居待月 黒野玄武が相棒と交際を始めたのは一ヶ月半前だ。張本人の家で、ちゃぶ台にもたれながら漫然とWWEの録画を見ている最中に、急に惚れたと言われた。黒野の側はといえば、かれこれ一年この問題と向き合った結果、言葉にして感情の輪郭を顕にしてしまえばもはや息の根を止めるしかないと深く考えるのをやめた矢先のことだった。だからつい簡単に俺もだと応えてしまい、そのまました口付けが互いのファーストキスになった。
その日から三週間、紅井朱雀は見事に挙動不審になった。声をかければ返事は裏返り、レッスン中に指先が触れるだけで足をもつれさせて転倒し、事務所のコーヒーカップを都合四つ割った。備品に回せる金はねえんだよと怒鳴るプロデューサーとアスクルでプラスチックのマグを頼む山村を見て、黒野は本件について紅井と話し合う必要を強く感じた。
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