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    Enki_Aquarius

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    ##イクリプス

    #4 翌日。
     達也は早速とばかりに、図書館へと足を運んだ。とはいっても、ここ一か月ほど達也は図書館に入り浸っていたため、司書とは顔なじみになったが。
    「あら、達也君。どうかしたの?」
     一階の閲覧室。館内でしか閲覧できない文献へアクセスできる端末が設置された個室タイプの部屋で、丁度そこから出てきた人物‐七草真由美が達也を見つけては笑みを浮かべて声を掛けた。
     てっきり、達也として見れば拍子抜けな笑みであったが。
    「論文コンペの、資料を集めに来ました」
     嘘を言った所で意味などない。無用な手間をかけるくらいなら、と達也は本当の目的を口にする。そうすれば、七草は合点がいったのか、嬉しそうな表情を浮かべる。
    「あぁ!そう言えば、りんちゃんのお手伝いに指名されたんだったわね」
     お手伝い、というのは少し語弊がありそうな言い方ではあるものの、途中参加で今日から本格的に手を貸すのだから、あながち間違ってもいない。達也はなんとも言えない表情になった。
     しかしそんな達也を他所に、七草は少しばかり辺りを探ってから達也の腕を取る。大胆な行動だ、とは思わなかった。
    「こんなところで立ち話しちゃ他の人の邪魔だし、中に入ろっか」
     そう言って七草が達也の腕を掴む。が、閲覧室は一人用に作られているスペース。二人で入るのはいささか不自然というもの。
     達也の困惑を他所に、七草はさっさと手短な部屋の扉を開けるが、彼女の貞操観念というものが一体どうなっているのか、達也には不思議で仕方がなかった。
     扉が閉まり、一人掛けのソファに二人で詰め寄りながら座る。この状況を、はたから見られた場合、彼女は一体どう説明するつもりなのか。達也はうんと唸ったが、七草はそんなことも知らないとばかりの態度で話を続ける。
    「達也君には急な話だったと思うけど、今回のテーマはりんちゃんにとって、コンペの勝ち負けにとどまらない意味を持っているから、よろしくね!」
    「・・・えぇ」
     つまらない返事だったとは思う。が、達也にはそんなことよりもこの状況の方が不可解極まりなかった。
    「市原先輩は今回のテーマに、何か特別な思い入れがあるのですか?」
    「魔法師の地位向上!」
     魔法を経済活動に必要不可欠なファクターとすることで、魔法師は本当の意味で兵器として生み出された宿命から解放される。
    「って、りんちゃんはずっと言っているわ」
     貴方たちも、そう考えているのよね?
     七草の視線が鋭くなる。今までの甘ったれた雰囲気はどこへいったのやら。達也は小さなため息を吐き出した。
    「貴方、たち、とは?」
    「・・・意地悪ね」
     七草は目の前の端末に手を触れ、自分で持ってきたであろうメモリを挿し込んだ。
    「俗称、イクリプス・コミュニティ」
     達也はそっと微笑みを浮かべる。
    「貴方を中心に広がるその輪は、私たち十師族すらも凌駕する勢いで拡大を続けている」
     達也と自分との間に手を付き、達也へと近づく七草。その余計な好奇心は、いつか自身の身を亡ぼすことになるだろう。最も、好奇心一つで巨大なコミュニティを築き上げた達也の言葉では、信憑性の欠片もないが。
    「何が目的なの?」
    「さて」
     達也は七草の問いに対し、肩を竦めて見せる。
     本心を言っているのだから仕方がない。なにせ、この箱舟が行きつく先が一体どこであるのか、中心である達也も知らないのだから。
     どちらかというと達也は祭り上げられた被害者なわけで、存外それが面白かったから興が乗っている間は、と彼らと親密な関係を築いているだけである。
     だから達也の答えは明確なものではない。何をしたいのかわからない。どこに行くのかもわからない、というのが正解であるのだから。
     達也は足を組み換え、七草が持ち込んだ資料をざっと流し見た。よくまとまっているが、確信に至るような内容は一切としてなかった。
     世間にその存在を知らせてまだ二か月ほど。彼女たちに入ってくる情報も、規制が掛かって思うようにうまく行っていないのだろう。主要か所と密接に関係を持っているのは、どちらかと言えば達也たちの方である。
     あとは、彼女がどう動くのか。
     ここが鬼門となるのだろう。
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