠の処に戻るか。……それとも。
     桃色の着物の袖を引っ張り。見上げられた顔は何を考えているか分からないほど綺麗なまま表情は変わらない。
    「蟲柱様にお目通り願いたい。取り次いで欲しい」
     何も言わず、何も反応せず、ただ懐から一枚のコインを出して宙へと投げる。そして戻って来たコインを手の甲で受け止める。どちらが出たのか分からないが、そのままの表情でこちらを見た。
    「分かった」
     ただその一言だけだった。だがそれで十分だ。
    「ありがとう、栗花落、サン」
     いきなり呼び捨てはさすがに駄目だろう。だってこの時は名前も知らなかったのだから。そもそも話しかけるなんてことしなかった。だけど、どうしても確認しなくてはならなかった。例え此処が都合のいい夢の中だったとしても。

     それから二日後、栗花落の鎹烏が俺の元へ来た。一度戻ったクソ師匠の家で味噌汁が濃いと喧嘩中の時だった。そのまま此処を出て行ってやると荷物をまとめ出来あがっていた味噌汁に水を大量に入れ挨拶もそこそこに家を出た。
     懐かしいと言えばいいのか、それとも本当ならば来たくはなかったと言うべきか。でも来なければならなかった。刀が出来るまで何もすることがない。刀がなくとも戦えるが、それで命を無駄にしてはいけないとは思った。
     見慣れた蝶屋敷の廊下。一度来ただけでは迷うかもしれない廊下を迷わず歩けるのはそれだけお世話になったと言うことだ。
     戸の前で一呼吸して、それから戸を軽く叩いた。戸の向こう側で懐かしい声が聞こえた。
    「失礼します」
     もう二度と見れないと思っていた姿に目頭が熱くなる。だけど泣いてはいけない。変に思われる。ただでさえも入隊したばかりの下っ端が柱に何の用だと思われているのだろう。
    「不死川玄弥くんですね」
    「はい。お忙しい中お時間を頂き申し訳ありません」
    「構いませんよ。それで、私に話とはなんでしょうか」
     勧められた椅子に座り、改めて蟲柱を前に息を飲みこむ。今さらおかしいと思われても仕方がない。だからといってこんな話言っていいのか、悪いのか。そもそももしかしたらあっちの方が夢で、これが現実ではないのか。
     どちらにしろ、もう引き返せない。息をゆっくり吐いて、蟲柱を見た。
    「今日話しておきたいことは二つあります。一つは、俺が鬼喰いっていう異質の力を持っていることです」
    「鬼喰い?それは文字通り鬼を喰う、ということですか?」
    「はい。鬼を喰うことによって鬼の力を使うことが出来ます。大抵は腕力が増えたり、傷の治りが早くなったり……血鬼術を使う鬼であれば、その能力も取り入れることも出来ました」
     蟲柱は驚いているようだ。過去にそういう剣士が居たと古い書物には残されていたことを知ったのはもう少し先のことだ。俺が悲鳴嶼さんの処に世話になってから。だからこうやって説明するのは初めてだった。
    「たぶん古い書物には残っていると思います。昔、……三百年ほど前に居たって聞きました」
    「どうしてそのことを知っているのですか?」
    「それは……」
     俺がそのことを聞いたのはあの鬼の話からだ。書物からはただ「そういう剣士がいた」とだけで詳しい年代までは書かれていなかった。
    「それは、二つ目に話すことに関係しています。……今でも分からないままなんですけど、……」
     手のひらに汗がにじむ。緊張からなのか、それとも疑われることへの恐怖なのか。でも言わなければいけない。いずれ、言わなければいけないことだ。どうすることも出来ない過去をなぞるならいっそのこと今全て言ってしまえば少しは過去を変えることが出来るはずだ。少なくともこの鬼殺隊という組織にとっては。
    「俺が一度死んだからです。死んで、そしてまた過去に戻ってきました」
    「言っている意味が、よく分かりません」
    「俺も分からないんです。でも、俺はあの日、上弦の壱に殺されました」
    「上弦の壱!?それは十二鬼月のですか!?」
    「はい。さっきも話しましたが、俺は鬼喰いです。強い鬼を喰えば喰うほど、言うならば体が切断されても多少の時間は生きて居られました」
     俺の言葉に蟲柱は息を飲みこんだ。そりゃそうだろう。俺だってそんな話聞かされたら嘘だと思う。だが実際にあの時胴体を斬られ、最期は脳天から真っ二つになった。それでも少しの時間は耐えることが出来た。
    「試しに腕でも斬ってみます?」
    「結構です。嘘を言っているようには見えませんので。ただ、頭の中で整理できないので」
    「なら、これから先は聞き流してください。俺が蟲柱に言いたいことは一つ目の方が重要だったので。たぶん、此処にお世話になることもあると思って」
    「……でも、どうして私に先に言おうと思ったんですか?」
    「前もあなたにお世話になってましたから。いっぱい怒られて、後悔して、それから……慰めてもらったんで」
     長子に置いて行かれる気持ちを理解してくれた人はこの人だけだった。だから今回は先に言っておきたかった。それだけ。
    「さっきの戯言の続きです。最初は夢を見せる鬼が居ると聞いたことがあったのでその類の血鬼術かと思ったんです。でも俺は昔呼吸が使えなかった」
    「え」
    「なのに今は呼吸が使えるんです。……月の呼吸っていう、上弦の壱が使っていた呼吸が」
    「それは……」
    「最期に喰ったんです、あいつの髪の毛や血肉から作り出された刀の破片を。だから、だと思っています」
    「先ほど、喰った鬼の血鬼術を使えると言いましたね」
    「はい。前は上弦の肆が使っていた血鬼術を使えました。でも今はそれは使えません。代わりに月の呼吸が使える」
    「……なるほど。その原理は分かりました。仮に、また新しい鬼を喰ったとしたら、玄弥くんは月の呼吸が使えなくなるのですか?」
    「いいえ。最終選別の時、他の鬼を喰いましたけどまだ使えました。もしかしたら喰った鬼が弱かったからということもあったかもしれません」
    「上弦の鬼となれば力でいえば確かに勝るものはないでしょう。それも壱となると他の上弦であっても比べられないかもしれませんね」
    「上弦の壱以上の鬼……鬼舞辻無惨を喰えばどうなるか分かりませんけど、鬼舞辻と対面する前に俺は死にました」
    「……そうでしたか」
    「別に死んだことが悔しいわけでも、悲しいわけでもないんです。あの時やることはやったんです。でもまた戻って来た。その原理が分からないんです」
     解決して欲しいわけではない。いくら柱と言っても万能なわけではない。攻撃されれば傷は付き、柱であっても死ぬ。
    「あと、これは本当に戯言です。信じるも信じないも蟲柱とお館様にお任せします」
     これから起きること、俺が分かっている範囲で最期の出来事までを話した。その中には現お館様の最期、そして……。
    「そうですか……私も、死んだのですね」
     その言葉に何を言っていいのか分からず口を閉じた。上弦の弐と戦い、そして死んだ。だが栗花落と伊之助が上弦の弐を倒した。そう伝えると蟲柱は今まで見たことのない安心した表情で笑った。
    「あなたの言うことを信じます。過去の私が成しえたことです。きっとカナヲたちの為になったのでしょう」
     つまり、今の蟲柱の状態はもうそういうことだと言っている。前に蟲柱から藤の花の匂いがした。鬼喰いをした直後だったから匂い袋のせいかと思ったが違かった。
    「お館様の方には私が伝えます。事前にお伝えした方がいい情報も多いですし」
    「お願いします」
     これで少しだけ肩の荷が下りた。あとはどうしようか。伝えることは伝えた。やることはまだあるけど今の俺ではどうすることも出来ない。
    「あの、玄弥くん」
    「はい」
    「一つ、聞いてもいいですか?」
    「はい。答えられる内容でしたら」
    「では……風柱、……不死川実弥さんとはご兄弟ですか?」
     ごくりと唾を飲み込む。こんな珍しい苗字だ。聞かれない方がおかしい。
    「いいえ。違います。風柱とは赤の他人です」
     胸が締め付けられるような言葉。平気な顔のフリなんて器用なことが出来ただろうか。栗花落の真似が出来るように練習でもするか。
    「そうですか。ありがとうございます」
    「それでは、貴重なお時間を取らせて申し訳ありません」
    「いいえ。こちらこそありがとうございました。それはそうと、これからどうするおつもりですか?」
    「岩柱の元に押し掛けようと思います」
    「押し掛ける?」
    「えぇ。あの人、子供嫌いでしょう?だから押し掛けるんです」
     前もそうだった。きっとあの人の元でなら前以上に力を付けることが出来る。今回は月の呼吸が使えるから悲鳴嶼さんが後ろ指をさされることはないだろう。
    「それでは私が一言先に伝えておきますね」
    「ありがとうございます」
     椅子から立ち上がり部屋を出る。戸を閉めてようやく体の緊張が解け足の力が抜けてその場に座り込む。まずは第一関門を突破と言ったところだろうか。
     深呼吸を繰り返し、力が戻ってきたところでゆっくりと来た廊下を戻る。どうせ急いだって一度は追い返されるのだ。焦らず、じっくり、ゆっくり、駄々を捏ねてやろう。
     手始めに夕飯の支度でもして胃から掴む作戦でもしようか。



    「赤の他人、だそうですよ」
     その言葉に返事などしなかった。言いたいことはあった。たくさんあり過ぎて何から言えばいいのか分からなかった。守れていたと思っていたのは俺だけで、何一つ守れていなかった。なんなら手を放したあの日から今日まで無事に生きているかすら分からなかった。見ないうちに成長した姿に安堵した自分が情けない。
    「確か、一度目は兄弟じゃないって言ったらしいですね?それを二度目で言い返されてどんな気持ちですか、あなたは」
     聞くつもりはなかった。今すぐにでも辞めさせられるものなら辞めさせたい。だがそんなことをしたところであいつは戻って来る。きっと、どんな形であれ戻って来る。最悪、鬼となって俺の前に戻ってきた時は……。
    「今ならまだ間に合うんじゃないんですか。仮にあの子の言う通りなら最後は」
    「黙れ」
    「……はぁ。それではどこかに行ってください。ここは私の屋敷です。お帰りの方向はお分かりですか?」
     言われなくともいなくなってやる。外の壁から背を放し、岩柱邸の方角へと足を進める。
     今なら間に合う。まだ間に合う。まだ未来は変えられる。あいつが語る過去と同じ結果にしてたまるか。例え戯言だとしても。
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