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    帝幻

    帝幻結婚していった男は何人かいた。それは一夜限りだったり何度も逢瀬を重ねて深く愛した人だったり様々だ。
    隣に寝ているこの男もまた、私を通過点として世間で言う幸せとかを追い求めて去っていくのだと思うと、今この時間が憎いほど愛おしく思えた。
    後始末を終えて寝室に戻ると彼はもういびきをかいて寝ていた。なんとも後腐れなさそうでいい男だと思う。
    食事の予定をとりつけた男が一人いる。私と同い年の大変可愛らしい作家だ。LINEの返信をすると、すぐに既読が付き、返信が来る。ふふ、と笑いが漏れてしまう。隣の男はぐうぐう寝ている。
    彼氏があと三人くらいいてもいいかな、と思う。そうしたら面白いだろうし、誰かがいなくなっても惜しくないだろう。去られて泣いたことも、去って泣かれたこともあるが、それが本気だったかはよくわからない。
    傷んだ藍色の髪を撫でていると、自傷行為をしている気分になる。いずれ一人になる自分への感傷が心地よくて寂しくて、今この深夜に起きているのは世界で私だけで、みんなこうやって眠っているのだという気がしてくる。そして都合悪く窓の外を通過する新聞配達のバイク。やっぱり私は一人じゃない。
    「げんたろ、起きてんの」
    「寝ておりますが」
    「俺も起きる」
    掠れた声は子どものようで、彼が二十歳であることを思い出して私の胸がざわざわと落ち着かなくなる。
    「寝ててごめんな」
    「幻太郎がしんどいのわかってっけど」
    「ごめん、怒った?」
    「次からは起きてるから」
    「なんかしゃべろ?しゃべったほうがいんだろ?」
    私はスマホの画面に集中する。
    「ごめんってば」
    「別に怒ってないですよ」
    「嘘だ。怒ってる」
    「いいんですよ、そういうの、私には」
    元彼だかなんだか知らないが、他の人のことを考えているくらいなら寝ていてほしかった。などど思う私の身体はこの二十歳にやられている。
    交わるなら齢を重ねていればいるほど良いと思っている。たとえその彼が不能だとしても、文学的フェティシズムを持ってさえいれば、人生経験および性体験の深さが私を襲い、私は私が若造だということを思い知らされ、彼らの性的嗜好を打ちつけられて他の二十四が味わったことのない性的快感に辱められる。
    「誰とLINEしてんの」
    LINE、そのイマドキっぽい語感につい笑ってしまう。
    「あなたみたいな人です。私と同い年の」
    「へえ、そいつ博打やるんだ」
    「あら、気づいていらっしゃったのですか。あなたの良さが博打狂いであるということ」
    「俺にはそれしかねえからな。正直お前を楽しませられてるとも思えねえし」
    「私は楽しいですけど」
    「嘘。俺で楽しかったらそいつと連絡とらねえだろ、俺の隣で」
    「へえ、わかっているんですね」
    「俺ってつまんない?」
    「つまらない方はそう言いますね」
    「じゃあもうなんも言わねー、って思うんだよ、毎回。でもなんか言わねえと本当に幻太郎に捨てられるんじゃないかって、怖えんだよ」
    「そこまで説明しなくて結構。わかっていますから。あなたは博打さえやっていればいい。博打に人生を費やしているかぎり面白いですからね」
    「……意地悪」
    「来週、夜景の綺麗なレストランで食事、ですって。あなたよりつまらないところが楽しそうです」
    ふ、と笑ってしまう。若い男というのはどうしてこんなにつまらなくて面白いのか。
    「もういい、寝る」
    ええ、あなたはそれでいいんです。私は彼に優しくされたり恋人みたいなことをされると冷めてしまう。行為が終わればすぐに寝てしまうくらいが丁度いい。二十歳にやられている私は、なかなか間抜けで、心と身体の無駄遣いをしているようで心地がよかった。
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    hypnorittun

    INFO・α×αの地獄のオメガバースです。
    ・幻太郎と自我の強い厄介モブ女ががっつり絡みますので、幻モブ♀が苦手な方はご注意ください。(幻からの恋愛感情はありません)
    ・全年齢レベルですが性行為を匂わせる描写が多々あります。
    ・ハピエンです。
    Strive Against the Fate(無配サンプル) 脈絡なくはじまった関係は、終わりもまた前触れなく訪れるのだろう。瞼をひらけば高く陽が昇っているように、睦み合う夜は知らず過ぎ去っていくのかもしれない。すこし日に焼けた厚い胸がしずかに上下するのを見つめるたび、そんなことを考える。
     ずいぶん無茶をさせられたせいか下肢には痺れるような怠さが残っていて、半分起こした身体をふたたび布団に沈めた。もう半日ほど何も食べておらず空腹はとっくに限界を迎えている。けれど、このやわらかなぬくもりから這い出る気には到底なれず、肩まで布団をかけなおした。隣を見遣ればいかにも幸せそうな寝顔が目に入る。
     夜が更けるまでじっとりと熱く肌を重ねて、幾度も絶頂を迎えて、最後に俺のなかで果てたあと、帝統は溶け落ちるようにこてんと眠ってしまった。ピロートークに興じる間もなく寝息が聞こえて、つい笑ってしまったっけ。真っ暗な夜においていかれたような寂しさと、尽き果てるほど夢中で求められた充足感のなかで眠りに落ちたあの心地よさ。身体の芯まで沁み入るような満ち足りた時間に、いつまでも浸っていたくなるのは贅沢だろうか。
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