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    こまざわ

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    こまざわ

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    エイ三さん視点のラーヒュンです。
    本編終了後のお話。
    ラーヒュンを考える上で、エイ三さんのことは無視できぬ…と思いつつ、エイ三さんを当て馬のようにはしたくないし…と苦悩しながら書きましたが、そう見えてしまったらすみません…。

    風の行く先「ヒュンケルが、もう出発した……?」
     愕然と、事実を確認するようにエイミが呟く。
    「昨日の今日で、ですか……!?」
    「そうね」
     表面上は困ったように、しかしどこか楽し気な色を隠しきれていないレオナは、それでもどこかあきれたようにため息を吐く。
    「私は止めたのよ。ほとんど休まずに行こうとするんですもの。でも私の静止なんか聞かないわよ、あのふたり」
     そう、つい先刻ヒュンケルはあの半魔の男、ラーハルトとともにこのパプニカ城を出立した。

     行方が知れなかった勇者ダイが帰還して三日が経ち、昨晩はパプニカの王城でほとんど内輪のパーティーが開かれた。
     他国の来賓を呼んでのものは後日、日をあらためて行われるが、ひとまずはアバンの使徒を中心としたごく一部のものたちでダイとの再会を祝したのだ。
     そこにはエイミが思いを寄せる相手であるヒュンケルの姿もあった。
    パーティーが始まって早々にアバンとその使徒たちに囲まれたヒュンケルは、控えめな笑みで弟妹弟子たちに相槌を打ちながらも、師からはほかの弟子同様に子どものように扱われ困惑の表情を浮かべていた。まるで家族のような彼らをほほえましく見守っていれば、今度は元魔王軍のふたりが彼を囲む。巨大なワニとオリハルコンの兵士は、親し気にヒュンケルの肩をたたく。彼自身も元魔王軍であるからか、同じ武人としてか、気兼ねのない関係といったふうで、少しだけうらやましい。
     それからもかわるがわるヒュンケルに話しかけていく人たちを横目に、エイミも料理と歓談を楽しむ。
     内輪とはいえドレスコードが用意されたパーティーではヒュンケルも正装をしていて、視界の端に映るだけでもどぎまぎしてしまうほどにかっこいい。
     きっと、勇者探しの旅に出る前のエイミだったならば、隙を見てヒュンケルに話しかけに行っただろう。
     しかし今のエイミは、あまりそういった気にはならなかった。
     ふと、視界の端の銀色が動くのが見えた。
     周囲から人が引いた隙とばかりに気配を空気に溶かすように壁際へと向かう。
     その先にいたのは、あの半魔の男だ。
     ヒュンケルはあるべき場所に戻るかのように、隣に立つ。
     気配をほとんど感じさせないまま壁際に立つ男、ラーハルトは、ヒュンケルを一瞥することもなく勇者に目を配っていた。
     肩が触れ合うほどの距離で、パーティー会場を見るともなく眺めながら、ひとことふたこと言葉を交わしたあとは黙り込む。その空間が、悔しいくらいに絵になるのだ。

     本当は、勇者探しの旅に同行する前から薄々わかっていた。
     彼の心はもう、とうに奪われていたのだと。
     それはきっと、彼らが最初に命のやりとりをしたときにはもう、すでに。
     そうとわかっていながらも彼らの旅に同行したのは、ひとえにヒュンケルの体調を慮ってのことだ。
     それまでもさんざん無茶をしでかしてきたヒュンケルを心配するのは必然であったし、エイミにとっては突然現れたラーハルトという男への不信感もあった。
     案の定、最初のころはエイミが強引にでも休息を勧めないとヒュンケルが倒れるまで休もうとしなかった。それがいつのころからか、ラーハルトが誰よりも早くヒュンケルの不調に気が付くようになっていた。
     それは、はたから見ていても、かけたピースがぱちぱちとはまっていくような感覚だった。
     実のところ、旅を始めたころはヒュンケルとラーハルトは些細なことで言い合いをする場面もあった。かと思えば昔からの付き合いであるかのようにぴったりと息の合ったところも見せる。
     後に、戦場で出会ったふたりはさほど会話を交わしたわけでもなく、それでも何か通じ合うところがあってともに行動しているのだと知った。
     それは運命だとか、魂のつながりだとか、そういったものだろうか。
     アバンの使徒の長兄としてふるまっているときには見せることのない表情を、ラーハルトの前では気兼ねなく見せるヒュンケルは、不死身の戦士などではなく、ただのひとりの青年だった。
     ようするに最初から勝てない勝負に挑んでいたのだ。
     今にして思えば、ヒュンケルとラーハルトの絆の証ともいえる魔槍を捨てたことも、とんでもない空回りだったのだ。
     その事実に悔しさやらいたたまれなさもあるが、今となってはそれよりも、どこか保護者のような気持ちが芽生えつつある。
     だからこそ、あのふたりの行動力には頭痛を覚える。
    「確かに旅に出るとは聞いていたけど」
     それは今後の身の振り方について話したときにヒュンケルが言っていたことだ。
     すでにレオナや彼の師であるアバンには相談していたことで、アバンの使徒のひとりとして特定の国家には属さずに、各地を旅しながら魔物の討伐や復興の支援を行うのだという。その道連れとして手を挙げたのが、ラーハルトだった。
    「てっきりラーハルトはダイくんからは離れないと思ったんだけどねえ」
     にんまりと下世話な笑みを浮かべるレオナに、エイミはため息を吐く。
     ラーハルト曰く、「ダイ様のそばで控えているよりも、こちらの方がひいてはダイ様のお役に立てると判断した」のだというが、それだけでもないだろうというのがレオナの見立てだ。
     まあそれも当たらずも遠からずだろうとエイミも思う。
     ヒュンケルが大魔王との戦いで受けた傷は、ある程度回復したとはいえ現役のころと比べるべくもなく戦力は落ちている。天候によっては身体が痛むこともあるし、体調を崩して寝込むことも少なくない。そんなヒュンケルとともに旅に出るなど、ラーハルトの性格からして、彼の述べた理由を考慮しても合理性に欠けるとしか思えない。
     どうにもあのふたりの間には、言葉には言い表せない特別な何かがあるのだ。
     そんなわけで、ふたりで行動することを決めたのは、まあまだわかる。
     しかし、だからといって、こんなにもあっという間に旅立っていってしまうとは。
    「あの人ときたら……。ラーハルトもラーハルトよ……」
     今となってはラーハルトがヒュンケルに無茶をさせることはないだろうという確信はある。あるのだけれど、なによりもその点においてのヒュンケル自身への信用が一切ないだけに、出だしからこれでは先が思いやられる。
     頭を抱えるエイミに、レオナはこともなげに告げる。
    「さっき出てったばっかりだし、今ならまだ間に合うんじゃない?」
     その言葉にはじかれたように顔を上げたエイミは、レオナに非礼を詫びてのち、大急ぎで城内を駆ける。
     やがて城壁の先に見慣れた後ろ姿が見えてくる。
    「ちょっと、あなたたち!!」
     城壁の手前から声を張り上げれば、ぴたりと足を止めてこちらを振り返る銀色と、一瞥もくれずに歩き去る金色。
    「ラーハルト! あなた絶対にヒュンケルに無理させないでよ!! ヒュンケルが無茶しようとしたら何が何でも止めなさい!!」
     力いっぱい叫べば、一応の自覚はあるらしいヒュンケルが苦い表情をした。ラーハルトはと言えば、振り向きもせず、しかし片手を上げて応える。
     言われずとも、とでも言いたげなその態度に、なんとか留飲を下げる。
     それから、深く息を吸って、背筋を伸ばす。
    「——ヒュンケル」
     囁くような声は、それでも彼の耳には届いているだろう。
     伝えたい言葉は山ほどある。
     言葉にしきれないことも、たくさん。
     けれど。
    「いってらっしゃい、気を付けて」
     数えきれないほどの想いをなんとか押し込めて、それだけを風に乗せる。
     ふわり、ときれいな銀がなびいて、ヒュンケルは小さく微笑み、片手を上げる。
     そうして背を向けると、すでに小さくなっているもうひとりの後ろ姿を追って駆けていく。
     そのふたりの後ろ姿はかつて死線を潜り抜けてきた戦士たちとは思えないほどに穏やかで、幸福で。
     私はちゃんと笑えたかしら。
     少しのさびしさを振り切るように、去りゆく後ろ姿に背を向けて、エイミも自分のゆく道を歩き出した。
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