冷たい透明ガラス越しに眠る顔はあどけない。いつも通りに届かぬ言葉を延々と投げかけて、気付けばもう三十分だ。そろそろ監視業務に戻らなければならない。後ろ髪を引かれる思いで、ひどく寒い部屋の扉を閉めた。
名残惜しいかと問われれば、それには否と答えるつもりである。才能ある文化人に対し、“あれ”は最上級の褒章の類なのだ。未来までその価値を伝えるべき、いわば選ばれた者だけがあの部屋に眠っている。エイスケさんはその名誉ある一人に選ばれたのだ。私としても誇らしく、同時に当然だとも思う。彼のグラフィティアートを間近で見ればわかる、彼の心の躍動がカラースプレーとともに刻まれているのだ。世界に轟かせたその息吹は、私から見てもひどく鮮やかだった。
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