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    つくるヒトの話/オリキャラくんと豪腕殿

     目が覚めたら脚が一本失くなっていた。ついでに砕けた顎が不気味だと恋人にふられた。トドメに役立たずは要らぬと隊を追い出された。十四の頃から戦場が生活の場だった俺は、それでなんにも無くなった。最悪である。
     こうなったら財布がすっからかんになるまで呑んで女を買ってそれから死のうそうしよう。
    「うっわお前べろべろじゃないか」
     決意し手始めに自棄酒を呷っていると、知り合いに声をかけられた。
    「ああ、この前ので……大変だったな。今は、どうしてる」
     なんだかんだでヒト恋しかった俺はソイツ相手に愚痴をぶちまけ、顔から出せる液体を全部出して己が境遇を呪い、最後に盛大にゲロをぶちまけ意識を失った。
     起きると知人はまだ横にいた。知人は溜め息を吐き、行く当てがないなら自分のところで働かないかと誘ってきた。
    「足がないのに?」
    「足がなくても手があれば料理はできるだろう」
     俺が戦場でちょくちょく料理番の手伝いをしていたことをソイツは覚えていて、自分の仕える将の料理人を探しているのだと言う。将の料理人に見合う給金が捻出できず、ヒトが見つからないのだとも。
     俺のような素人に毛が生えた程度のヒトにまでお鉢が回ってくるのだ、ろくな働き口ではないのだろう。
     どうせ一度なくなった命、なんでもよかった。俺は知人と共に一本の足でえっちらおっちら歩き、無事将の料理人の職を手に入れたのであった。

     新しい働き口は思っていたよりは悪くなかった。
     月決めで渡される予算の少なさには頭を抱えたが、主が贅沢や無理難題をふっかけてくることはなかった。毎日俺も含めた下人のための飯を作り、主もしくはその副官――これがくだんの知人である。采配師とは出世したものだ――まあ大体常に帳簿を見ては頭を抱えているけれど――が家に居るときには彼らの腹を満たす料理を出す。
     それだけだった。
     それだけだったのだ。
     主からは称賛もなければ文句もない。ただ皿が空になって返ってくる。一度食事の光景を覗いたらこれがまあなんともつまならそうに飯を流し込んでいた。
     早寝早飯早糞は兵の鉄則である。戦場で幾らでも見た光景だ。でも、それでも兵たちは温かい汁を出せば嬉しそうに笑ったし、時間があるときにはやれあれが食べたいだのこれは不味いだのと軽口を叩きにきた。
     主からは、何もない。
     知人はたまに顔を出して礼を言う。ついでに今度将が抱えている兵を家に連れてくるから夕飯を作ってくれと頼み込む。
    「任せとけ。兵士なんざ量が多けりゃどうとでもなる」
     一本足では言うほど気楽でもないのだが、山盛りの料理に目を輝かせる若い兵を見るのは楽しかった。
     将は相変わらず飯を流し込んでいた。

     初夏のある日、知人が調理場にやってきた。
    「将殿だが、冷たい料理は好かんようだ」
     知らなかった、とぽかんとする。主は飯について何も言わない。
    「次から冷菜は止めて、酒も冷やさずとも美味いものに変えてくれ」
     そうした。主は相変わらず何も言わなかった。皿だけは空で返ってきた。

     翌日、昼過ぎのことだった。
     調理場の裏で鍋を洗っていると、ぬうと影が差した。見上げれば主がいた。
    「な、なにか御用ですか」
     主はたいそう躰が大きく、顔がいかつい。戦場暮らしの長かった俺でもちょっと身構えるくらいに。
    「飯の用意か」
    「は、はい」
     沈黙。
     なにか気に入らないことでもあったのか。わざわざ調理場に来るくらいに? 青ざめる俺に、
    「昼餉の肉」
    「はへ?」
    「夕餉にもあれを出せ」
    「な、なんででしょうか」
    「……」
     将は。何を馬鹿々々しいことをと言わんばかりの顔で、

    「美味いものを食いたいと望むことの何がおかしい?」

     ――そこからのやりとりは覚えていない。気づいたら予定していた夕飯の仕込みを全部放り出し、下人を肉屋に走らせ、他に使える材料を漁っていた。
     美味かったのか。急拵えの料理だった。冷水でしめる予定だったプルタンタの茹で肉を適当な野菜と煮込んで濃いめのタレをかけた、料理名すらないなにか。わざわざ調理場に足を運ぶくらいに美味かったのか。
    「く、ふ、ふ」
     大真面目な顔を思い出すと笑いが込み上げた。俺は鍋を手に取る。
     俺の主はなんでも食うくせに好みにうるさく、俺はそんな主の料理人である。

     その後、主は武勲を重ね地位を上げ、出征と宴席とで自宅での食事の機会はぐんと減った。副官である知人は自前の家を持った。
     俺の仕事は屋敷の下人に食事を作ること、そして、たまに帰ってくる主に食事を作り、「またアレを出せ」と言わせることである。
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