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    Enki_Aquarius

    @Enki_Aquarius

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    Enki_Aquarius

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    「わかった。もういい」
     そう言った後輩の表情は、いつも以上に凪いでいて、酷く言えば何も浮かべていなかった。ただ、その瞳だけは悠然と心情を語っているように冷たくなっており、彼が激怒していることを容易に伝えた。
     冷たい声に、張り付いた無表情。そして冷たさすらも通り越し、永久凍土すらも想像できてしまう瞳。
     それは九校戦中日のとある一日の始まりの出来事。
     最初にその電話を取ったのは、第一高校の生徒会長を務める七草であった。
     朝食を取る場所に備え付けられている固定電話機は、基本的にホテルの管理者から、その場に居る者へ何か連絡がある場合のみ使用される。例えば、宿泊者宛の荷物が届いた時。例えば、夕食について何か相談事がある時。
     基本的に、一個人に対しての連絡が来ることはない。それこそ、家族に何かしらの事情があった場合くらいだろうが、その場合はホテル側から連絡が来るよりも、各々が持っている連絡器を使った方が早い。
     つまり、固定電話機を使ってまで個人に連絡が来ることはないに等しい、という訳である。
     だからこそ、その朝も七草は固定電話機の着信を耳にすると率先して立ち上がり、受話器を取った。
    「はい、第一高校の七草です」
     十師族の令嬢ゆえ、不測の事態への備えは心得ている。特別焦る様子もなく、完璧な対応で受話器を取った彼女を、生徒たちは特別な感情を持つことなく一瞥し、すぐに朝食を再開した。
     さて、本日の要件はなんだろうか。
    「え・・・?」
     そう、思っていたのに。
     それを撤回させ、生徒たちを再び七草へと注目させたのは、彼女の驚くような声。そこから不安そうな表情。
     受話器が一度下ろされ、七草はこの部屋の中でもかなり端の方で朝食を取っていた後輩‐司波達也を呼んだ。
    「達也君、国防陸軍の少尉さんからお電話が・・・」
     この発言は、端にいる達也にも伝わるように発せられた。つまり、この部屋にいる者全員に伝わるように響いたと言う訳である。ともあれば、その発言は瞬く間に広がり、皆の顔を顰めさせた。
     司波達也という生徒は、今この部屋の中にいる生徒たちの中では、異端にあたる。異例の抜擢で九校戦へと参加しているこの生徒は、一部の生徒からは異様な目で見られている。
     そんな、いい意味でも悪い意味でも目立つ彼。
     七草から受話器を受け取り、受け答える頃には皆の朝食を取る手は止まっていた。
    「変わりました。司波です」
     淡々とした受け答えに、一部の者は意外そうな表情を見せた。というのも、彼個人が軍との接点を持っているとは、誰も思って入なかったからだ。ゆえに、表情の変化が乏しい彼でも、多少なりとも緊張は見せるだろうと予想していた。
     が、その予想は覆された。
     彼は異常なほどに冷静に受け答えし、何かを聞いていた。残念ながら受話器からの声を聴くことはできない。が、彼が一向に口を開こうとしない所を見れば、一方的に何かを言われているのだろう。
     表情の変化はなくとも、その一方的な状況に少なからず笑う者がいた。達也を、悪く思う者たちだ。それは近くで食事を取っていた妹‐司波深雪の表情を歪めるには十分すぎるものだったが、彼女も通話中のためか声を荒げることはなかった。
     ただじっと、終わる時を待っていた。
     とはいっても、彼をよく知る者たちはその情景を不思議に思っていた。トラブルメーカーというと彼は否定するだろうが、よくトラブルに愛される彼ではあるが、何も不真面目な生徒ではない。人に迷惑をかけるようなことを率先するタイプでもないため、軍から何かお咎めを喰らうとは想像ができない。
     では、一体何を一方的に言われているのか。
     疑問が脳にいっぱいにたまったところで、

    「わかった。もういい」

     彼のその冷たい一言が放たれた。
     妹の為に起こることはあれど、自らのことで怒ることをしない彼にしては、珍しい一面である。しかも、妹を侮辱された時よりも、冷たい、氷のような怒りであった。
     しかし、続いた言葉に今度こそ周りは耳を疑うことになる。それは、本当に自分たちが知っている彼であるのだろうか。その疑問を浮上させるには十分すぎる言葉。
     冷たい、槍が、自らに向けられていないというのに、刺さる。
    「貴様らの実力がないことは今に始まったことではない。ゆえに、期待などしていなかったが・・・ここまで使えないとは」
    「一体、貴様らは何がしたいのだ?それでお役に立てるのであれば・・・と?」
    「本気で言っているのなら今すぐにでも口を塞げ。戦場で盾となり、屍になった方がましだ」
     今すぐにでも、盾が必要な戦地をリストアップしておこう。その一言で通話は一方的に切られ、荒々しく受話器は固定電話機へと戻された。

    ***以下設定***

    軍内部で秘密裏に設立された諜報部を統括するお兄様が書きたかっただけ。入学編あたりは旨くやるけど、新設ゆえにぼろが出始め、九校戦編でちょこちょこその片鱗が出始める。
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