七夕に願いを「これに好きな願い事を書くといい。ああ、主の場合は君の神に対して願い事を書くのだったね」
短冊を何枚か手渡した歌仙兼定は、彼の主――内村光一を見て柔らかい笑みを浮かべた。
今日の光一の服装は、いつもの洋装ではなく浴衣だった。落ち着いた紺地の浴衣に、同じく落ち着いた色の男帯。いつも手首につけてるロザリオブレスレットが袖の隙間から覗いていたが、今日はそれが少しだけ浮いて見えた。
「急いで誂えたけど、ちゃんと似合っているようでよかった。動きづらくはないかい?」
「少し……。あの、本当に似合ってる?」
「似合っているとも。僕の見立てに間違いはなかったと感心していたところさ」
「よかった……」
そう言うと、光一は受け取った短冊を胸に当てて、恥ずかしそうに、けれどどこか嬉しそうに笑った。おそらく彼の頭に浮かんでいるのは、たった一人の顔だろう。へし切長谷部、彼の忠実な部下であり、大切な恋人。浴衣を着せてほしいと頼んできたのも、たぶん「長谷部に見せたいから」といったあたりだろう。
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