主にホットチョコレートを 必要なものは、ホワイトチョコレートと牛乳。それからホイップクリームとチョコレートソース。トッピングは砕いたシナモンジンジャークッキーで良いかしら。
厨房に立つあたしは、小さな主のためにホットチョコレートを拵える。まずはチョコレートを、右斜め、左斜め、縦の順にザクザク切り刻む。手順はお菓子の本で学んだもの。この刻み方を繰り返すと、白く細かく甘い破片達で作った標高の低い山が、まな板の上に鎮座する。手でそれをひとつ残らず掬うと、銀色のボウルにそれを入れて、湯煎にかける。
とけていく山をゴムベラでぐらぐら撹拌させながら、牛乳を少しずつ加えていく。牛乳は勿論、種類別牛乳のもの。低脂肪のものでは無く種類別牛乳にすると、コクとまろやかさが強く出るのよ。
チョコレートと牛乳の比率を見極めながら、濃度を調整しつつ、慎重に混ぜ進める。上手に混ざりあったのが確認出来たら、それを静かに、耐熱性のマグカップに注いでいくのよ。
こってりしたホイップクリームの山の上に、砕いたクッキーを少しずつ埋め立てて。最後にホイップクリームの上を――プレゼントボックスにリボンをかけるように――チョコレートソースでとろ~り飾り付け。
最初にホットチョコレートを作ってあげた時から、素直なあの人は「美味しい! これ好き!」と言ってくれた。だからあたしにとって、主にホットチョコレートを振舞うのは欠かせない日課であり、ささやかな喜びなの。
あの人は私を必要としてくれる。あたしはあの人の家来であり、大切な友人。
本当は甘党な主の好みに合わせて、うんと甘くしようと、マシュマロを浮かべてスモア風にしたかった。けど、今日はバレンタイン。親愛なる主へのバレンタインドリンクに、マシュマロを混ぜるのはあまり良い趣味じゃないのよね。意味はちゃんとわかっているのよ? それにマシュマロは飲み物に浮かべるのより、主と一緒に焼いて食べるのが好きかな、あたしは。
トッピングに使ったクッキーは、あたしが昨夜作ったもの。想像以上に沢山出来ちゃったから、お茶菓子はこれで良いかしら。甘いドリンクには、少しスパイシーなお菓子が丁度良いと思うの。メリハリも効くからねぇ。これもあの人の口に合うと良いのだけれど。
さぁ冷めないうちに、カップに蓋をして。主が待ちくたびれないうちに、出来立てのホットチョコレートを持って。雪降る道をヒールで踏みしめながら、主が待つ玉座へと急ぐ。
ちょっぴり子供っぽいけど、民や家来に温情をかけてくれる、甘いのが好きなあたしの主。今日もその無邪気な笑みを見せながら「美味しい」と言ってくれると良いな。
『お待たせ、王子様。今日もホワイトチョコのホットチョコレート、作ってみたわよ』