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    uirou6286

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    ❄️が子供の頃の思い出に浸ってほんのり苦しむ話。

    #原神
    genshin

    題目 『 子ども心を忘れないで 』





    穏やかな風吹く『自由の都』モンド城は今日も晴天である。
    城下では買い物日和であると散財する者もいれば、否、冒険日和であると城門を駆け抜け行く者の姿もあった。平和なモンドの門兵は「暇だ」と大口を開けて欠伸をし、通り抜けていく冒険者へ呑気に手を振って見送っていった。



    そんな昼下がり、勿論中には長閑な日常からはみ出しものにされて仕事に勤しむ者たちもいる。
    西風騎士団の執務室ではガイアが一人、高く積み上げられた書類の塔と向き合って黙々と作業を進めていた。

    「ガイア隊長、失礼します。」

    執務室の扉を軽くノックして入ってきたのは彼の部下の一人だ。
    その手には、また幾枚もの書類の束が握られている。

    「見回りご苦労、報告書はそこに置いておいてくれ。
     ああ、ついでにそこの書類を後でジンの所まで持って行ってくれないか。」

    ガイアは不平不満ひとつ洩らさず、目線は次の書類に向けたまま数時間前に完成した書類の束を指差した。
    彼の肩書きは『騎兵隊長』という事務仕事とはかけ離れた職種であったが、それ以前に『庶務長』を務めていただけあって、書類処理能力の手際はおそらくこの騎士団の中でも一、二を争うほどのものであった。
    しかし、そんなガイアの力を持ってしても、この部屋に置かれた書類の塔を全て片付けてしまうのは不可能なのだ。
    何しろ積み上げられた紙の枚数は一向に減る気配がない。一枚片づけば今のように次がやってきて、ひどい時は倍の枚数を持ち寄られ新たな塔が建築されてしまう。
    表向きは平穏に見えるこの国も、蓋を開けてみれば問題だらけだ。
    必然的にやるべきことは増えてくる上、任務をこなした分だけ書類はやってくる。
    半年前であればこの塔ももう少し可愛らしいものであったのだが、大団長ファルカが大半の兵士たちを連れて遠征に行ってからはずっと人員不足に悩まされ、騎士団の平均残業時間を倍以上に伸ばして今も記録更新中である。

    「了解しました。では今からでも…」

    「後でって言っただろ?彼女は今リサ達と束の間のティータイム中なんだ。
     それにお前もまだ休憩取ってないだろう。時間を置いてから渡すように。」

    書類を受け取った部下が部屋を出て行こうとすると、ガイアは手を止めてその背に声をかけた。
    部下が振り返るとにっこりと笑い、自分のスケジュールまで見抜かれて照れ臭そうに頭を掻く相手に「他の奴らにも声掛けとけよ」と労いの言葉を続けて扉が閉まるまで部下を見送った。
    実際、彼も朝から休憩らしい休憩は確保していないのだが、再び執務室が静かになるとガイアは何事もなかったかのように書類に向き直る。
    ペン先をインクに浸けると、随分と消費したインクの瓶底に当たってコツンと軽い音が鳴り響いた。



    ガイアが書類作業を再開してから執務室を入れ替わり立ち代わり団員が出入りし、そうしてどれだけ時間が経っただろうか。
    気が付けば日は傾き、とうとう空になったインク瓶を破棄したガイアは、同じ姿勢でいた為か凝り固まった体を伸ばすように机に両手をついて背を逸らしていた。

    「あれぇ、猫ちゃん!
     …じゃなくって、ガイアお兄ちゃんだぁ。」

    「おう、クレーじゃないか。こんな面白くない所に来てどうしたんだ?」

    最後に部屋を出ていった団員と入れ替わるようにしてやってきたのは赤い服の少女、『火花騎士』クレーであった。
    足元まで健気に駆けてきた少女を歓迎するように抱き上げたガイアは、疲れを感じさせぬ柔らかい声で彼女に問いかける。

    ガイアの記憶通りであれば彼女は今日の昼過ぎまで反省室行きになっていた筈。いま彼女がここにいると言うことは、おそらくジンかホフマン辺りがようやく部屋から出してくれたのだろう。
    まだ幼い子どもでありながら並外れた力を振るうことができる彼女の好奇心は、時折騎士団の頭を抱えさせるほども大きな問題を引き起こす。
    先日はまたシードル湖に爆弾を投げ入れていたとか。
    それに城の外に停めていた荷馬車まで空樽を運んでいたチャールズに、軽傷ではあるものの怪我をさせたと言うではないか。
    怪我も単に爆音で驚いたチャールズが腰を抜かして痛めただけには留まったが、怪我人が出たとなればあのジン代理団長が黙ってはいない。それに怪我を負わせた相手も悪かった。
    彼はエンジェルズシェアのバーテンダーであり、店のオーナーはモンドの酒造業の大半を掌握しているあのディルック・ラグヴィンドだ。
    ただでさえ西風騎士団に対して風当たりの強い彼のことである。ジンは直ちにクレーを連れてアカツキワイナリーまで謝罪の為に馬車を走らせ、かく言うガイアも共に彼へと頭を下げた一人である。
    幸いなことに、いつもの皮肉はあれど『子どもの悪戯だ』と寛容にも赦しを得られた時のジンの表情といえば、保護者を通り越して母親そのものであった。
    そうしてまた一枚、いや数枚に及んでこの書類の塔に始末書が増えたのである。

    「あのねぇ、クレーおなかがすいちゃって…。
     だれか一緒にごはんを食べてくれる人を探してたんだぁ。」

    子どもに親の気持ちが理解できないように、少女の無邪気さは反省室を出た側から惜しみなく滲み出ていた。
    クルクルと鳴り響いた腹の虫の音の愛らしさに、ガイアは思わずほくそ笑む。

    「なら俺と“鹿狩り”にでも行ってみるか。丁度一息入れたい所だったんだ。」

    恥じらう年頃には達してない少女はお腹を押さえて「うう〜」と唸り、ガイアの言葉に頷いた。
    確か彼の兄貴分であるアルベドは先週からドラゴンスパインに篭りきりで未だ戻ってきていない。
    クレーは騎士団の中で彼と共に暮らしているため孤独になることはないが、何しろ忙しない団内ではアルベドがいない間、変わるがわる彼女の世話をしているのが現状だった。
    とりわけ進んで彼女の面倒を見たがる者も多く、ガイアも彼女によく目をかけている一人である。
    それだけではなく、クレーの好奇心にも彼は大変興味があった。
    彼女にとってガイアは『面倒見のいいお兄さん』であり、困ったときに助けてくれる『アドバイザー』でもある。
    彼が世話好きでなく、子ども嫌いであればもう少し騎士団の悩みは減っていたかもしれない。

    「あっ、でもクレーはガイアお兄ちゃんがいつも夜に行ってるお店にも行ってみたいなぁ!」

    「ふうむ…残念ながらあそこには飯はおろか、ツマミになるものも少ないんだ。」

    「ええっ、なにそれつまんない!
     そんなんじゃきっと今にもそのお店なくなっちゃうよぉ。」

    「ハハハハッ、その通りだな。
     モンド国民の需要について、是非あの店の経営者に伝えてやりたい所だぜ。」

    がっかりした表情の少女に軽快な笑い声を響かせたガイアはその足で執務室を出る。
    結局見栄えの変わることのなかった書類の塔には一時的な別れを告げて、二人は夕焼けに染まるモンドの街へと繰り出して行ったのであった。



    「いらっしゃいませ!
     あ、ガイアさん今日はクレーちゃんも一緒なんですね!」

    鹿狩りの愛想の良い店員はガイアの姿を認めるなり笑顔で手を伸ばし、クレーの小さな手と合わせて彼女らなりの挨拶をする。

    「ようサラ、今日はお勧めのやつで頼む。」

    注文表は特に覗き込む様子もなく、ガイアはクレーとともに屋外に出された席に腰掛けて、彼女のセンスに任せることにした。
    そして自信満々に厨房へと引き返したサラは、ものの数分で両手に器を持ち戻ってきた。
    テーブルに並べられたのは艶のあるリンゴを使った満足サラダと、湯気立つ風神ヒュッツポット。

    「お、気が利くな。」

    「まだまだこんなものじゃないですよ。体を温めながら待っててくださいね〜!」

    日も暮れてくれば心地良い風も肌寒さを覚える冷たい風へと変わる。
    そんな体を温めるのはモンドの伝統料理でもある風神ヒュッツポットであった。
    酒のない夜を過ごす日や、まだ飲めない子どもにとってはぴったりの料理である。
    艶々リンゴにはしゃぎながら夢中でフォークを使って食べ始めたクレーを眺めながら、ガイアは彼女があまり進んで食べない野菜を自分の小皿へよそった。

    「美味いか?」

    「うん!ガイアお兄ちゃんもいっぱい食べてね!」

    それは今し方寄せ集めた野菜に対して言っているのだろう。
    悪びれる素振りもなく言えてしまうのだから、ガイアは彼女の無邪気な心を羨ましく思った。
    リンゴを頬張って膨らむ頬の愛らしさに微笑んだガイアは、指先で硬くなったそこをツンとつつき、合間にポテトや野菜を摘んで、冷えた体をスープで温めた。

    「お待たせしました〜!
     完熟トマトのミートソースと今日のお勧めの一品、ムーンパイです!」

    二人のオードブルとスープが底をつく前に、サラはメインの料理を運んできた。
    一品は鹿狩り定番メニューの一つであるミートソースをふんだんにかけたスパゲッティである。

    「ほお、まさか鹿狩りでコイツを食べられる日が来るとはな。」
    そしてもう一品のムーンパイと呼ばれた料理は、先程のスープ同様にモンドの伝統料理であった。
    主にモンドの祝日に食べられている肉料理であるそれは、使用する肉を長く漬けておく必要があるなど下味の段階にかなり時間を要する料理であった。
    だがこの工程を経てしっかり味付けを行った肉をパイ生地に包んで焼き上げることで、甘い肉汁が口の中で広がるのである。

    「鹿狩りオリジナルのムーンパイにしたくって試行錯誤しているんですが、実は密かにエウルアさんからちょっとだけアイディアを頂いたんです。」

    秘密ですよ、とウインクを残して店の中に引き返して行ったサラを愛想の良い表情で見送ると、ガイアは料理を前に目を輝かしているクレーのために小皿へ食べやすい量のスパゲッティと切り分けたムーンパイを乗せて彼女の目の前においた。

    「わあっ、いただきまーす!」

    フォークを握りしめたクレーは食欲旺盛にも口元を汚しながらパクパクと料理を口に運んでいく。
    ガイアも同様に切り分けたムーンパイを味わいながら、言われてみれば確かにエウルアの得意料理である『荒波パイ』に近い味付けかもしれないと首を捻る。
    といっても彼女の作ったムーンパイを食べたのは一度きりで、それも彼女が騎士団の女子会で振る舞ったものの余りを少し頂いただけであったため、覚えのある味かと問われれば少し怪しい。
    モンドの伝統料理とはいえ味付けは家庭によって随分と異なり、ガイアの馴染みのある味付けはもっと違った風味をしていたのだ。
    ガイアがラグヴィンド家の世話になっていた頃、ムーンパイは祝日の夕食に必ず出されていた。
    ディルックとガイアはアデリン達メイドが腕によりをかけて作るそれが大好きで、祝日の前日から二人は決まってクスクス笑いながら明日の夕食に胸を躍らせていた。

    『ガイア、明日は何の日でしょうか?』

    『ふふっ、ムーンパイの日だ!』

    『あははっ、大正解!』

    ありし日の少年たちの影を思い出したガイアが小さく笑うと、クレーは不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。

    「…どうしたクレー?手が止まってるぞ。」

    首を傾げて尋ねるが、クレーは表情を変えることなくフォークを持ったまま口を開いた。

    「ガイアお兄ちゃん、どこかいたいの?」

    「…?」

    クレーの言っている意味がよくわからず、しかしどこも痛くないのだと主張するように首を横に振ると少女は「そっかあ」と言ってからまた食事に手をつけ始めた。

    「あっ、デザートにアイスをお出ししますね〜!」

    ガイアが何か言う前に、他の客の料理を運びながら忙しそうに走り回っていたサラから掛けられた言葉にクレーは口に物を詰めたまま嬉しそうな返事をしている。
    今日は確か昼食にノエルが気を利かせて既に一つアイスを食べていた気がしたが、一日アイスは一つまでなんて詰まらなすぎる制約をガイアはわざわざクレーに守れとは言わなかった。
    そういうところでクレーはガイアに懐いているのだろう。
    しかしクレーはその制約を守らなかったことで後にお腹が痛くなることを、この時はまだ知らない。
    二人は豪華な夕食に舌鼓を打ち、十分な休息を取ると食後に少しだけシードル湖の周りを散歩してから騎士団本部へと戻っていった。





    (気力次第で続きます)
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    そんな昼下がり、勿論中には長閑な日常からはみ出しものにされて仕事に勤しむ者たちもいる。
    西風騎士団の執務室ではガイアが一人、高く積み上げられた書類の塔と向き合って黙々と作業を進めていた。

    「ガイア隊長、失礼します。」

    執務室の扉を軽くノックして入ってきたのは彼の部下の一人だ。
    その手には、また幾枚もの書類の束が握られている。

    「見回りご苦労、報告書はそこに置いておいてくれ。
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