七夕逢瀬今日は七夕。天の川の両岸にいるという、古の夫婦が逢瀬を許される日だそうだ。そのためか、ふたりが無事逢瀬できるか、夜空を見上げる人が多い。
さて、目の前の子も同じかな。
「やあ、愛弟子」
声をかけるとはっとしてこちらを向いた。非番だったのだろう、着流しに団扇を仰いでいた。
「ウツシ教官、おかえりなさい」
「うん、ただいま。星を見ていたの?」
はい、と応えて再び愛弟子は夜空を見上げた。
「今夜は特に綺麗に見えるので」
夕方まで雨が降っていたから、空気中の塵が少ないのだろう。今夜の空は特に澄んで見えた。
「教官がいらっしゃるのが分からなくて、さっきはちょっとびっくりしました」
「驚かせてごめんね」
諜報員としての訓練を受けていたから、気配を消すのが癖になってしまった。だから声をかけると驚かれることはよくある。里の人に声をかける時は気をつけているのだけれど、愛弟子たちは別だ。なんだったら伝授したいくらいだけど、それはまた別の話。
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