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    フジやま凱風

    @lo31_tnk

    らくがきぽいぽい。
    ジャンル雑多

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    フジやま凱風

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    MIU404。第四機捜のバレンタイン。
    「私が預かるって言ったのに、ハムちゃんがそれは悪いって聞かなくて」
    「まぁ、所内で見られたら在らぬ噂が立つ可能性もありますしね」
    「噂なんてさせとけばいいのよ。どうせそんなこと絶対無いんだし」
    「あぁ…はい………」

    ##書きもの
    ##その他

    平常業務の第4機捜分駐所。

    「お疲れさまです」「おつかれさーまですっ」
    パトロールを終え、疲れ切った顔と声で消え入りそうな志摩と、いつも以上に機嫌が良く騒がしい伊吹の両極端が分駐所に戻ってきた。
    「おう、お疲れ…ってなんだぁお前ら。今日は特にでかい初動もなかったはずだろ」
    陣馬が二人の様子を見て訝しげな顔をする。書類整理をしていた九重も後ろで頷いており、めぼしい事件はなかったことがうかがえる。疲れ切った顔の志摩は、そのまま自分のロッカーに向かい、手荷物を詰めながら陣馬の問いに応えた。
    「いつもの5倍うるさかったんですよこいつが。ただそれだけです。」
    志摩がため息を吐きながら目線を向けると、伊吹は備え付けのソファに勢いよく座って足をブンブンと振ってニコニコというかニヤニヤといったような表情を浮かべていた。志摩の言葉に伊吹が「だって待ちきれないじゃん?」なんて返している。
    まるでオヤツ待ちの犬のような伊吹を見ても検討がつかない陣馬は、訝しげな顔をしたまま九重のほうを見て助けを求める。九重のほうは検討がついているのか、少し怪訝な表情をしていた。
    「なんだなんだ、ここでわかんねえの俺だけかよ」
    周りについていけないことにたじろぐ陣馬に、九重がため息を吐いて頭を掻く。
    「バレンタインデーですよ」
    こんなことで浮かれるなんて、と言いたげな目線で伊吹を見つつ陣馬に説明しようとした瞬間、さっきまで座ってた伊吹が突然バネのように立ち上がった。
    「そう!バレンタインデー!女の子が相手のためにチョコレート菓子を一生懸命つくってあるいは買ってその想いを相手に伝える一世一代のイベント!いいよねえバレンタインデー!」
    と、捲し立てながら九重との顔面距離1mmと言えるほどの距離まで迫り、そこからくるくると回って離れたかと思えば電灯の下で大きく腕を伸ばし全身に光を浴びるポーズをしていた。
    「…例の彼女からもらう約束でもしたんでしょうね」
    「なる…ほどな、そりゃ…ああなるか。職務怠慢になってねえならいいけどよ」
    陣馬・九重が憐れみを含んだ目で伊吹を見る。今どき子供でもあんなにウキウキしているのを見たことがない、と言いたげな二人の視線を遮るかのようにロッカーからけたたましい音が響いた。音の出処は志摩だ。
    「数日前から徐々に興奮度上がってて今日はもうずっっっっっとその話をパトロールどころか一日中ずっっっっっとやってるんすよコイツ!十分職務怠慢してますよ」
    今日一日分の溜めに溜めたであろう我慢を一気に吐き出すが如く志摩の怒号が響き渡る。本当に許せない、と言いたげな空気をかもしだしている志摩に陣馬も九重も顔がひきつる。触れないほうがいいのかなだめたほうがいいのか、そもそもなんて言葉をかければいいのかわからない。志摩の逆鱗に触れた張本人はそんな空気も読まずに志摩に近づき、後ろからぽんッと肩に手をおいた。
    「そんな落ち込むなって志摩ちゃんッ!ネッ!来年があるじゃん?」
    「うるせえ!!!!!」
    振り返るなり振りかぶった志摩の拳は空を切り、マトリックスよろしく後ろに笑顔で仰け反る伊吹。おそらく巡回中の車内でも何十回もこのやり取りをして最初は「知らない」「要らない」「無言」で対処していたが、あまりにも聞かれすぎて堪忍袋の緒が切れてしまったのだろう。手のつけられない獣はどちらなのか。そのままぎゃあぎゃあと言い合いを始めてしまい、頭を抱える九重と年長者の責任感なのか陣馬が割って入ろうとした瞬間だった。

    「ちょっとアンタたち何やってるのよ」

    部屋の出入り口付近で信じられないものを見たかのような顔の桔梗が四人をみつめている。その声に四人は一時停止し、状況理解するのに時間がかかってしまった。桔梗の手には普段は見慣れない手提げ袋が複数かかっていることも含めて。
    「二班とも勤務時間もう終わってるのに家に帰らないで何してるの?大声まであげて」
    桔梗が話し終わるまでに全員が桔梗の前に横一列に整列するのは容易なことだ。志摩だけはバツが悪そうに目線を少し泳がせてしまっている。
    「何かあったのか。緊急か」
    陣馬が空気を切り替えるために先程とは打って変わった表情で桔梗に問うが、桔梗はとくに表情を変えずに首を横に振った。一瞬で四人がホッとしたため張った空気じゃなくなったその瞬間を突いて伊吹が口を開く。
    「ねえ隊長もしかしてさ、その袋って~~もしかしてのもしかしてだよね!?」
    おやつを目の前にした犬、と言わんばかりのキラキラとした目に指差した先にあるのは白い光沢のある小さな紙袋。桔梗は指差された先を目で追い、ああ、と袋を顔の高さまで上げた。
    「もしかしてのもしかしてかもしれないけど、あなた達へのじゃないわよ。息子への」
    「なんだぁ~~残念!てっきりそれをくれるのかと思ってた!」
    「馬鹿言わないでよ。そうなったら第1機捜にもこれあげなきゃいけなくなるでしょ」
    その言葉に伊吹があからさまに脱力し、志摩に肘で小突かれる。当たり前だ、と言いたげな九重や志摩、貰うという頭がない陣馬には特にダメージはなかったようだ。
    「あなたたちはこっち」
    そう言いながら別の袋から取り出されて桔梗の手から伊吹の手に渡されたのは、大袋のアソートセットのチョコレートだ。
    「これあなたたち二班分。労いチョコ。日頃の感謝も含めてあるからね」
    大袋を指さしながら桔梗が言う。よくスーパーなどで見かけるサイズの大袋、その袋には期間限定である証拠の『HAPPY VALENTINE!』の文字がでかでかとプリントされている。当然貰えないと思ってた三人は驚いた表情でチョコと桔梗を交互に見て動揺を隠せないでいるが、伊吹のほうはまた少し脱力気味になった。
    「これじゃ貰ったうちに入らなくない?」
    「いいじゃない。会社で貰ったものは加算じゃないでしょ」
    そんなやり取りをしつつ伊吹はそっか~、でもありがとうございまーすと素早く切り替えた。その言葉に続いて他三人も頭を下げて感謝の意を述べる。九重がちゃんと当分すべきではと言い、陣馬は甘いもんあまり得意じゃねんだよなと言いながら数個受け取り、伊吹は色々味有るから選んだらいいんじゃない?と袋の中をかき回し、志摩は無言で数個チョコを受け取っていた。じゃ、私戻るから、と桔梗が部屋を出ようとしたのを見て伊吹が声をかける。
    「あ、隊長!あとでご自宅寄らせていただきま~す!」
    「はぁ?なんで………」
    伊吹が元気よく声をかけながら手を振っており、それをみて桔梗は怪訝な顔をする。
    「ああ、わかったわ。じゃあ志摩、アナタが連れてきて」
    「は?!なんで俺……」
    「私一人じゃハムちゃんに群がる伊吹止めらんないのよ。それに、ゆたかも会いたがってるし」
    断れる理由がなく、頭を掻きむしりながら志摩は不服そうにわかりましたと桔梗に返す。桔梗はよろしくね、と返して部屋を出ていったが、それを聞いていた伊吹は理解できずに何で?!と連呼しながら志摩の首を左右に振り回していた。そういうところだ、と九重は言いたかったが空気を察して言わなかった。

    桔梗の家につくまでの間、パトロール中よりすこし静かになった伊吹が楽しみだな~どんなのかな~と貰える前提でずっと口を開いている。げんなりした気持ちで運転席に座る志摩は、早く帰りたい気持ちを募らせていた。貰えるつもりは毛頭なかったが、今からチョコを貰いに行く相方をなぜ送り届けなければならないのか、そもそもチョコを貰えるだけでなんでこいつはこんなに喜べるのか、と変な方向に思考が寄っていく。その間もずっと伊吹は喋り続けているが、志摩の耳には一切入っていかなかった。

    桔梗の家の近くで伊吹が羽野麦―ハムちゃん―にもうすぐ到着する旨を連絡していたからか、家に到着すると玄関口で二人が待っていた。
    「すいません、こんな遅くに外で待たせて」「そうだよ、家の中で待っててくれたらよかったのに」
    志摩が車から降りて会釈する。伊吹は車のドアを閉めるなり小走りで羽野の下へ向かった。二月の夜風は思っているよりも冷たい。
    「ううん、連絡貰ってから出てきたから…そんなに長い時間待ってないよ」
    「でも寒いのには変わりないよ。隊長も、自宅前とは言え女性だけは…」
    伊吹は少し気に入らなそうな顔で羽野と桔梗の顔を見ながら話してたが、ちょっとした違和感に気づく。志摩も車の鍵をかけて玄関口に目をやり、伊吹の感じた違和感に同時に気づいていた。二人の視線から桔梗は察し、少しだけ口角を上げて笑った。
    「呼び鈴鳴っちゃうとゆたか起きちゃうからね」
    「えっ、ゆたか寝ちゃったんですか?」
    志摩がそう聞くと桔梗は頷く。じゃあ俺の来た意味が本当にこいつを送り届けるだけになるじゃないか、と少し苛立ちが湧いたが心の奥底に仕舞って顔に出さないようにする。
    「じゃ、入って。ここで立ち話してたらご近所迷惑だし」
    桔梗が玄関ドアを開ける。志摩と伊吹は一度遠慮したが、根負けしそうなのを察して上がらせてもらうことになった。
    「こっちが伊吹さんので、こっちが志摩さんの分」
    どう見ても手作りなのが伝わる別々の包装に入ったブラウニーを羽野が渡す。ヤッターと声を出しそうになったところをシーッと三人に遮られ身振り手振りで興奮具合を示しながらお礼を言う伊吹に対して、志摩は静かに喜びを露わにさせて羽野にお礼を言った。
    「で、こっちは私とゆたかから」
    「「え!?」」
    そう言いながら桔梗が別の包装のチョコを二人に二つずつ渡す。こちらは羽野のものとは違い、既製品ではあるが、先ほどもらったものよりもバレンタイン用で販売されてるチョコだった。そこでまた伊吹がヤッターと声をあげそうになるが羽野と桔梗が止めに入る。アレ、と三人が一人に目をやると、志摩が桔梗に貰ったチョコを凝視したまま動かない。
    「志摩ちゃん?」
    伊吹が声をかけるも、志摩はピクリとも動かない。
    「志摩さん?」
    羽野が声をかけるも、志摩はチョコレートから目を離さない。
    「志摩~?」
    桔梗が声をかけると、
    「………ハァッ!!!!!」
    突然息を吹き替えしたかのように声を上げ、肩で息をしていた。そして周りを見渡し、すいません、すいませんと言いながら後退り、桔梗を見る。
    「ちょっと状況の整理が出来なくて…え、隊長これは一体…俺たちさっき貰ったじゃないですか」
    たった数秒で汗だくになった志摩に伊吹は笑いをこらえている。ここまで動揺している志摩は初めてだと言わんばかりに。
    「会社でもらったものは加算されないって言ったでしょ。…ハムちゃんが貴方たちにあげるって話したら、ゆたかに『俺もあげたい!』て言われて…いや私が強制したわけじゃないのよ?そしたら、ゆたかもハムちゃんもあげるのに、ってなって、そしたら私も渡さざるを得ない状況で…」
    頭を抱えてため息を吐きながらしどろもどろに桔梗が言う。ゆたかもギリギリまで起きて自分で渡す、と言って聞かなかったが、結局眠ってしまったらしい。
    「女が男にとかそういう時代じゃなくなったってことなんだろうけどまさかゆたかが二人にあげるなんて言い出すとは思わなかったわ」
    横で羽野がくすくす笑っており、伊吹もケラケラ笑っている。その説明を聞いてる間に志摩も落ち着きを取り戻し、それは大変でしたね、なんて言う余裕ができていた。というか隣の部屋の仏壇前に置いてあるとても高そうなチョコと手作りのチョコが目に入ったおかげもあるのだろうが。

    「じゃ、そろそろ我々はお暇させていただきます」
    あれから少々時間も経過した。夜中に差し掛かる時間になっており、時間を確認した志摩が立ち上がると同時に伊吹も立ち上がる。その様子に桔梗と羽野も見送る、と立ち上がった。ゆたかが寝ていることを確認して足音を立てないように進み、外に出る。
    「お二人共、あの…ありがとうございました。ゆたかにも言っておいてください」
    「ちゃんとお返しするからね~!じゃ、おやすみ!」
    家の敷居を出て振り向いた志摩は頭をさげ、伊吹は機嫌よく羽野に手を振る。羽野は伊吹へ手を振り返し、桔梗は特になにも言わずに口角をあげて微笑むだけだ。
    二人が乗り込んだ車を見送りながら、羽野は桔梗をじっと見つめたあとにクスリと笑った。
    「なによハムちゃん、そんな満足げな顔して」
    「いえ、桔梗さんも志摩さんも面白かったなと思って」
    「ええ~?志摩はともかく私はそんなことないでしょうよ」
    そう笑いながら、二人は家の中に戻っていった。

    「はあぁ~~~~~~見てよ志摩!ハムちゃんが作ってくれたチョコ!俺のために作ってくれたチョコ~~嬉しい!」
    助手席で羽野から貰ったブラウニーの入った包みを大事そうに抱きしめたり掲げて見つめたりする伊吹。羽野の前で一つだけ食べて、味の感想を伝えて残りは家に帰って大事に食べるんだとその場で食べきらなかったのだ。
    「確かにうまかったけどさ、お前はちょっと喜びすぎだろ。中身俺とおなじのだぞ」
    「いや、俺のやつの方が多分愛情詰まってる。これはわかる。志摩のよりほんのちょっと俺のほうのが愛が入ってる。そう俺の第六感が告げている」
    「ア~ハイそうですネ~、お前の勘は当たるもんな~」
    運転しながら伊吹の戯言に適当に返答していく。でも行きのときよりも若干自分の心が軽いことに志摩自身気づいていない。そんな志摩をじっと見る伊吹。突然喋らなくなった助手席の相方に志摩が、なんだよ、とぶっきらぼうに返すとニコッと笑う。
    「ゆたかのお返しにはちょっと良いの買ってあげないといけないんじゃない?志摩」
    「あ~~…ソウデスネ」
    運転中の志摩に笑顔で顔を近づけていく。ニヤニヤと笑いながら志摩ちゃん?しーまちゃん?と調子に乗ってくるので、志摩は片腕を振って引きはがす。
    「しかしよかったね~志摩ちゃん?桔梗隊長名義のバレンタインチョコ貰えて~隊長へのお返しはどうする?やっぱセオリーとか意味とか考えて選んだりする?お返しの品に意味とかあるらしいよ」
    「あ?そんなの気にする人じゃないだろ隊長は」
    「でも何も知らないで『貴方のことが嫌いです』みたいな意味になっちゃうもん送るのは良くないんじゃない?」
    「それを考えすぎて相手の嫌いなモン送る方も馬鹿だろ。ていうか何でお前はそういうの知ってるんだ」
    「秘密♡」
    「チッ」
    そんな会話をしながら志摩の運転する車が芝浦分駐所に向かって走る。対話をしながらも道順を間違えることなく志摩はハンドルを切る。
    「ちょちょちょ、そっちの道じゃなくてこっちだよ俺の家!」
    「なんでお前の自宅まで送らなきゃならないんだよ。俺は、お前を隊長の家に送り届けろまでは指示されてる。お前が勝手に乗ってきたんだろ」
    「いやこんな夜中なら自宅に送ってくれたほうが楽だろ俺もお前も~」
    「お前俺の自宅知らないだろ」
    「じゃあ俺の自宅まで俺が運転すっから運転変われよ!」
    「ちょ、馬鹿か助手席からハンドル触るやつがどこにいんだよ!」
    ぎゃあぎゃあと声を上げながら公道を走る一車両。一瞬だけ蛇行運転をしたようにも見えたが、比較的車の数が少なく問題は起きなかったようだ。
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    フジやま凱風

    DOODLEMIU404。第四機捜のバレンタイン。
    「私が預かるって言ったのに、ハムちゃんがそれは悪いって聞かなくて」
    「まぁ、所内で見られたら在らぬ噂が立つ可能性もありますしね」
    「噂なんてさせとけばいいのよ。どうせそんなこと絶対無いんだし」
    「あぁ…はい………」
    平常業務の第4機捜分駐所。

    「お疲れさまです」「おつかれさーまですっ」
    パトロールを終え、疲れ切った顔と声で消え入りそうな志摩と、いつも以上に機嫌が良く騒がしい伊吹の両極端が分駐所に戻ってきた。
    「おう、お疲れ…ってなんだぁお前ら。今日は特にでかい初動もなかったはずだろ」
    陣馬が二人の様子を見て訝しげな顔をする。書類整理をしていた九重も後ろで頷いており、めぼしい事件はなかったことがうかがえる。疲れ切った顔の志摩は、そのまま自分のロッカーに向かい、手荷物を詰めながら陣馬の問いに応えた。
    「いつもの5倍うるさかったんですよこいつが。ただそれだけです。」
    志摩がため息を吐きながら目線を向けると、伊吹は備え付けのソファに勢いよく座って足をブンブンと振ってニコニコというかニヤニヤといったような表情を浮かべていた。志摩の言葉に伊吹が「だって待ちきれないじゃん?」なんて返している。
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