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    kishi_mino

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    kishi_mino

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    政府所属の豊前と、保護された松井の話。らくがきです

    記憶喪失の豊前と心を閉ざした松井 豊前江がその任務の詳細を山姥切長義から受け取った時、山姥切長義は苦い顔をしていた。彼の「遂に君の手に渡ってしまったか」と意味深な言葉に首をかしげながらそれを読み込むと、成程、その任務は遅かれ早かれ自分の元に回って来るだろうと容易に想像がついた。
     内容は、政府で保護している松井江の世話をしろ、というもの。
     松井江は半年前に消滅した本丸の生き残りらしい。らしい、というのは、同時期に豊前も同じように政府に保護されており、目を覚ましても意識が曖昧だった為よく覚えておらず、後から聞かされたからだ。当時、豊前は記憶喪失と診断され、帰るべき本丸も調べがつかず、政府に一時的に身を置くことになった。
     しかし、保護された松井は、傷こそは回復したものの心を閉ざしてしまっているらしい。政府の施設内には刀剣男士の為の心療内科もあるが、松井の治療は難航しているようだ。誰の問いかけにも一切反応を見せず、時折涙を流す。それが今も続いているという。そこで同じ江の者である豊前に白羽の矢が立ったという訳だ。
     同時に政府は、この任務が豊前の記憶を呼び戻す可能性があると期待をしているらしい。豊前も政府に保護されて同じく半年、本丸に居た頃の記憶は全く戻っていない。
     政府の敷地内の別館に、その建物はある。殺風景なビル群を隠すようにその建物の周りは木が多く植えられ、広場も併設された公園にもなっている。その公園を横切って、豊前は病棟に辿り着いた。
     受付の者に任務でやってきたことを告げて、担当の看護師に病室へと案内してもらう。内科と外科の病棟とはもう少し離れたところにまた別館があり、そこは良い意味で病院らしくない外観をした綺麗な建物だった。屋内も、殺風景な白い壁、ではなく、木を使ったぬくもりを感じさせる待合室や、優しさや温かさを感じる暖色系の色遣いが多い。患者一人一人に個室が用意されているようで、松井江は二階の端の部屋に居た。
     いざその部屋を前にした時、豊前は緊張を感じた。政府に来て初めて、江の刀に会う。任務で他の本丸に出張したこともあったが、遠目から見たことはあっても関わることはなかったからだ。
     看護師がノックをし、声を掛けて一呼吸置いてから扉をゆっくりと開く。
     松井は、ベッドの上で身体を起こして窓の外をぼうっと眺めていた。顔こそはよく見えなかったものの、豊前は松井の様子に心が締め付けられるような想いだった。
     松井江は細身の身体をしているという印象だったが、この松井は骨が浮き出て見えそうな程に痩せている。背は少し丸くなっていて、髪は手入れが行き届いていないのか艶が鈍い。
     この部屋は陽当たりがいいようで、窓からの光が松井を照らしていたが、それはきっと本当なら美しい光景のはずなのに、悲しい姿を浮き彫りにさせてしまっている。

    「松井江さん、あなたにお客様ですよ」

     看護師が松井に呼び掛けたが、その間も松井は特にその看護師に目をくれる事もなく、相槌を返す事もない。本当に無反応だった。

    「……松井?」

     豊前は恐る恐る松井に話しかける。豊前からは顔はよく見えないが、看護師の反応を見るに、何かしら変化があったのだろう。続けるようにと目で合図を送って来る。

    「はじめまして、になんのかな。豊前江だ。これからよろしくな」

     努めて明るく振る舞ったつもりだった。きっとこちらを見てくれるだろうと思った。多分自分になら心を開いてくれるだろうと慢心もあった。
     だが松井はこちらを見ることはなく、背が段々と丸くなっていったかと思うと。両手で顔を覆ってしまった。看護師が駆け寄って、優しく言葉を掛けながらその背を撫でている。小さなうめき声が聞こえ、きっと泣いているのだろうと思った。
     豊前は、どうすればいいかわからずただ立ち尽くした。何か間違えたのだろうか。何もわからない。松井江という刀は、自身が背負う逸話に時折表情を曇らせる事もあるが、花のような笑顔も見せるし、芯は強い。初めて会うのにそう思えるのは、やはり〝同じ江だから〟なのかもしれない。
     なにか手を貸してやりたい。松井が苦しめている何かを取り除いてやりたい。でも何もできない。そもそも自分がそれをしていいのかもわからない。彼の本丸は消滅した。その本丸にも〝その本丸の豊前江〟が居たかもしれないのだ。
     松井はずっと顔を上げる事はなかった。看護師も申し訳なさそうにしていたが、日を改めた方が良さそうだった。

    「……また来るよ。じゃな、松井」

     何か声を掛けるべきか逡巡し、結果気の利いた言葉は何も浮かばず、それだけを言って豊前は部屋を後にした。最後に絞り出すような声が「どうして」と言っていたような気がした。

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    kishi_mino

    DOODLE田舎の夏の話が書きたくなって導入だけ書いた。このあと豊前はお兄さんの家に通いまくって友達になるし、お兄さんに初恋する
    【ぶぜまつ】小六の夏休みに出会ったお兄さんの話 隣の家に、若いお兄さんが住みだしたらしい。
     らしい、と曖昧なのは、隣の家はなにせ百メートルは離れていたし、本当ならば高齢のおばあちゃんが一人で暮らしていたはずだし、こんな田舎には若いお兄さんなんているわけがないからだ。
     実際、豊前が両親に聞いてもそんな若い男は知らないと言っていた。もし村の人なら大人が知っているはずだから、豊前はその噂は誰かの嘘が面白半分に広まっているんだろうと結論付けて、しばらくそんな話を忘れていた。
     しかし、豊前は見てしまった。
     それは学校からの帰り道。夏休みに入るから、と学校の荷物を持って帰るように言われていた。習字セットや絵の具セットの袋を抱え、体育着の入った袋や上履きの袋がランドセルに揺られて暴れるのを邪魔に思いながら、うんしょうんしょと休み休み運びながら家へと向かう途中。もうすぐ家だ、と安堵を覚え、荷物を一旦置いて、ふう、と汗をぬぐった時だった。その時豊前が立ち止まったのが、その家の前だった。
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