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    みみみ

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    みみみ

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    クォーツの演目、不眠王の後日談です。
    王様が眠れるようになってから、ラストシーンに至るまでの妄想。
    (スズキサ、不眠王×娘)です

     コンコンコン。三度のノックの後、明るく澄んだ返事が内から聞こえてくる。愛くるしい妃の声だ。すぐに扉は開き、花開くような笑顔で迎え入れられる。暖かい夕食を囲んだ後、雑務を終わらせ城の隅にある小さな部屋へと訪れるのがここ数日の日課となっていた。
     彼女が俺の妃となったのは三日ほど前のことだった。俺の呪いを解き、この城を明るく照らした彼女。王妃となり、この控えめな部屋から移動する提案もされていたようだったが、彼女は笑って「この部屋は声がよく響きますから、歌の練習にはぴったりなんです」と断っていたようだった。そういう経緯があり、俺は寝る前にこの部屋へと通うこととなったのである。少しでも同じ時間を過ごすためなら、小さな労力など惜しくはなかった。
     そうして話題になるのは、主に彼女の過ごした一日についてだ。時折歌も混じえた、弾んで飛んでしまうような語り口調。
     王妃になってからも城へ来たときと変わらない彼女。彼女の口からは勿論だが、臣下たちが彼女について話しているのが時折耳に入ることがある。やれ落ち着きがないやら、やれ王妃としての振る舞いがどうやら。料理番やメイド長の声で聞こえてくることの多いそれは、内容とは裏腹に存外綻んだ表情でなされていて。新しく妃となった、なにも知らない田舎娘の教育係という立場上での会話だということはすぐに分かった。
     柔らかな青草と可憐な花の香りのする彼女のことを、皆が好ましく思っている。好いたものが愛されているのを見るのは、存外気分が良かった。
    「お前は随分お転婆だと皆が言っていた」
    「まぁ!褒め言葉なら直接伝えてくださったらいいのに!」
     皆さんは随分と照れ屋さんなのね。そう言って笑う彼女の手の一部はインクで擦れた後があった。木で組み立てられた机には羊皮紙が何枚も重ねられている。それを指摘すると、彼女はまた笑みを零す。
    「熱心なものだな」
    「だって、楽しいんですもの!」
    「楽しい?」
    「えぇ!学べば学ぶほど知らないことが増えていくんです。こんなに不思議なことってありません!」
     物腰の落ち着いた大臣の顔が浮かぶ。座学の教育を担当する博識な彼は、この頃更に蔵書室にいる時間が増えた。「あれはどうして、これはどうして」と尋ねる彼女に触発されたのだのだろう。
    「そうそう、それに今日は料理番さんと一緒にヤギの乳でチーズを作ったんです」
     限られた相手にしか心を開かない料理番。そんな彼女が当たり前のように自分の領域に人を招いている。それがどれ程特別なことかをこの可愛らしい妃は知らないようだった。
    「メイド長さんには妃としてのマナーをこれでもかというほど教えていただいて、」
     自分にも他人にも厳しいメイド長。そんな彼女がなにかものを言うのは、相手に対する期待の表れだ。忙しい彼女はどうでもいい相手に割く時間を持ち合わせてはいない。
    「掃除番さんとは楽しくお掃除をしました。お城が綺麗だと心まで綺麗になる気がしますものね」
     気が弱く、常に一歩引いた位置でことを見ている掃除番。そんな彼女は妃となってなお雑用をこなすこの娘に驚きと戸惑いが隠せない様子だった。
    「占い師様は今日も私を占ってくださって。私には分からないけれど、占い師さまにはなんでも見えてらっしゃるのね」
     常に飄々とした占い師。妃はそんな占い師の元に毎朝行っているらしかった。小さな言葉から大きな糸口を見つけ出す妃に、占い師も随分楽しそうだった。
    「騎士様には私はいつも元気だと褒めていただきました!」
    気難しく素直ではない騎士。今日は「木に登るのはやめろ!」と怒鳴る声が庭からよく響いていた。「高いところからはよく声が響くんです!」と返された彼は地団駄を踏みながら「落ちたらどうする!」と怒りなのか心配なのか、的はずれな言葉を投げていた。
     妃の一日はまるで物語のようだ。常に何かが起こっていて、退屈などない。それは彼女が常に物事を考え、受け入れ、自分から行動しているからに他ならない。
    「お前の話は聞いていて飽きないな」
    「私も王様とたくさんお話ができて嬉しいです」
    そう言って心の底から楽しそうに笑う彼女。しかしもうすぐ日が回る。明日も日が昇るのと同じ頃に目覚めるであろう彼女のことを考え、自室へと戻るために腰を上げた。
    「もう帰ってしまわれるのですか?」
    「あぁ。お前も疲れているだろう。ゆっくり休め」
     そう告げ、名残惜しく思いながらも踵を返すと、王様、と控えめな声が背中へ当たる。
    「その……今度は私が王様のお部屋にお邪魔しても?」
     突然の申し出に上手く言葉が出なかった。そんな俺の様子を正しく汲み取ったのか、彼女は言葉を続ける。
    「……王様が眠るそのときまで言葉を交わすことができたなら、どれほど幸せかと思ったんです」
    なんと可愛らしい願いだろうか。たわいのない話をして、一日の終わりを共にする。たったそれだけで幸せなのだと言う。
     「あぁ、今も十分すぎるほど幸せだというのにいつからこんなに強欲になってしまったのかしら」と頬を赤くして呟く彼女。欲の無い彼女が、俺のことだけには欲を抱いている。そのことにどうしようもない愛しさを感じて可愛らしい妃へと振り返った。
     そのまま頬を覆った娘のやわこい手に自分のものを重ね、丸く綺麗な額に口付けを落とす。
    「明日の夜、俺の部屋で待っている」
     お前だけを。そう告げると、更に赤くなった耳へとも唇を添えた。話をして、美しい歌を聴いて。眠りに落ちるその時まで。
     石膏を丸呑みしたかのように固まってしまった愛しい妃に不器用ながら微笑みかけると、部屋を出た。扉を閉めると、一気に身体から力が抜けてしまってそのまま背を凭れかけさせた。随分とらしくないことをしてしまったような気がする。遅れて顔に熱が集まっていた。
     あぁ、今日は上手く眠れないかもしれない。
     久しぶりに感じたそれは、この間までのものとは全く違っていて、どうしようもなく幸福だった。
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    みみみ

    MOURNINGクォーツの演目、不眠王の後日談です。
    王様が眠れるようになってから、ラストシーンに至るまでの妄想。
    (スズキサ、不眠王×娘)です
     コンコンコン。三度のノックの後、明るく澄んだ返事が内から聞こえてくる。愛くるしい妃の声だ。すぐに扉は開き、花開くような笑顔で迎え入れられる。暖かい夕食を囲んだ後、雑務を終わらせ城の隅にある小さな部屋へと訪れるのがここ数日の日課となっていた。
     彼女が俺の妃となったのは三日ほど前のことだった。俺の呪いを解き、この城を明るく照らした彼女。王妃となり、この控えめな部屋から移動する提案もされていたようだったが、彼女は笑って「この部屋は声がよく響きますから、歌の練習にはぴったりなんです」と断っていたようだった。そういう経緯があり、俺は寝る前にこの部屋へと通うこととなったのである。少しでも同じ時間を過ごすためなら、小さな労力など惜しくはなかった。
     そうして話題になるのは、主に彼女の過ごした一日についてだ。時折歌も混じえた、弾んで飛んでしまうような語り口調。
     王妃になってからも城へ来たときと変わらない彼女。彼女の口からは勿論だが、臣下たちが彼女について話しているのが時折耳に入ることがある。やれ落ち着きがないやら、やれ王妃としての振る舞いがどうやら。料理番やメイド長の声で聞こえてくることの多いそ 2454

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