吸血鬼みたいだと思った。自分のことが。
さて、今日も僕は真経津さんに「遊ぼ―」のラインで呼び出されて、このマンションのインターホンを押している。数秒も待たずに『ちょっと待ってね』と声がして、音もなく自動ドアが開く。マンションの中に入って、エレベーターに乗り込み、三十四階のボタンを押す。静かに動き出したエレベーターの中で、僕はふと思い出した。一説によると、吸血鬼は、その家主に招待されない限りはその家に入ることが出来ないという。真経津さんに呼び出されて、真経津さんの赦しを経て、真経津さんの自宅に入る。全く、そっくりそのまま同じ構図だ。
「だから、吸血鬼みたいだなって思ったんですよ」
「へえ?」
ただの思い付きを話すと、真経津さんは、チョコレートをつまみながら、その話に興味を示した。
「面白いことを考えるね」
「そう……でもないような。ただの空想の賜物ですよ」
「いや、面白いよ」
真経津さんはそう言いながら、手に持っていたチョコレートを口に運んだ。
「そっか、御手洗くんが吸血鬼かあ」
「ただのたとえ話ですけどね」
「御手洗くんが吸血鬼だったら、ボクは何になるんだろ。眷属?」
「ええ、そんな。烏滸がましいですよ」
「そう? ピッタリだと思うけどなあ」「御手洗くんはボクを眷属にしてくれないの?」
「え、えーっと……」
「血が欲しい?」
「これあげるよ」
「なんですかこれ」
「鍵」
「どこのですか」
「ここの」
「御手洗くんは人間だからね」