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    YOUNANA0123

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    YOUNANA0123

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    Nミタロイ体調不良漫画の続き。

    果物でもないかと執事さんに聞きに行った後の、ミッターマイヤーと執事さんの話。
    漫画で描く時間がないので、話書いてぐろっくくんに小説風にしてもらったよ。

    執事の名前もロイの過去も全てが捏造なので注意。

    孤独の影と光薄暗いロイエンタール邸の廊下を、ミッターマイヤーは静かな足取りで降りていった。親友の部屋を後にしたばかりの彼の心には、ロイエンタールの弱った姿と、その裏に潜む思いが重く響いていた。階下にたどり着くと、長い年月この屋敷に仕える老執事、ヨーゼフが控えていた。白髪交じりの髪を整然と撫でつけ、黒い燕尾服に身を包んだその姿は、屋敷そのもののように不動の存在感を放っていた。

    「ヨーゼフ」とミッターマイヤーは穏やかに声をかけた。「ロイエンタールに何か軽い食事、果物でもいい、用意してやってくれないか」

    「かしこまりました、ミッターマイヤー様。すでにご用意を進めております」と、ヨーゼフは恭しく頭を下げた。その落ち着いた物腰には、長年の忠義が滲み出ていた。

    「はは、さすがだな、ヨーゼフ。いつも抜かりがない」とミッターマイヤーは軽く笑みを浮かべた。

    「恐縮でございます」とヨーゼフは静かに応じ、ふとミッターマイヤーの顔を見つめた。「しかし、ミッターマイヤー様、今日は何か特別なご様子で。随分と晴れやかなお顔をなさっておられますな」

    ミッターマイヤーは一瞬目を丸くし、照れ臭そうに頬をかいた。「そうか? 顔に出ていたか。いや、ロイエンタールの発熱が嬉しいわけじゃない。ただ……」彼は言葉を切り、少年のような笑みを浮かべた。「ロイエンタールに『帰らないでくれ』と言われたのが、妙に嬉しくてな。いや、正確にはそんな言葉を口にしたわけじゃないんだが……その、なんというか、帰ってほしくないという素振りを見せたんだ。あいつがそんな態度を取るなんて初めてで、つい顔が緩んでしまった」

    ヨーゼフの目に、驚きと柔らかな光が宿った。「なんと、オスカー様がそのような……!」と声を上げ、すぐに自らを制するように口元を引き締めた。「失礼いたしました、ミッターマイヤー様。あまりに意外なことで、つい取り乱してしまいました」

    「いや、いいんだ」とミッターマイヤーは手を振って笑った。「あいつが誰かに頼るなんて珍しいことだからな。ロイエンタールはいつも一人で抱え込んでしまう性分だから」

    ヨーゼフの目が一瞬、遠くを見るように揺れた。「その通りでございます。オスカー様は……昔からそうでいらっしゃいました」彼の声には、過去の記憶を呼び起こすような重みが込められていた。「実は、ミッターマイヤー様、どうかこの話はオスカー様には内密にお願い申し上げますが……」ヨーゼフは声を潜め、慎重に言葉を選んだ。「オスカー様がまだお小さかった頃、ひどい高熱に苦しまれたことがございました。医者からは『明日までに熱が下がらねば命の危険もある』と告げられるほどで……。普段は決してわがままを仰らないオスカー様でしたが、あの時ばかりはあまりの苦しさに、うわ言で『お父様、助けて……』と呟かれたのです」

    ミッターマイヤーの顔から笑みが消えた。「……それで?」

    ヨーゼフの表情が曇った。「私めが、ご当主にどうかお見舞いをとお願いに参りましたところ……」彼は言葉を切り、唇を噛んだ。その胸の内には、あの日の記憶が重く横たわっていた。——当主の冷ややかな声が、耳に蘇る。『いっそ死んでしまえばせいせいする』。その言葉を、ドアの外でロイエンタールが聞いてしまったのだ。倒れ込むロイエンタールを支えながら、ヨーゼフは悟った。あの時、オスカー様は全てを聞いてしまわれたのだと。それまでご当主から疎まれ、涙を流されることもあったオスカー様だったが、あの日を境に、どんな仕打ちを受けても涙を見せなくなった。きっと、全てを諦めてしまわれたのだろう。——しかし、ヨーゼフはその記憶を口にすることを許さなかった。ロイエンタールの心の傷を、ミッターマイヤーに晒すのは、ロイエンタールの意思に反すると感じていたからだ。

    「ご当主は、お見舞いにいらっしゃいませんでした」とヨーゼフは静かに続けた。「それ以来、オスカー様は誰かに頼ること、涙を見せることを一切やめられました。ご当主が、オスカー様に優しく接する使用人を解雇することもあったものですから、わたくしどもにも心を開かなくなられたのです」

    ミッターマイヤーの胸に、鈍い痛みが広がった。「そうか……」彼の声は低く、どこか遠くを見るようだった。
    ふと、彼の脳裏に自らの子供時代が蘇った。熱にうなされた夜、母が額に冷たい布を当ててくれたこと。父が心配そうに枕元に立ち、薬を飲ませてくれたこと。あれこれと世話を焼き、時にうるさいほどに声をかけ、笑顔で励ましてくれた両親の温もりが、ミッターマイヤーの心を満たしていた。だが、帝国上級大将の地位にありながら、ロイエンタールにはそんな記憶がない。父親の愛情どころか、ただの一度の見舞いすら受けられなかったのだ。親の温かな手を、優しい言葉を、知らずに育ったロイエンタールの孤独が、ミッターマイヤーの胸を締め付けた。——あいつは、こんな思いをずっと抱えて生きてきたのか。
    「ですから」とヨーゼフは声を上げ、かすかに微笑んだ。「ミッターマイヤー様を頼ろうとなさったと伺い、わたくしめ、心より嬉しく存じます。オスカー様が心を開かれたこと、それだけで……」

    ミッターマイヤーは一瞬、切なげに目を伏せたが、すぐに気を取り直して明るく言った。「ああ、もっとロイエンタールにわがままを言ってほしいものだな。あいつには我慢ばかりじゃなく、誰かを頼ることも覚えてほしい」
    「全くでございます」とヨーゼフは深く頷いた。「オスカー様を、どうかよろしくお願い申し上げます」
    「もちろんだ!」ミッターマイヤーは力強く答え、ふと視線を上げた。「お、果物の用意ができたようだな。俺が持って行く。ありがとう、ヨーゼフ」
    「とんでもございません、ミッターマイヤー様」ヨーゼフは恭しく一礼し、ミッターマイヤーの背を見送った。その顔には、静かな安堵と温かな微笑みが浮かんでいた。


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