夢を見ることの代償 ハッチンはヤスのことが好きだ。それは眠る時の夢にも見るほどに。
その夢は至極幸せなものだった。ヤスが自分を求めてくれている。自分に愛を囁いてくれている。現実ではありえない事だ。
ハッチンはその夢に満たされていた。夢の中で十分な程、甘美な思いができていた。少しの切なさを感じながらもその夢に酔いしれていた。
だから現実でヤスに思いを伝えることは無かったのだ。
最近、ハッチンは夢にヤスを見ていなかった。夢を見て満たされていたハッチンにとってそれは中々に心苦しいものであった。
――満たされたい。ヤスに満たされたい。なんで出てきてくれねぇんだよ。
そう考えながらいつものライブ練習の場に向かう。扉を開けると同時に屋内の心地いい空調がハッチンを迎え入れ、これからギターをかき鳴らすことができるという思いを増幅させる。そうなれば気分もだんだんと上がってくるものだが、恋心を向ける相手と顔を合わせることになるのはやはりため息を出さずにはいられない。
1923