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    Yuzuki_BLver

    @Yuzuki_BLver
    👀緑谷出久君右固定派🥦
    基本的に相出か同期出、マイク出の小説ばかり!時々勝出や轟出、ヴィラン出等、書きたい事を書きたいように書く供養の墓場出来な場所です。

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    Yuzuki_BLver

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    轟くんも、かっちゃんも、麗日さんも酷い子設定です。でっちゃんは、取り敢えず不憫で可哀想だけど、最終的にはハッピーエンドです。

    気になる方はUターン必須です。

    ##相出

    Truth seeks no corners高校1年の体育祭。これが全ての始まりだった。

    雄英高校に進学するまでは、緑谷出久には友達と言える人は居なかった。途轍もなく仲が拗れた幼馴染爆豪勝己が、何かに付けて僕を蔑み、暴言を吐き、個性を使って苛められる。そんな毎日。だから、より一層僕に関わろうとする者は、共に僕を苛めるもの達しか居なかった。
    毎日が地獄で、担任だって、それこそ学校中の皆が結託した様に虐めを繰り返し、かと言っておま母さんが心配するから登校拒否すら出来ずに居た。

    中学二年の時だった。進路希望の話が出て、全力で挑んで駄目だったら諦める。そう決意して『雄英高校ヒーロー科』と書いた。それを、あろう事か担任がクラスメイト達の前で笑いながら暴露した。
    爆豪勝己ことかっちゃんは、鼻で笑い、怒り、案の定記念受験なら辞退しろと迫ってきた。けれど僕は、何度爆破されようと首を縦には振らなかった。

    そしてその日。かっちゃんから、笑いながら自殺教唆を言い渡された。

    『来世は個性が宿ると信じてワンチャンダイブ』

    ああ、僕はそんなに嫌われていたのか。改めて思い知らされた。帰宅しようとする僕に何故かかっちゃんが寄ってきて、僕が趣味で書き留めていた『将来の為の分析ノート』を目の前で爆破され、窓から投げ捨てられる。それを見て、皆が笑いながら言った。

    「可哀想だろ?カツキ!この歳にもなって現実が見えてないんだ」
    「弱い者いじめになっちゃうよー!あはは」

    何が弱い者いじめに『なっちゃう』だ。もう10年以上、無差別に僕を虐め、蔑み、哀れみ、バカにしてきた人達がよく言える。それも皆が『ヒーロー科希望』の癖に。

    けれどこの日。僕は居るはずもないと思っていた神を、信じても良いと思う出来事が起きた。
    それはオールマイトとの出会い。最初こそ否定された。でもヘドロヴィランに襲われるかっちゃんを、必死で助けようと動いた僕を見て、オールマイトは再度僕を探し、見付け、彼の秘密を聞くと共に後継者となった。

    受験までの期間は死に物狂いだった。オールマイト作戦の肉体改造計画と同時進行で受験勉強。そして受験日前日、僕は正式にオールマイトから個性を託された。


    𓂃♡ˎˊ˗


    あれから一年。沢山あった。高校一年の体育祭で全面衝突した轟焦凍君と仲良くなれ、麗日お茶子さんと、飯田天哉君と友達になる事ができた。初めて、学校生活を謳歌した。途中でヴィランとの戦闘などもあり、寮生活になっても、僕はとても楽しかった。

    そんな二年生になってすぐの事だ。轟君とトレーニングルームでトレーニング後、更衣着替えていると

    「なあ、その傷治さないのか?」
    「・・・これは戒めだから」

    体育祭で出来た歪な手を見て、轟君は聞いてきた。そして

    「緑谷」
    「どうしたの?轟君」

    間が空いてから告げられた言葉に、僕は全身から火が出るほど真っ赤に染まった。

    「緑谷と居ると、心臓が痛え。病気かも知れねぇからリカバリーガールに聞いたら恋だって言われた」

    濃い?故意?鯉?・・・恋!?!?

    「体育祭以来、緑谷が何処で何してんのかとか、よく考える。他の奴らと話してるとモヤモヤする」
    「へ?ぇ、あ・・・ふぇ」
    「俺はお前が好きなんだと思う。俺と付き合ってくれねえか?」

    こちらわじっと見て、逃げもはぐらかすのも許さない力強いオッドアイ。僕も良く飯田君や八百万さんと話す轟君を無意識で目で追っていた。胸だってしょっちゅう苦しくなるし、轟君の笑顔が見られると嬉しくなる。ああ、そうか。僕もいつの間にか好きになってたんだ。ストン、と胸の奥がしっくり来た。

    「ぼ、ぼぼぼ、ぼきゅも、好き・・・っ」
    「本当か?嘘じゃないよな?」
    「も、勿論!」
    「・・・嬉しい」

    轟君は、今まで見たことの無いような、幸せそうな笑みを浮かべた。
    この日から僕達は『友達』から『恋人』になった。点呼前の一時間はどちらかの部屋で過ごし、週の何日かは点呼後に抜け出して互いの部屋を行き来する。勿論キスや体の関係にだってなった。最初は痛かったけれど、それすら嬉しくて、だんだん痛みより快楽を拾うようになった身体は、貪欲に互いを貪りあった。そこに確かに『愛』はあった、はずだ。


    けれど、終わりは突然訪れた。
    それは三年の後期。インターン活動が多く、なかなか時間が合うことも減ったけれど、プロヒーローを目指すからには仕方のない代償だ。寂しくない、とは決して言えないけれど。
    たまたま都合があった日の夜。久し振りに轟君の部屋にお邪魔した。そこには釣書が無造作に置かれていた。

    「と、轟君、お見合い、するの?」
    「ん?・・・ああ、それか。しないぞ」

    はっきりと言い切った轟君に安堵したのも束の間

    「八百万と婚約が決まったからな」

    僕の心と思考が凍り付いた。

    「・・・ごめん、もう一度聞いても、良いかな?」
    「クソ親父の言う事をきくのはムカつくが、八百万の家との繋がりは今後必要になる。俺達も知らねえ間柄じゃねえし、八百万も承諾したって言うし、婚約することになった」
    「八百万さんと、結婚、するんだね」
    「だが、俺達の間に愛はねえし、俺は緑谷以外興味ねえから、肩書だけな」

    ああ、彼は何も理解していないんだ。何故かそう思った。互いに愛が無かろうと、例えそれが同性だったとしても、僕にとってはもう『僕が』浮気相手、もとい不倫相手になってしまうんだ。僕はそれを見ないふりをしながら関係を続ける事が出来るほど、大人じゃない。
    だから、言わなければ。涙は絶対に流してやるものか。冷静を装って、そう、淡々と話せばいい。親も巻き込んでの婚約だ。例え気が変わっても、無効にするのは至難の業だ。

    「轟君」
    「どうした?そろそろ寝るか?」

    当たり前のように枕を二個置いて、就寝準備を始める轟君。その後ろ姿に

    「婚約おめでとう。八百万さんなら美人だし頭も良いし、素敵なプロヒーローにだってなるだろうね。轟君に相応しい相手じゃないか」

    明るく声を作り、必死で広角を上げてそう告げる。

    「緑谷?おい、なんか変・・・」
    「それじゃあ、この関係もお終いだ。今までありがとう。轟君。楽しかったよ」
    「おい!本当に、どうし・・・」
    「理由はどうあれ、僕は不倫相手になる気はない。それに八百万さんに不誠実だ。・・・八百万さんに顔向けが出来ない。今だって、婚約者を得た轟君と恋人で居る僕は彼女にとったら『浮気相手』だ」

    僕の言葉に、轟君は目を見開いて固まった。だから、僕はゆっくりと立ち上がると

    「今まで本当にありがとう。八百万さんとお幸せにね」

    そう、何とか祝福の言葉を伝え、二度と足を踏み入れない轟君の部屋を後にした。


    𓂃♡ˎˊ˗


    あれから約三ヶ月。轟君が僕に接触しようとする度に避け続けた。L★neも無視した。周りからは喧嘩でもしたのかと聞かれたが、それもはぐらかした。
    そんな時、人気のない階段横でしゃがんていると、突如足を蹴られた。

    「ッたぁ!!」
    「クソナード、お前俺の真後ろの席で鬱陶しい事してンじゃねェぞ!クソが!」
    「か、っちゃん・・・」

    そう、何故かかっちゃんが僕を見下ろしていた。

    「何があったんだよ。余所余所しい上に視線がキメェ!それとも何か?いっちょ前に俺に隠し事でもしようってか??デクのくせに」
    「そんな、つもり、じゃ・・・」
    「じゃあハッキリさせろや!」

    かっちゃんの言葉に、僕の瞳からは何故か涙が零れ落ちた。

    「・・・てめ・・・っ、マジで何があった」

    突然の事に焦ったのか、静かなトーンでそう言うと、突然僕の横の隙間にしゃがみこむ。

    「と、轟君、八百万さんと、婚約、決まったんだ、て」
    「まぁ、エンデヴァーの息子だかンな。八百万家も名家だろうし、必然だな」
    「うん、そう、だよね。・・・実はね、僕・・・二年になってすぐ位から・・・轟君と付き合ってたんだ」

    僕は耐えられず、秘密にし続けてさかた事を暴露した。

    「・・・ハ?」
    「へへへ、気持ち悪い、よね。・・・でね、この前休みが偶然合ってさ・・・その時轟君の部屋に釣書見付けて、その流れで聞いちゃって・・・わ、別れたんだ。ちゃんと、無理だって・・・言った・・・っ、うぅぅ、不倫相手は、出来ないって・・・ふ、ぇぇ・・・」

    限界だった。滝の様に涙が零れ落ち、体育座りをする足に顔を埋め、必死で歯を食いしばりながら我慢してきた涙を流し続けた。
    その後僕が泣き止むまで、かっちゃんは黙って僕のモサモサした頭を撫で続けてくれた。

    その後僕はトイレで目を冷やしてから教室に戻ると、目を見開く。何故なら、個性は使っていないが轟君の顔面を数発、かっちゃんがグーで殴ったからだ。慌ただしくなる教室。唖然とする僕。飯田君は急いで相澤先生を呼びに行き、僕も我にかえってかっちゃんを抑える方に援護する。

    「邪魔すンじゃネェ!雑魚共!」
    「急にどうしたんだよ!辞めろって!」
    「何があったわけ!?ちょっ、まじでさぁ!」
    「かっちゃん!何してるんだよ!」
    「うるせぇ!デク泣かせやがったクソ野郎に思い知らせてやんだよ!」

    かっちゃんの言葉に、僕はさらに強く背後から抱き着いた。

    「もう・・・っ、もう良いんだよ!かっちゃん!かっちゃんまで怪我してるよ!僕、そんなの嫌だよ!」

    僕の言葉に、荒いながらも深呼吸をするかっちゃん。

    「デク」
    「なぁに?かっちゃん」
    「本当の本当に良いんだな!?悔しいだろ!?胸糞悪くねぇのかよ!」
    「っっっ・・・・・・かっちゃんが、僕の為に、そこまで怒ってくれたんだ。もう、十分だよ。・・・それに、もう二度と前みたいな関係には、戻れないから」

    そう、もう友達や親友にすらも戻れないから。だから、その分、かっちゃんが怒って殴ってくれただけで、十分なんだ。
    そうこうしているうちに飯田君が相澤先生を連れ戻り、惨状を見た相澤先生は頭を抱えながら盛大な溜息を吐き出した。

    事情聴取とあり、当事者の轟君とかっちゃん、そして事情を知っているであろうと践まれた僕は、仲良く三人指導室へと連れて行かれた。


    「それで?何があったんだ」

    相澤先生の一言目で、三人は黙る。けれど時間が経つに連れて苛立ちを露わにする相澤先生に、僕が一番に口を開いた。

    「ぼ、僕と轟君の間で色々あって・・・それに気付いたかっちゃんが僕の話聞いてくれて・・・それで、僕の代わりに怒って轟君を殴っちゃった・・・だけです!」
    「爆豪、本当か?」
    「・・・ッス。正直まだ殴りたりねぇ位胸糞悪ィけどなぁ!!」

    ボムボムと掌で爆破を繰り返しながら告げるかっちゃんに、今度は轟君への質問が飛ぶ。

    「轟、爆豪が緑谷の為にこんだけキレる様な事って・・・何したんだ?」
    「俺は・・・・・・」
    「はっきり言え。時間は有限だ。何度も教えただろう」

    更なる追撃に、轟君はあの日の話をした。そして改めて僕と話したかった、と。だから僕を見つけては話しかけに行こうともしていたのだ、と。
    その言葉に、かっちゃんは再度キレて殴ろうとしたものの、相澤先生が捕縛武器で押さえ込み、個性を使った。

    「轟、お前そりゃあ爆豪だけじゃねぇ、それを聞いた周りは必ずお前に同じ事しただろうな」
    「・・・はい」
    「お前ね、まぁ、お前の人生だから何も言いたくはないが、恋人に不倫相手になれって、ヒーロー以前に人間として最低だぞ?しかも婚約者も恋人もクラスメイト。・・・お前、緑谷の事何も考えてやらなかったんだな」

    相澤先生の言葉に、轟君の肩がビクッと跳ねる。

    「ハァァァ・・・事情が事情だ。反省文は免除してやるが、轟。少なくとも在学中に緑谷とは距離を取れ。話し合いなんざ、しても無駄だ」
    「なっ!?」
    「既に轟家と八百万家で正式に婚約が成立されたんだろう?この事を八百万に知られて、八百万まで傷付けるつもりなのか?それならプロヒーローなんざ、なる前に辞めちまえ。それを分かってるから緑谷は八百万やクラスメイトに知られねぇ様に過ごしてんだよ。例えどんなに辛くてもな」

    相澤先生は以上だ、と言うと、先に轟君を教室へ帰した。

    「さて、爆豪。お前も反省文は免除してやる。・・・俺がお前の立場でも殴ってただろうからな」
    「ッス」
    「人間、そう簡単に気持ちの切り替えなんざ出来ない生き物だ。・・・緑谷のサポートを頼めるか?」
    「ああ」
    「緑谷、辛いだろうが、何かあったら俺にでもいいから吐き出せ。・・・大人だってそんな状況は辛いのに、まだ子供のお前一人で解決するのは難しすぎる。溜め込みすぎるなよ」
    「・・・・・・ありがと、ござ、ま・・・ズズッ」

    相澤先生の優しさに涙がこぼれそうになったけれど、何とか鼻をすすって耐えた。


    その後、僕は轟君とはなるべく距離を取って、必要最低限の接触を心掛けながら学生生活を過ごした。かっちゃんは、相変わらず乱暴だけれども、なるべく側に居てくれた。思い出して泣く僕を、殴ったり罵倒したりせず、ただ静かに隣に居てくれた。
    それは必然だったのだろう。卒業式間近、僕とかっちゃんは一線を越えた。


    𓂃♡ˎˊ˗


    卒業式の日。晴れた少し肌寒い空の下、僕とかっちゃんはお母さん達と共に学校を後にする。

    「勝己!同棲するにしても節度は弁えるのよ!」
    「わァっとるわ!クソババァ!」
    「あらあら」
    「ど、どどど、同棲・・・っ」

    僕とかっちゃんは同じ都内に所属する事務所がある事から、一緒に住む手筈になっている。おばさんは同棲だと言ったけれど、カミングアウトはしていない。親のカン?ってやつなのかな?

    そしていざ、おばさんが乗ってきた車に僕達も乗り込もうとすると

    「緑谷ッ!!」

    僕を呼ぶ必死の声に、ゆっくりと振り返った。

    「轟君」
    「緑谷、俺・・・っ」
    「結婚する時は教えてね?お祝い、送るよ」
    「みど、りや・・・」
    「八百万さんと、幸せにね。じゃあ、また現場で会ったときは、よろしくね」

    バイバイ。僕は心の中でそう呟き、車に乗り込む。これで本当に、最後だ。


    その後プロヒーローとしてデビューを果たした僕達は、すれ違いの多い日々だったけれど、時間が合う時は半分の時間は寝室で過ごしたりもした。寝起きのかっちゃんは、何処か幼い頃を彷彿とさせる。眉間のシワが無い、こんな穏やかな顔を見られるのが僕だけだと言う優越感に口元が緩む。
    けれど、この幸福が当たり前になり始めた時に、不幸と言う物がやってくることを、僕は忘れていた。


    𓂃♡ˎˊ˗


    中規模の招集襲撃。丸々一ヶ月、僕は戦場と化したヴィランとの戦いに精神的にも肉体的にもボロボロとなっていた。死者が出る戦いは、いつになってま慣れない。負傷者も多く、中にはヒーロー人生に終止符を打つ事になったプロヒーローも何人か居た。
    そして久々に帰宅し、真っ暗な室内の電気を点けていく。

    「あれ?かっちゃん、まだなんだ」

    寒々と冷えた室内で呟くと、僕は帰宅した時にせめて暖かい部屋で迎えようと暖房をつけていった。
    冷蔵庫を開けて、使えそうな野菜を見るも全く無い。仕方がない事だ。二人共プロヒーローなのだから。

    「買い物、行ってこようかな」

    僕がそんな事を冷蔵庫の中身を見回しながら呟き、いれ違いにならない様に連絡を入れるために携帯を取ると、ガチャガチャと玄関から音が聞こえてきた。だから急いで冷蔵庫を閉めてお出迎えだ!と駆け足で向かうと

    「おかえ、り?・・・あれ?麗日さん?」
    「・・・」
    「デ、デク君」

    何故か麗日さんと共に、玄関に立つかっちゃんがいた。
    かっちゃんと麗日さんは仲が悪かった訳じゃない。同じグループだった訳ではないけれど、気軽に話す間柄だったとも思っている。けれど、何故一緒に?

    「・・・出久、話がある」

    あ、これは駄目なやつだ。僕の勘が個性関係なく警戒音を鳴らした。


    二人と共に暖かくなったリビングへ向かう。何故かわからないけれど、僕はかっちゃんと麗日さんが寄り添う様に座る向かい側に座らされていた。

    「・・・話って、何かな?改まって・・・」

    シン、と耳が痛くなる程の静けさに負けて、僕は震えそうな声を押し殺して口を開く。すると、麗日さんは僕を必死な形相で見て幾度も口を開閉するも、声は無かった。ただ、不自然なくらいにかっちゃんと目が合わなかった。

    「・・・麗日が妊娠した」

    丸顔じゃない。かっちゃんが、麗日さんの名前を口にする。

    「・・・デ、デク君!うちっ」
    「・・・テメェは黙ってろ。・・・腹の子は、俺との子だ」

    バキンッ!
    無意識に個性が発動し、僕の手の中にあった携帯が砕けちった。

    「ぁ・・・」

    やってしまった。僕はそっとそれをテーブルの上に置くと、無意識に溜息が零れ落ちる。

    「・・・ごめん、妊婦さんを驚かせちゃったよね」
    「ッ」
    「・・・かっちゃん。君も、なんだね」

    ただ壊れた携帯を見つめながら、そう呟く事しか出来なかった。

    「デク君!うちが悪いんよ!爆豪君のせいじゃ・・・!」
    「麗日さん。・・・もう良いよ。・・・・・・まだ、おめでとうって、言えないし、友達には戻れないけど、身体には気を付けてね」
    「おい、お前何・・・」

    かっちゃんはゆっくりと立ち上がった僕に、唖然と目を見開きながら呟く。

    「・・・もう、何でも良いよ。かっちゃん。今までありがとう。この部屋の僕の物は全部捨ててくれたら良いから。・・・轟君の時よりキツイや。・・・僕が友達を作るなんて烏滸がましかったんだ。恋人なんて作っちゃいけなかった。せめて、幼馴染とは幼馴染で居るべきだったんだ」
    「出久・・・」
    「名前呼ばないで!」

    かっちゃんの言葉に、僕は咄嗟に怒鳴ってしまった。いけない。母体にさわるかもしれない。

    「ごめん、大きな声出して。・・・ごめん、もうここには居たくない。二人とも僕のことなんて忘れて幸せになってね」
    「無理やよ!デク君!だって、うち・・・」
    「子供に罪はないから。・・・それとも、僕に何か言いたい事他にあった?・・・ごめんね、仕事で疲れててさ・・・余裕、無いんだ」

    一度部屋に戻り、上着を着て、愛用のリュックサックに貴重品だけ突っ込んで背負う。そして部屋を出ると

    「お前が出てく事ねぇだろう・・・」
    「嫌だよ。君との思い出のある場所には、もう居たくない」

    僕はハッキリそう言い切ると玄関に向った。背後から

    「ごめん・・・っ」

    かっちゃんの小さな声が聞こえたけれど、振り返らず玄関を出る。僕には、プロヒーロー以外にもう何も残っていない。


    𓂃♡ˎˊ˗


    何処に行こうか悩んだけれど、携帯もない今、僕は個性を使って実家に戻った。チャイムを鳴らすと、お母さんは驚きながらも歓迎してくれた。ご飯はいるのか聞かれたけれど、食欲がない。出された温かいお茶を一口飲むと、張り詰めていた緊張が一気に解れてしまった。

    「い、出久!?どうしたの!?」

    ぼろぼろと泣き始めてしまった僕に、お母さんは焦った様に駆け寄ってきてくれる。そして驚きながらも、ギュッと僕を抱きしめてくれた。

    「おか、さ・・・っ」
    「大丈夫だよ、出久。お母さんは何があっても、出久の味方だよ」
    「ふぅ、うぅぅっ、ふぇ」

    大人になったのに、僕はお母さんの腕の中で声を上げて泣いた。

    落ち着き始め、漸くしゃくり上げる所まで来ると、お母さんはお茶を入れ直してくれる。その後ろ姿を見ながら、僕はポツポツと話し始めた。
    かっちゃんと付き合っていた事、仕事が大変だった事、会えない時間も多かった事、そして

    「・・・麗日さん・・・元クラスメイトと・・・浮気してた」
    「・・・え?」
    「しかもね・・・っ、子供・・・出来たんだ、って」

    僕はもう、笑うしか無かった。

    「だからね、僕・・・僕ぅ・・・・・・・・っ、家、出てきちゃった」

    へにゃりと、力無く笑う僕に、お母さんは泣きながらまた抱き締めてくれる。

    「何時までも、ここは出久のお家だから!だからね、何時まで居ても良いんだからね!」
    「おか、さ」
    「一人じゃないよ。高校生の時みたいに、一人になる必要なんて無いんだからね?お母さんの所に来てくれて、本当にありがとう」

    僕は、お母さんの偉大さと暖かさに、その日は自室に行く気にならなくて、リビングで眠りについた。

    次の日、朝から大変だった。
    二人で久し振りの朝食の時間を過ごしている所に、かっちゃんの両親がやってきたのだ。そして玄関で、お母さんが僕を呼び、向った僕に二人は土下座した。

    「あの馬鹿息子が・・・ッ、本当にすみません!」
    「大変申し訳ございませんでした。息子が・・・っ、まさかあんな事を仕出かすとは・・・」

    朝早く、かっちゃんは麗日さんを連れて実家に来たそうだ。そして、事情を聞くやいなや、おばさんではなくおじさんがかっちゃんを殴ったらしい。そして僕が居るのはわからないけれど、いても立っても居られず、謝罪に来たとか。

    「・・・おばさんもおじさんも・・・顔、上げてください」
    「でも・・・!」
    「僕は、大丈夫、です。子供に罪はない。堕ろして欲しいだなんて、思ってない。・・・おばさん達も、孫とお嫁さんと、仲良く過ごしてください」
    「出久君・・・っ」

    僕はプロヒーローだ。そう、辛い時ほど笑うんだ。

    「もう、僕のことなんて忘れてくれて良いんです。大丈夫、僕はヒーローです。身近な人達には、笑顔で過ごして欲しいです」

    精一杯の虚勢。でも、これは僕だけのエゴだった。

    「・・・爆豪さん、すみませんが・・・お帰りください」

    お母さんにとっては、僕はたった一人の息子なのだから。

    「引子さん・・・本当に、すみません」
    「謝って欲しい訳じゃ、ないの。光己さん達のせいじゃない事も分かっているわ・・・っ。でも、でもね・・・あんまりだわ・・・。出久が何であんなに泣かないといけないの?何で・・・出久を傷付けるの?・・・中学生の頃までの事は見てみぬふりをして来たわ。でも、今回の事は、許せないの・・・っ」

    お母さんの言葉に、僕とかっちゃんの関係を知っていて、黙っていたのだと初めて知った。そしておばさんの態度からしても、知っていたのだろう。

    「お母さん、もう良いんだよ。僕はもう・・・関わりたく無いんだ」

    だから、もうお母さんが傷つく必要はないんだ。
    僕は改めて二人に帰ってもらい、二人でリビングに戻った。


    事務所に電話をし、有給を全て消化後に退職したい旨を伝えたのはその日の昼。驚く所長に幾度も謝り、フリーでヒーロー活動をしたい旨を改めて伝えて電話を切る。そして今度は現在も雄英高校で事務員として働くオールマイトに電話をして、改めて今後の事を伝える。驚き、理由を聞いてきたけれどもはぐらかした。ただただ、我武者羅にヒーローをしたいとだけ伝え、また会いに行くと言ってから電話を切った。

    これでもう、僕は誰も傷付けることなく、固執する事もなくなる。僕はヒーローだけに専念する事にしたんだ。

    今度はお母さんに今後の事を話し、海外も視野に入れて活動する旨を告げた。驚いていたお母さんだけれども、ならばお父さんの居る所を拠点にしてはどうかとも言ってくれた。だから、先にお父さんの所で待っていて欲しいと頼み、お母さんをお父さんの所へ避難ではないが、向かってもらうことに決まった。


    𓂃♡ˎˊ˗


    世がウラビティと大・爆・殺・神ダイナマイトの結婚とおめでたの話題で賑わう中、僕の存在をひっそりと消した。1か所には留まらず、個性を使って毎日幾つもの県を渡り歩き、ヴィランと戦う。元A組の人達の管轄には踏み込まず、田舎で力仕事を手伝う事もある。携帯は新しく番号ごと変更して、今現在登録してあるのは両親とオールマイトだけ。オールマイトには誰に何を言われても教えないでくれとだけ告げた。
    荷物はトランク1つ。寝泊まりはビジネスホテル。食事は全て外食だけれども、テイクアウト出来る手軽な物を選んでいる。根無し草の様に、ふらふらと彷徨う生活は、意外にも僕には合っていたようだ。

    年の半分はお父さん達の住む海外でも活動を始めることに成功したのは、あれから三年近く経ってからだった。そんなある日、オールマイトから連絡が来た。雄英高校に遊びに来ないか?と。勿論断った。誰か知り合いに会う事が嫌だったから。


    𓂃♡ˎˊ˗


    日本の都市に戻って来たのは、オールマイト経由でどうしても僕の個性が必要な事態に陥ったからだ。元ヴィラン連合の信望者のヴィラングループ。リーダーの個性は『時間停止』。周りにも一人では強くなくても、徒党を組むと厄介な者達も少なく無かった。元A組の人達も招集されたらしいが、致し方無い。
    僕は荷物を今回の宿泊先であるビジネスホテルに置くと、招集先に向かった。

    そして、見知った顔がいくつもありがら、僕は黙って作戦を聞いた。

    「よぉ!緑谷!久し振りだな!」
    「おいおい!今までどうしてたんだよ!テレビで随分見なくなったじゃねぇの!」

    作戦会議後、僕に話しかけて来たのは元クラスメイトの切島鋭児郎君と上鳴電気君だった。かっちゃんのグループに居た二人。

    「・・・ああ、うん。久し振り、だね?」
    「最近どうしてたんだよ!話聞かせてくれよ!」
    「今から俺達、耳郎達と飯行く予定なんだけど、どうよ!」

    昔と変わらない。奇策な笑顔。ああ、彼等は何も知らないのだと分かった。だから、僕は微笑を浮かべながら小さく頭を振る。

    「ごめんね、実はこの後まだ仕事が残ってるんだ」
    「・・・そっか。なら、仕方ねぇな!また飯行こうぜ!」
    「あ!そうそう!緑谷携帯替えた?この前同窓会の連絡入れようと思ったら、エラーだったんだよ!」

    上鳴君の言葉に、僕は急いで立ち上がった。

    「壊しちゃって・・・、今は極秘任務も多いから、支給品しか持ってないんだ。だから・・・、また自分の物買ったら、教えるね」

    僕は嘘を吐き、そそくさと出て行く。そんな僕の後ろ姿を心配そうに見つめる二人の視線を無視した。


    𓂃♡ˎˊ˗


    無事討伐完了し、次は何処に行こうか考えていると、ポンッと肩を叩かられ急いで振り返る。そこには懐かしい人が立っていた。

    「緑谷、久し振りだな」
    「相澤先生・・・・・、あ、イレイザーヘッドの方が・・・」
    「いや、外だし相澤で構わないよ。・・・それより、飯食ったか?」
    「え?いや、今から・・・」
    「なら行くぞ。久し振りに会ったしな」

    相澤先生は、そう言うとさっさと歩き始める。断ろうかと思った。けれど、何故か僕は黙ってついて行った。多分、僕にとって相澤先生はオールマイト同様頼っても良いと言う信頼がある数少ない人だったからかもしれない。


    僕が泊まるビジネスホテルから徒歩15分圏内。初めて来る店に、僕はキョロキョロと見回してしまう。そして個室に案内され、僕は両親以外とは随分と久し振りに誰かと食事の為に席についた。

    「好きなの頼みな」
    「え、っと・・・じゃあ、カツカレー・・・」
    「飲み物は?酒いけるのか?」
    「滅多に、飲まないので・・・」
    「なら、軽いのが良いか。甘いやつ好きそうな顔だよな、お前」

    軽口を叩く相澤先生が新鮮で、けれど嫌いじゃない。

    「多分、甘いやつ好きです」
    「なら、カルーアミルクとか女子が好きそうなやつににしとけ」
    「そうします」

    僕の言葉に相澤先生は笑い、注文をしてくれた。そして先に運ばれて来たお酒を、二人で乾杯する。

    「今まで何処にいたんだ?」
    「色々、です」
    「途中からニュースであちこち飛び回ってたのは知ってたけど、海外進出した時は驚いた」
    「え・・・?」

    僕は驚いて、相澤先生へと顔を向けた。

    「海外ニュースに出てただろ?お前」

    当たり前のように告げられた言葉に、僕は何だか恥ずかしくなる。確か地元紙には掲載されていたが、日本でまで報道されているとは思えなかったからだ。と、言う事は、相澤先生が僕を辿ってくれていた事になる。

    「・・・まだまだです」
    「よく言うよ。海外進出、国内を網羅する機動力と行動力。・・・俺達に連絡する暇さえ無いと来た」
    「・・・すみません」
    「だから、緑谷。お前の見てきた世界を俺にもお教えてくれ」

    相澤先生の言葉に、僕はたどたどしくはあるものの、機密情報に抵触しない範囲で話した。海外で女の子を助けた時のこと、個性事故で髪に沢山の花が咲いた時のこと、助けたカップルの結婚式に呼ばれた時のこと。沢山の話題が意外にもあった。そんな僕を、相澤先生は穏やかな表情で聞いていてくれた。

    「あんなに問題児だったヤツが随分と立派になったもんだな」
    「まだまだです。・・・いつか、相澤先生達みたいに立派な・・・」
    「だから、雄英の誘いを断ったのか?」

    突然の言葉に、僕は目を見開く。

    「オールマイトさん以外お前の連絡先を知らない。誰よりもお前が敬愛するオールマイトさんからの誘いすら蹴る理由はなんだ?」
    「それ、は・・・」
    「時間は有限だ。・・・知ってるはずだな」

    これが目的だったのか。遅れ馳せながら、僕は酒も入って緩んだ気持ちを叱咤したい気分だった。

    「・・・轟と、会う可能性があるからか?」
    「・・・いえ。轟君との事は、もう良いんです」
    「なら何で逃げる?」

    相澤先生の追撃は止まらない。逃げ道は無いし、彼から逃げることも難しい。わかっている。

    「・・・轟君と八百万さん、無事結婚されたみたいですね。・・・かっ・・・爆豪君と麗日さんも」
    「あいつもついに一児の親だ。生徒に先越されたよ」
    「僕は、もうヒーローとしての道しか、ありませんから」

    僕は濁す様に呟くと、グラスに口をつけた。

    「轟との件を引き摺るなとは言わない。けどな、お前が幸せを求めない事は違うだろう?」
    「・・・僕には友達も恋人も、必要ありませんから」

    ふと出た言葉に、僕自身驚いた。けれどそれ以上に、担任をしてくれていた三年間のどの時間よりも、相澤先生が驚いていた。

    「・・・どうしてお前の口からそんな言葉が出る?いつから周りを切り捨てて孤独の道を歩むことに決めた?お前以上に仲間の大切さを知る奴は居なかったはずだ」
    「・・・相澤先生、僕の個性が借り物だと言う話を覚えて居ますか?」
    「・・・忘れるはずがないだろう」
    「なら、わかるはずです。個性持ちと無個性に戻る者の溝を・・・。僕は、きっとあと五年もすれば無個性に戻ります。誰かに譲渡し、空っぽな僕に戻るんです」
    「個性が全てじゃないだろう!!」

    ダンッと相澤先生はテーブルを拳で叩いた。

    「僕にとっては、全てなんです。プロヒーローじゃない僕は、無価値だ」
    「・・・・・・緑谷?お前・・・本当に何があった?A組の連中もお前といつの間にか連絡取れなくなったって騒いでいた。俺ですらお前に苦言を呈する手段を奪われた。何がお前をそこまで追い詰めた?何でそこまで追い詰められても大人に頼らなかった?」

    相澤先生の声は、言葉は、まるで生徒だった時に戻すようだ。僕がオールマイト以外に一番に信頼し、尊敬した身近で厳しく、でも生徒には少し甘い。大好きで絶大な信頼を覚えていた先生。そんな懐かしくて幸せだった時間。

    「・・・轟君との件の後、卒業式の前に僕は爆豪君と交際を始めました。最初は甘えだった。寂しくて、辛くて、でもどんな歪さでも誰よりも長く時間を共にした彼と居て、僕は彼を改めて大切な人だと思いました」

    今でも思い出される。告白と言えばいいのか分からないが、爆豪君に言ってもらった。

    「何があっても、守ってやる」

    その言葉に、僕は漸く轟君から僕の心を解放してあげられた様な気がした。

    「その後、同棲を始めました。新人だったから、時間を合わせる事もままならなかったけど、幸せでした。怖い位に。こんな時間が続くって、信じてました」
    「・・・まさ、か・・・」
    「中規模の招集がかかり、僕は一ヶ月間家を開けていました。くたくたでしたよ、死者や重軽傷者も多かった。今でも夢で見ます。・・・それで、話は逸れましたが、帰宅したんです。無人で、冷蔵庫も空っぽで、買い物に行くって連絡を入れようとした時・・・帰ってきたんです。麗日さんを連れて」

    僕の言葉に、相澤先生の顔から表情が消えた。

    「何で一緒に居るんだろう?って、何で麗日さんがうちに来たのか?とか、分からないけれど、リビングに行ったら、僕の向かい側に寄り添う様に二人が座った。・・・ははは、笑えますよね?久し振りに会った恋人は随分前から友達と浮気してて、子供まで授かっ、た、って・・・」
    「・・・」
    「二人は僕に報告に来たみたいでした。僕はまた、友達と恋人、今回は幼馴染まで失ったんだ」

    僕の言葉に、相澤先生は勢いよく立ち上がると、ズカズカとこちらへと歩いてきて、力いっぱい抱きしめてくれた。

    「ねぇ、あいざわせんせ・・・僕、神様に嫌われちゃってるみたいなんです」
    「そんなクソッタレな神はまともな神じゃねぇ!俺の生徒を貶める死神か貧乏神だ!」
    「先生だって、きっと僕から離れていく・・・オールマイトだって・・・個性を譲渡されずに・・・ワンチャンダイブした方が、楽だったの、かなぁ」
    「嘘でも、冗談でも!んな事言うな!!」
    「無個性と診断されてから、個性を譲渡されるまで、僕は常にイジメられっ子。無個性の出来損ないで、無力すぎる人間。そんな人生へのカウントダウンは、始まってるんです。爆豪君の言うとおりワンチャンダイブしていれば、こんなに苦しい思い、知らずに済んだのかなぁ・・・」

    ギュウギュウと抱き締めてくれる相澤先生の力強い包容力のある腕に包まれ、懐かしい石鹸に似た匂いに包まれながら、何時しか睡魔を我慢する事はできなかった。


    𓂃♡ˎˊ˗


    眠ってしまった緑谷の寝顔を覗き込んで俺は、涙に濡れる閉じられた瞳を見て怒りが沸々と込み上がっていた。轟の件の時もそうだ。まさか、爆豪と麗日までもとは思ってもいなかった。何故皆緑谷を傷付ける?何で泣かせて、無理やり笑顔を作らせる!?何故ここまで仲間であり、大切な存在を平気で裏切れるんだ!

    俺達が勤める雄英高校へ入学願書を送ると、秘密裏に素行調査が入る。そんな中でも異例だったのは、緑谷と爆豪だった。片や学校中からいじめにも似た行為を一身に受ける者。片や学校中から賞賛され、率先してイジメを行う首謀者。両者とも、実力や素質さえ欠けていれば即刻弾かれる予定だった。
    だが、二人は合格して俺の受け持ち生徒となった。
    問題児筆頭の二人。個性爆発させて大喧嘩はするし、物は壊す。個性事故ホイホイだし、爆豪が緑谷に怒鳴るのなんて日常茶飯事。だが、信頼出来る仲間が出来て、確実にプロとしても謙遜の無いクラスになった。俺の教師人生一番のクラスだった。だが、心の成長はそうもいかなかったようだ。
    轟の時もそうだが、まさか爆豪と麗日までとは信じたく無かった。けれど、数年前からの緑谷を見ている限り嘘では無いのだ。轟も麗日も、緑谷と特に一緒に居たメンバーだった。唯一今現在緑谷を裏切っていないのは、もう飯田しかいないことになる。

    「何でなんだろうな・・・」

    俺は緑谷を見つめながら、そう呟く事しか出来なかった。
    俺の教育が悪かったのだろうか。それとも、本当に神とやらが緑谷を嫌っていると?・・・馬鹿馬鹿しい。

    俺は店員にタクシーを呼んでもらい、到着したと知らせが来てから会計を済ませ、起こさない様にそっと抱き上げる。宿泊先は不明だが、多分特定の場所は無いだろう。タクシーに乗り込むと、雄英高校までお願いをした。


    到着したのは約一時間後。会計を済ませると、教員寮までまた緑谷を抱き上げて運ぶ。こういう時、寮生活は面倒だ。だが、ベッドが備え付けなのは助かる。俺は緑谷を寝かせ、改めて久し振りに見た。

    「・・・隈が酷いな。・・・・・・、それに傷が多い」

    俺は目視出来る範囲で、確認をした。そっと腕まくりをされてもそうだ。俺の知っている時以上にボロボロだ。きっともっと酷い傷痕が身体中に刻まれているのは、簡単に想像が出来る。自己犠牲精神が元より強かったが、今は学生時代なんて比ではないだろう。第ニの平和の象徴。笑顔でどこにでも助けに行くヒーローの鑑。世間がそう認識する程、緑谷は日本のみならず国外でも活躍している。俺も一個人として緑谷のファンだ。けれど、元担任としてはいただけない。

    「しかも、こいつの自己犠牲精神を助長したのが・・・親友や幼馴染・・・笑えねえ」

    ポツリと零れ落ちた俺の独り言は、緑谷の静かな寝息と共に闇に消えた。

    𓂃♡ˎˊ˗

    次の日、俺が目を覚ますと、隣では状況を理解出来てない緑谷がベッドの上で座り、オロオロと辺りを見回している。少しの間見つめていたい気もしたが

    「・・・おはよう、緑谷」

    学生時代の彼の面影を見たような気がして、声をかけた。

    「お、おはよう、ごじゃりまひゅ!?」
    「ブフッ・・・な、なんだよ、それ」

    慌て過ぎて挨拶一つ噛む緑谷に、俺は肩を震わせながら笑う。

    「せっ、先生!すみません!ご迷惑を・・・!?」
    「いや、気にするな。・・・少しは気が晴れたか?」
    「・・・・・・どう、なんでしょう。ヒーローをしていなければ、オールマイトに顔向け出来ませんから」

    折角ヒーローにならせて貰えたのに。そんな言葉が聞こえたような気がした。違うぞ、緑谷。お前だったからオールマイトさんは個性を譲渡し、お前だったからこれ程世間からも評価を受けるプロヒーローになったんだ。それすら、分からなくなっちまったのか?
    元より自己評価が低い奴だった。我武者羅で、誰よりもヒーローを敬愛し、誰よりもどんな奴にだって手を差し伸べる優しさをもつ奴だった。例えヴィランにだって、手を差し伸べる奴なんだ。分かっていたが、寂しく感じるのは俺のわがままなのだろうか。

    「なあ、緑谷」
    「はい」

    俺はゆっくりと身体を起こしてから、首を左右に捻りゴキゴキと鳴らす。

    「壊理ちゃんな、もうすぐ中学生なんだよ」
    「・・・大きくなりましたね」
    「ああ。今でもデクさんデクさん、って鳴いてるよ」

    俺は一昨日の事を思い出して、小さく笑う。それはテレビでヒーローとして活躍する緑谷の姿が大々的に報道された時だ。たまたま教員寮の食堂で皆で夕食を摂っている際に、テレビがついていた。その時、壊理ちゃんは一瞬フリーズして、けれど直ぐに両手を上げ

    「デクさん!デクさーん!頑張れ、デクさーん!」

    そう叫んだのだ。目を輝かせ、それはもう嬉しそうに。緑の閃光を轟かせながら現場を掌握していく。リアルタイムでは無く、ニュースでの放送だったのだが、壊理ちゃんはまるで現場で応援する熱狂的なファンの様に叫ぶものだから、皆が肩を震わせて静かに笑ったものだ。

    「今は、どうしてますか?」
    「相変わらず教員寮に住んでるよ。ただ、俺と同室なのもあれだから、ミッドナイトさんの部屋の隣の部屋を与える事になったんだ」
    「そっか。・・・良かった」

    ホッとしたように、嬉しそうに呟く緑谷の頭を俺は撫でた。

    「シャワー浴びておいで。飯食いに行くぞ」
    「なら、僕ホテルに・・・」
    「そんな金使う位ならここに居れば良い」
    「相澤先生?」

    俺の言葉に、わけがわからないと言う様に告げる緑谷に、逃さないとばかりにのそりと目をのぞきこんだ。

    「俺の所に帰って来い。何があっても。・・・俺はね、お前が元気にヒーロー活躍が出来ているなら文句は無かった。だが、今のお前はどうだ?・・・呪われたようにヒーローに固執して、自分を顧みない。言ったよな?お前自身も勘定に入れろ、と。」
    「・・・」
    「・・・なぁ、緑谷。昨日お前は俺も離れるって言ったな」
    「・・・だって・・・」
    「なら証明してやる。例えお前が無個性になっても、俺はお前の側に居るよ」
    「・・・ふふっ、まるで、プロポーズみたい、ですね」
    「そうだな。プロポーズ、だな」

    俺は自分の言葉に、内心驚く。だが、悪くない。俺のこの思いは、恋ではない。だが、愛だ。燃えるような激しさがない代わりに、きっと担任をしていたあの頃から少しずつ育て、離れても消えることも無くずっと燻り続けている感情だ。

    「お前は、学生の時から特別だったからな」

    俺の口からは自然にそんな言葉が零れ落ちる。

    「・・・な、に、それ・・・。同情なんて、いりません!」
    「同情なんかしないよ。そんな非合理的な事は意味が無い」
    「なら!」

    感情的になった緑谷の手を、俺はギュッと握った。

    「未婚で子持ちの俺が、しかも元教え子にプロポーズしてんだ。・・・リスクしかないだろう?それでも、俺はお前が良いよ。お前自身がお前を捨てるなら、俺にくれてもいいだろう?」
    「・・・壊理ちゃん、引き取ったんですか?」
    「ああ。・・・結婚する気もなかったし、それが一番壊理ちゃんにとって良いと思ったからな」
    「・・・っ、結婚する気がないのに、僕とはするんですか?」
    「緑谷と壊理ちゃんと、三人で生活出来たら楽しそうだと思ったんだよ」

    俺の言葉に、緑谷はグッと唇を噛む。けれど

    「裏切られるってわかってても、嬉しいだなんて・・・僕は本当にバカですよね。学習しない」

    そう独白めいた呟きを、俺は聞き逃さなかった。

    𓂃♡ˎˊ˗

    あれから三年。
    緑谷は今年から雄英高校で臨時教員として働く事になった。理由は偏に後継者探しである。
    勿論教員寮で暮らすのだが、部屋は俺と同じ部屋だ。

    あの日あの後から、俺と緑谷は連絡を取り合った。日本に戻ってきた時は、会って飯を食いに行く事もあった。そして去年の冬、俺は緑谷と付き合うことになった。遠距離恋愛なんて可愛らしいものではない。年に片手で数える程しか会えない。身体の関係をもった事もないが、それでも俺は緑谷の数少ない帰国を楽しみにしていた。そんな中で浮上したのが、雄英高校の臨時教員の話だ。
    俺は校長から話を聞き、オールマイトさんだと話をはぐらかされると言うことから、俺からも話をして、説得に成功して今に至る。

    「デクさん!私も此処が良い!」
    「ふふっ、壊理ちゃんはミッドナイト先生の隣のお部屋があるじゃないか」
    「デクさんと一緒が良い!」

    まるで家族だ。元気に笑えるようになり、年頃の女の子なのに嬉しそうに緑谷に抱き着く壊理ちゃんと、そんな壊理ちゃんの頭を優しく撫でる緑谷。そんな二人をこっそり眺めながら珈琲を淹れる俺。

    「でも、そうなると壊理ちゃんの自分のお部屋が狭くなっちゃうよ?」

    当たり前のように自分の部屋を差し出そうとする緑谷に

    「校長に話してみるか。家族三人で住める寮室を作ってくれって」

    俺は何でもないように告げる。その言葉に、緑谷は大きな瞳をさらに大きく見開き、壊理ちゃんもまた目を大きく見開きながらキラキラと輝かせた。

    「行く!相澤先生!はやく!」
    「はいはい」
    「デクさんも!いこ!」
    「ふふっ、今行くよ」

    パタパタと俺に駆け寄り、俺の腕を引っ張りながら校長の元へと向かおうとする壊理ちゃんの言葉に、俺達は笑った。そして

    「それなら、結婚が先なのさ!」

    まさかそんな言葉を校長から言われ、改めて緑谷と話し合い、俺と緑谷、壊理ちゃんの三人が戸籍上でも家族になるのは、数日後の話。

    〜 END 〜
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