つげ櫛 朝の眩しい日差しと鳥たちの囀りで目を覚ました。いつも自分を温めてくれる温もりは既に無く、また起きられなかったか、と少しばかり落胆する。とは言え、温もりの主は本丸の皆の朝餉の準備のために朝が早いのだから仕方のない事ではあるのだが。
どうにも温もりの主こと小豆は、共寝の相手の眠りを邪魔することなく布団から抜け出し、朝の支度をして部屋を出るのが異様に上手なので未だに朝の支度を共にすることは叶わないが、その分美味い朝餉が用意されているのでまぁいいかと思っていた。
布団から抜け出し姿見の前で枕で少しばかりぼさついた、絹の様だと褒めたたえられる銀色の長い髪を愛用の櫛で梳かしていると、不意にパキンッと何かが折れた音がした。何が折れたのかと手に持っていた櫛を見てみれば歯が一本、見事に折れていた。手櫛で髪をさっと梳かせばポロっと折れた櫛の歯が床へと落ちる。
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