本気⑥五条の部屋
傑に捕まり、箱根での出来事を問う詰められた。
全て話すと、傑は親指で眉間を押さえ、深いため息を付くばかり。
「はぁ〜〜。悟。君がそんな奴だとは、思っていたが…後輩にまで手を出すだなんて…」
「はあ?そんな奴ってなんだよ」
「しかも、好きになったとか訳がわからない。急に襲って来た奴に、これたま急に好きだと言われて信じられるわけはないだろう。悠仁も怖かっただろうに」
「・・・」
何も言い返せない。
何度もため息を吐かれ、イライラが募っていくが、それと同時に焦りも募る。
悠仁には、嫌われたかもしれない。
枕に顔を埋めれば、気持ちも共に深く沈む感じがした。
「おや。落ち込んでいるのか?これは珍しいものを見たな」
椅子に座っている傑は、項垂れる俺をクスクスと笑ってくる。
「うぜぇ…」
「ところで、いつから悠仁を?」
「ん?」
「好きになったのはいつだい?」
人が憔悴しているときに、恋バナかよ。
しかし不安からなのか、話せば、この行き場のない感情が楽になる気がした。
「わかんねぇ、けど…あいつのこと見てたら、まぁ。気づいたのは箱根の時」
「なるほど。だから、悠仁は天然たらしと言っただろ。まんまとハマってしまったわけか」
「…俺を見つけて走ってくるんだぜ。好きだと思うだろ。すげぇ笑顔で尻尾振ってくるし、勘違いもすんだろ」
「まぁ、気持ちはわかるよ」
「それなのに、違うって、失礼なのは悠仁の方じゃねーか!」
こっちがあんなに本気だって伝えてるのに、なぜ伝わらない。
もどかしい。腹立たしい。
…苦しい。
「まぁ落ち着きなよ。しばらくは、悠仁には近づかないことをお勧めするよ。会う度に告白をしても、怖がられるだけだからね」
「分かってるわ!」
「確か一年は、今夜から遠征の任務だったはずだよ。ちょうど良かったな。」
「うるせぇ…よ」
他人事だからと、揶揄ってくる。
認めたくはないが傑の言っていることは正しい。しばらく悠仁に近づかない方が良い。
これ以上、悠仁に避けられて本当に嫌われしまったら、俺はどうなるんだよ…
「もう休みなよ。じゃ、また明日な」
傑はそう言って、部屋を出て行った。
1人になった部屋で、ぼんやり天井を見つめる。
自分以外のことで、こんなに悩むのは初めてだ。それも、男相手に。
恋愛なんてどうやってするのか分からない。
"恋人"という女がいた事はある。何なら、それ以外にもいた。しかし、その女達とどう過ごしていたか全く思い出せない。
悠仁とのは、思い出せるのに…
初めてあいつを見た時、イカれてると思った。監視役なんて面倒だが、上手く使えば呪いは、いや呪術界自体が変わるかもしれない。そんな理由で世話を焼いていた。
悠仁は呪いなんてものを初めて目の当たりにして、俺のことももちろん知らないわけで。
あいつは、いつも裏表のない笑顔で接してきた。それが、楽だったんだ。
あぁ。俺は最初からお前を好きだったんだな