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    Enki_Aquarius

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    ##獣蹄

    1st scar 魔法。
     この御伽噺の産物は、二十一世紀初頭に現実の技術として体系化された。
     二〇三〇年前後より始まった急激な寒冷化に伴い、食糧事情は悪化。エネルギー資源を巡る争いが頻発し、二〇四五年、二十年に及ぶ第三次世界大戦が勃発。人口は、三十億人まで激減した。
     この戦いにおいて、存在感を大きくしたのが、実用レベルで魔法を行使するスキルを持つ者‐魔法技能師、通称魔法師である。
     魔法の素質は遺伝もしくは突然変異により先天的に備わって生まれる。核兵器すらねじ伏せる強大な魔法師は国家にとって兵器であり、力そのものであった。
    しかし、魔法を使うには長期間の修学と訓練が必要不可欠となるため、各国はこぞって魔法師の育成に取り組んだ。魔法師は国家の財産として国家に属するものとされており、世界的に魔法師の人権は非魔法師に比べ著しい制限を受けることとなった。
    そんな遺伝的な資質を必要とする魔法は、次第に魔法を扱う者たちの遺伝子に少しずつ、少しずつ変化をもたらしていった。
    その変化が表れ始めたのは第三次世界大戦の最中、西暦二〇五〇年頃。一部の魔法師が先天的に特異的な能力を備えて生まれるようになったのである。
    それを神からの贈り物だという人間もいたが、同時に悪戯だと呼称する者もいた。
    いつしか、魔法師の中でも特異的な存在となった彼らは、禁忌(タブー)と呼ばれるようになった。
    現在、西暦二〇九五年でもいまだに魔法師の中では特異的な存在である彼らは、密かに暮らす。魔法師よりも厳重な国の管理の元、彼らはひっそりと檻の中からこの世界を見ていた。

    ***

     キリスト教の正典である聖書の中では、七つの罪源について直接の言及はなく、四世紀のエジプトの修道士、エヴァグリオス・ポンティコスの著者、修行論に八つの人間一般の想念として描かれたのが、七つの大罪である。
    「それならば、一科生の罪は傲慢でしょう」
     倒れ伏した服部を見つめ、達也は冷静に言った。
     魔法による実力を第一と考える第一高校では、魔法の実技成績が芳しくない生徒を雑草(ウィード)、優秀な生徒を花冠(ブルーム)と呼ぶ忌まわしき風潮があった。誰も彼もがその呼称を使う訳ではなかったが、少なからずその優越感と劣等感に浸る生徒は過半数を占めていた。
     今、達也に模擬線を仕掛けて負かされた相手‐服部もそのうちの一人であると言えるだろう。彼は実家が百家の支流ではあるものの無名に近い家の生まれであるからこそ、人一倍の努力を積み重ね、それ相応の力というものを身に着けてきた。ゆえに、第一高校入学以来、今この時まで無敗を誇っていた。
     彼のプライドが打ち砕かれたか、と言われると少し疑問は残るだろう。一度閉じた瞼の裏には、小さな炎が灯っている。
    「実技試験における魔法力の評価は、魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まるっ・・・」
     足元をふらつかせ、肩を壁に寄せてなんとか立ち上がろうとするその姿は、美しいと称賛できる。達也は小さな笑みを浮かべ、彼に手を差し伸べた。
    「成程・・・テストが本当の能力を示していないとは、こういう事かっ・・・」
    「わかっていただけたようで、何よりです。刑部さん」
     先ほどまでの殺伐とした空気が嘘の様に軽くなり、服部は自嘲を浮かべながらも達也の手を取った。
    「俺がどうやら、勝手に勘違いをしていたようだな・・・お前に対する評価を見誤っていた。謝罪する」
     ズボンについた埃を叩き落とし、そのまま服部は達也に頭を下げる。しかし、達也はその謝罪に対して不服そうな表情を浮かべた。
    「俺が二科生であることに、違いはありませんけどね」
    「お前の場合、取られている(・・・・・・)、という可能性も否めなくはないな」
     服部はそう言って肩を竦めた。
     置き去りにされたのは、二人の模擬戦の行く末を見守っていた生徒会のメンバーである。特に、二人の対立を入学式初日から見ていた七草は、愕然としていた。
     一体いつ、この二人は打ち解けあったのかと。
     けれど、その答えを二人がここで言及することはなかった。それどころかはぐらかして無かったことにまでして見せる始末である。これにはさすがの七草も言葉を失くしたが、今がその時ではない、ということで自分を納得させることにした。

     答えが出たのは、そこから数日経った日のことであった。
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