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    mrmr_gmgm

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    👹👟
    Netflix and cillネタ。
    映画に誘われた👟が、👹とセックスするものだと勘違いしているお話です。
    rice purity testネタもふんわり含んでいます。

    キスは映画のあとで。※rice purity testで96点を叩き出した男は、ファーストキスも未経験、恋愛に関しても亀の歩みだろうという妄想から生まれたお話です。
    事実と異なる点があってもお許しください。



    麝香の香りがする。
    鼻腔を通って脳を蕩かし、やがては理性すらとろりと融解させるそれは──ヴォックスの香りだった。
    ともすれば催淫効果すら期待できそうな、甘い匂い。
    約二時間。その官能的な香りに包まれ続けたシュウの精神は、もはや限界に達していた。
    それもこれも、
    「一緒に映画を観よう」
    そう誘われて安請け合いをしたのが、良くなかった。
    まさかヴォックスの部屋で二人きり。しかも、映画の序盤からずっと肩やら腰やらを抱かれ続けるなんて思ってなどいなかった。
    それだけではない。
    加えて彼は、「シュウとならNetflix and chillできる」と宣っていたと聞く。その話を快諾したあとに知ったときは、己の尻の運命を想って天を仰いだ。
    ──だって、つまりこれって、セックスのお誘いってことでしょう?
    確かに、ヴォックスとは密かに想い合う仲だという自負はある。だが、まだキスすらできた試しがない。
    いやそもそも、シュウ自身未だ恋人とのキスというものを経験したことがなかった。
    それが、セックス。
    考えるだけで顔に熱が集まってくる。
    こと今日に至っては、ヴォックスの顔をまともに見ることすらできていなかった。映画の内容も、上質であるはずのソファの座り心地だって、もうよく分からない。
    今のシュウにとっての関心事はすべて、ヴォックスがいつ襲ってくるか。それだけだった。
    「──シュウ」
    「っぁ! な、なに?」
    映画も終盤。
    不意に掛けられた声に驚いて、思わず声が上擦った。
    情けない。気もそぞろであったのは事実だけれど、もう少しスマートに反応できないものか。
    自嘲を呑み込んで隣を見れば、スタッフロールから目を離したヴォックスがこちらを覗き込んでいた。
    「俺の勘違いだったら申し訳ないが」
    そう前置きをして、ヴォックスはゆるりと唇をひらく。
    「先程……いや、もっと言えば映画を観る前から緊張しているだろう? 落ち着きがないようにも見えるが、どうかしたか? 具合が悪いなら言ってくれ」
    心配そうに、ヴォックスの眼がシュウを窺う。女郎花によく似た金色が、ゆらりと煌めいた。
    人では到底あり得ぬその輝きに、目が離せない。
    いつだか、金眼には魅了の力があると聞いたことがあるが、まさしくその通りだ。見つめられるだけで、胸が早鐘を打つ。その心臓の音すらヴォックスに聞かれてしまうような気がして、シュウは思わず手で胸を押さえた。
    「……具合は悪くないよ。ただ、強いて言うならきみが悪い」
    非難の意を込めて、彼の目を見据える。すると、大きな瞳がぱちりと瞬いた。
    「俺が?」
    「そう、きみが」
    小さく頷く。
    責任転嫁も甚だしいとは分かっているが、童貞相手にNetflix and cillなんて言い出したのはヴォックスの方なのだから、少しぐらいは大目に見てほしい。
    「きみ、ぼくとNetflix and cillできるって言ったんだろう」
    「ああ……確かに」
    形の良い顎をするりと撫でながら、ヴォックスは記憶の糸を辿るようにして視線を宙に投げる。
    やがて、
    「もしかして、今日はずっとそれを気にしていたのか? 俺に抱かれるんじゃないか、って?」
    と、はっとしたように声を上げたのだった。
    渋々と再び頷けば、肩を震わせ必死に笑いを堪えるヴォックスが目に映る。
    いやむしろ、ほとんど我慢できてはいなかった。その証拠に、既に彼の瞳は弧を描き、美しい金の中に淡い桃色が混じっている。
    「笑いたいなら笑えば」
    「ふふ、くっ、すまない……いや、決して馬鹿にしているわけじゃないんだ。ウブで可愛いと、思って……」
    「そりゃあ、きみから比べたら僕なんて生まれたてのひよこみたいにウブに決まってるだろ」
    「っはははは!」
    呵々大笑。いよいよ堪えきれなくなったらしいヴォックスは、腹を抱えて笑い始めてしまった。
    何もそこまで笑わなくてもいいじゃないか。
    そう思いはするけれど、口にはしない。キスすらまともにしたことないのだ。そんな自分が、その先まで妄想しているなんてお笑い話以外の何物でもないことぐらい、シュウにも分かっていた。
    「──いや、すまない。そんなに膨れないでくれ」
    ようやく笑いの波が引いたらしい。
    眦に僅かな笑みを滲ませながら、ヴォックスは優しくシュウの頭を撫でた。大きな手のひらが、やけに温かい。
    「夜の誘い紛いのことをしたのは謝ろう。そんなつもりはなかった」
    「本当に?」
    「勿論。急に襲うなんてことはしないさ。相手の歩調に合わせるぐらいはする」
    言いながら、ずいとヴォックスの顔が近付いてくる。
    互いの吐息が、絡む。堪らなくなって後ずさりをするけれど、ソファの肘掛けに邪魔されて離れることができなかった。
    眼前で、ヴォックスが微笑む。
    「手は繋いだ。ハグもした。挨拶のキスにも抵抗がなくなったな。それなら次は──、」
    ヴォックスの言葉が、半端に途切れる。
    続いて聞こえてきたのは、ちゅ、という随分と可愛らしいリップノイズだった。
    「君のファーストキスを貰う。これが、俺の今日の目標だった」
    唇が、触れ合った気がした。
    たった一瞬の出来事だ。幻ではないかと自らを疑うけれど、未だ唇に残る柔らかくふにふにとした感触が、これは事実なのだと告げてくる。
    ──キスを、した。ヴォックスと。
    実感してしまえば、途端に頬が火照りだす。
    鼓動は、先程とは比べものにならないほどに激しさを増した。あまりのできごとに瞬きを繰り返すことが止められず、心臓は今にも飛び出してしまいそうだった。
    「キスひとつでそんな風になってしまうんだ。しばらくの間は、キスで満足しておこう。──だが、いつかちゃんと"映画に誘う"からな。覚悟だけはしておいてくれ」
    そう言って笑声を洩らすヴォックスの瞳には、笑みがなかった。
    ああ、神様。僕が純潔を散らすそのときは、どうか痛くありませんように。
    瞼を閉じ、現実から逃避するように再び天を仰ぐ。けれど、視界を閉じたことでより一層強くなる麝香の香りに、神への祈りは塗りつぶされた。
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