白月だけが見てる「今日、とても月が綺麗だよ!相棒、見てくれ!」
青年が指差す先には、澄んだ星空に浮かぶ月がある。
いつも通りと言えばそうかもしれないが、暫く雨や曇が続いた璃月に身を置いていたタルタリヤにとっては、久し振りの月に感慨深いものがあったのだ。
「俺の故郷は、厳しい寒さだって話しただろ?確かに生活するには厳しいんだけど、辛いことばかりじゃないんだ。空気が乾燥して、空が澄み渡っているから、星や月が良く見えるんだよ」
故郷の美しい風景を思い出し、饒舌になったタルタリヤだったが、しまったと口を閉ざす。先程から隣を歩く少女―蛍は、一言も言葉を発していない。一人だけ浮かれて馬鹿みたいに話し続けるのは、あまりに滑稽ではなかろうか。そんな気持ちが、タルタリヤの心の中に湧き上がった。
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