『手遅れのシャルウィーダンス』
戸締まりは確認してから寝ること。
明日の用意は前の日に済ませること。
知らない人には、ついていかない。
どこの家に行っても言われることは変わらない。平坦な毎日を、退屈な言いつけ通りに過ごしてみせていた。
今の自分の部屋は、二階にある。今後もう少し防犯意識は強く持っておこう。目の前のふざけた光景を見て、悠長にそう思った。
「こんばんは」
強い風が、狭い部屋に吹き荒れる。二階だからと窓の鍵は油断していたかもしれない。登ってくる手段は如何様にもあると知っていたが、都会とはやはり恐ろしい世界だ。
何のコスチュームだろうか。すぐにショーに出れそうな、全身真っ黒なロングコートの男は、窓枠に足をかけたまま、こちらに手を伸ばした。
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