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    ウルピと騎士ピ イベ後

    ウルピアヌスは偶然、深海教徒の隠れ家を見つけた。
    それほど大きな規模のものではなかったが、ウルピアヌスはこの偶然を活かすために、そこに乗り込んだ。
    中にいた教徒の数は、十人より少し多いくらいだった。
    ウルピアヌスはリーダー格と思われる人間一人を除き、文字通り一瞬で教徒たちを床へ転がした。
    「お前たちはここで何をしている?」
    「フッ……。私はただ仲間たちと経典を読み、祈りを捧げているだけだ」
    教徒はウルピアヌスを嘲るように笑う。
    しかし、そんなはずはなかった。
    たしかにこの部屋を見渡してみると、最低限の家具と、経典と、彼らの神の像―それくらいのものしかない。
    だが、この場所には海の匂いが染みついている。
    彼らもまた、ほかの教徒と同じように海の怪物を匿っているか、何か実験をしているのだ。
    ただ、その匂いのもとがどこにあるのか、ウルピアヌスにはまだ分からなかった。
    「お前を殺すことは一本の海藻をちぎるのと同様に容易い。それでも俺はお前の命を残した。それを無駄にしないことだ」
    「ハッ……仮に私たちがお前に対して何かを隠していて、それを今、全てお前に明かしたとして、それでお前が何もせず立ち去ると言うのか?」
    事実、ウルピアヌスはこの人間が全てを包み隠さず話したとしても、この人間も、この隠れ家も無事なまま残しておくつもりはなかった。
    また、ここで本当にこの教徒たちが経典を読み、祈りを捧げていただけだとしても、彼らはもっと大きな集団と繋がりがあるかもしれないし、あるいは、彼らと繋がりのある別の教徒たちが、何か研究をしたり計画を練ったりして、ウルピアヌスのかつての仲間たちをそれに巻き込もうとしているかもしれない。
    「まあ、お前がどうしても私の言葉を信じられないというのなら、ここを気が済むまで調べるがいい。私はその間、お前のせいで中断されてしまった祈りを再開するとしよう」
    笑みを浮かべまま教徒はそう言うと、自分で言った通り、ウルピアヌスから離れて像の近くへ行き、頭を垂れた。
    「……」
    教徒の言う通りにすることに不満がないわけではないが、たしかに、この人間の口を割らせるために時間と労力を使い続けるよりも、自分で欲しい情報を探した方がよいかもしれない。
    ウルピアヌスがそう考えた時、彼の背後にいた最後の騎士が
    「……海……」
    と呟いた。
    ウルピアヌスが振り向く。
    彼はウルピアヌスと共にこの建物へ入ってはきたのだが、ずっと何をすることもなくぼうっと立っていたのだった。 
    それが突然、口を開いた。
    「同胞ノ、匂い……」
    「……!」
    ウルピアヌスが目を見開く。
    「何か感じとったのか?」
    最後の騎士はウルピアヌスの質問に答えることはなく、ふらふらと歩き始める。
    そして、ある一点で止まり、自分の持つ巨大な槍で床を叩き始めた。
    床板はすぐに砕けたが、そこにあるのは土だけだった。
    しかし、彼はなおも腕を振り続ける。
    教徒もまた最後の騎士へと顔を向け、
    「あれは何をしているんだ?あれがお前の仲間ならば止めてやるといい。あんな意味のないことを繰り返しているなんて狂っているとしか思えない」
    とやはり笑ったまま、ウルピアヌスに言った。
    そうだ。
    あの騎士は狂っている。
    長い時間の中で、彼の体はすっかりシーボーンとなり、彼の名前も、過去も、人間性も失われてしまった。
    残ったものは、海に対する異常な執着だけだ。
    それだけが、人ならざるものとなった彼が、しかし、海の怪物とは一線を画している理由だ。
    その彼が、しきりに地面を―いや、この建物の下を気にしている。
    「……なるほど、地下か」
    ウルピアヌスはそう呟くと、教徒はもう笑顔で取り繕うことができなくなったらしく、その下に隠れていた恐怖や不安といったものが彼の顔に現れた。
    ウルピアヌスは
    「お前には後で話を聞くとしよう。お前が俺から隠そうとしていたものを見つけた後でな」
    と言い、教徒が何か反応する前に昏倒させた。


    しばらくして、ウルピアヌスは地下に通じる扉を見つけ、それを開くと、実験器具の並べられた机や、おそらくは実験の経過や結果を記録した書類が大量にしまわれた棚、いくつかの恐魚の死体が―実験室があった。
    生きた恐魚たちもいる。
    ウルピアヌスはその中へ入り、まず恐魚を全て始末してから、部屋にあるものを順番に調べていった。
    すると、やがて最後の騎士もやってきた。
    そして、海に関係するもの―恐魚の匂いが染みついている実験器具を破壊し始めた。
    「おい……」
    教徒たちの実験は大抵どれも似たようなもので、しかも、このような規模の建物で、ウルピアヌスの想像を超えるような実験ができるはずがない。
    一応実験に関するものも手に取って見てはいるが、ウルピアヌスはここの教徒たちの実験にはそこまで関心はなかった。
    ウルピアヌスが欲しいのは、ここの教徒たちとほかの教徒との繋がりを示す手紙や日記といったものだ。
    しかし、このままではそういったものが彼の破壊行動に巻き込まれてしまうかもしれない。
    ウルピアヌスは溜息をつき、調査の速度を上げる。
    だが、ひょっとしたら、最後の騎士はそのうちこの部屋への興味をなくし、出ていくかもしれない。
    彼が興味があるのは海そのものであって、深海教徒の海に対する歪んだ信仰ではないのだから。
    ウルピアヌスは一応、
    「あまり物を壊すなよ」
    と声をかけたが、最後の騎士からの返答はなかった。
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